上 下
27 / 95
第六章 多々良さん探し 開始

多々良さんとお昼ごはん(1)

しおりを挟む


 多々良さんと出会って、最初の記憶。
 
 たった一つの、確かな多々良さんとの、思い出を、目の前の少女に話し終えた。
 
「ん? じゃあ、ここでお昼ご飯を一緒に食べてるキミは誰? 幽霊?」


  多々良さんは卵焼きを頬張りながら聞く。

  平和なお昼ご飯の時間だった。

  多々良さんと二人きりのごはん。

  彼女はお手製らしいお弁当で、僕は購買で買ったパンという家庭的な差が顕著に表れたようなお昼ご飯でもあった。
 

「いえ、下に併設されている建物があって、それに落ちただけで済んだんです。全身を打ちましたけど、命に別状はありませんでしたよ。お握り美味しいです」

  セーラー服の多々良さんは今日も完璧である。
  初めて、僕と会った多々良さんが、目の前で一緒にお昼ご飯を食べている多々良さんかどうかは、分からない。どうやらこの話は初めて聞いたようだから、目の前の多々良さんは、初めて会った多々良さんではないのだろう。

  多分、というあやふやな結論は、僕が多々良さんの顔を認識できないからである。

 「あ、そっか。ちょっとキミの話が良いところで終わっちゃったから、てっきり死んじゃったものかと勘違いしちゃった」
 「お茶目さんですね、多々良さんは」
 「てへ」

  たいへん愛くるしいしぐさで多々良さんは冗談を言う。

  この多々良さんが、多々良三姉妹のうちの、どの多々良さんなのかは把握できていない。

 「ねぇ、あーんしてあげようか」

  いたずらっ子のような言い方で、多々良さんは僕に卵焼きを差し出してくる。


 「そ、そんなカップルみたいなことできません! 破廉恥! 破廉恥です多々良さん!」
 「真顔でよく言うよ」

  若干呆れたように多々良さんは言う。
 黄色い塊が突き刺さったフォークは、僕の口の前で綺麗にドリフトし、多々良さんの口の中に吸い込まれていった。
  
 少し、少しだけ残念である。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

港までの道程

紫 李鳥
ミステリー
港町にある、〈玄三庵〉という蕎麦屋に、峰子という女が働いていた。峰子は、毎日同じ絣の着物を着ていたが、そのことを恥じるでもなく、いつも明るく客をもてなしていた。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

処理中です...