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第六章 多々良さん探し 開始
多々良さんとお昼ごはん(1)
しおりを挟む多々良さんと出会って、最初の記憶。
たった一つの、確かな多々良さんとの、思い出を、目の前の少女に話し終えた。
「ん? じゃあ、ここでお昼ご飯を一緒に食べてるキミは誰? 幽霊?」
多々良さんは卵焼きを頬張りながら聞く。
平和なお昼ご飯の時間だった。
多々良さんと二人きりのごはん。
彼女はお手製らしいお弁当で、僕は購買で買ったパンという家庭的な差が顕著に表れたようなお昼ご飯でもあった。
「いえ、下に併設されている建物があって、それに落ちただけで済んだんです。全身を打ちましたけど、命に別状はありませんでしたよ。お握り美味しいです」
セーラー服の多々良さんは今日も完璧である。
初めて、僕と会った多々良さんが、目の前で一緒にお昼ご飯を食べている多々良さんかどうかは、分からない。どうやらこの話は初めて聞いたようだから、目の前の多々良さんは、初めて会った多々良さんではないのだろう。
多分、というあやふやな結論は、僕が多々良さんの顔を認識できないからである。
「あ、そっか。ちょっとキミの話が良いところで終わっちゃったから、てっきり死んじゃったものかと勘違いしちゃった」
「お茶目さんですね、多々良さんは」
「てへ」
たいへん愛くるしいしぐさで多々良さんは冗談を言う。
この多々良さんが、多々良三姉妹のうちの、どの多々良さんなのかは把握できていない。
「ねぇ、あーんしてあげようか」
いたずらっ子のような言い方で、多々良さんは僕に卵焼きを差し出してくる。
「そ、そんなカップルみたいなことできません! 破廉恥! 破廉恥です多々良さん!」
「真顔でよく言うよ」
若干呆れたように多々良さんは言う。
黄色い塊が突き刺さったフォークは、僕の口の前で綺麗にドリフトし、多々良さんの口の中に吸い込まれていった。
少し、少しだけ残念である。
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