上 下
56 / 109
第三章 最後の攻略者襲来!

俺様、何様? 王子様!(5)

しおりを挟む
 

 譲れない押し問答。
 未だ椅子に座るディオン様は、小さくため息をついた後、立ち上がり、私のほうまで詰め寄っ
た。

 一歩進めば、ディオン様にぶつかってしまいそうな距離だ。
 威圧だとでもいうのだろうか。

 三次元のイケメンなれしてない私にとっては、ただ恐ろしい。
 クルト君より少し低めの背だが、私を上から殴るには十分のリーチである。

「なんなんですか」 

「言え」

 ぐい、と引き寄せられたのは腰。
 右手は彼の左手に掴まれて。

 まるで、ダンスを踊るときのような、格好。

「あ……な……え?」

 がっしりと腰はディオン様の腕にホールドされている。
 青い瞳は、真っすぐ、私の瞳を見つめている。

 透き通るようなその色に、一瞬、思考を忘れる。
 いや、もう何にも考えられない。

 ここまで密着したのは、愛ちゃんに無理やり走らされたとき以来だ。あの時は、ほとんど事故だった。今は、ディオン様の意思で。

 顔がほてってくるのがわかる。
 いやだ、また、泣きそうになる。


「言え」

「ふぃ、フィリ」

 私は今、何て言った?

「愛称じゃなくて、本名を言え」

「スイナーク・フィリベルト……」

 今、私は、自分が助かりたい一心で、ついさっきまで一緒にいた男の子の名前を口に出した。なんて、なんて嫌な女なのだろう。

 ごめん、フィリ。

「スイナーク……珍しい名前だな……」

 密着した体制を崩さないまま、ディオン様は思考を始める。
 正直、もう、開放してほしい。

 でないと、本当に、泣き出してしまいそうだ。

「はな……はなし……」

 ダメだ、衝撃からろれつが回らない。
 否定の言葉も出ない。

 というか、防御魔法が作動しないのは―――なんで!

「ああ、一年生の妖精交じりか。あいつか……」

 思い出したかのように言うディオン様は、ぐい、とさらに私に近づく。
 くっついた状態で、さらに。

 頭の中にある何かがキレた。

「う、わあああああああああああああ!」

 目の前の金髪王子を突き飛ばす。どこにそんな力があったかわからないけれど、王子は床に尻餅をついた。

「お、お前、いきなり」

 本棚にあった手頃な本をディオン様に投げつける。手当たりしだい、なくなったら次の棚、だ。

「やめ、やめろ!」

 突如、どこからか鳴り響く警告音。

 女性の声を伴ったそれは、大音量で流れ出す。



『ディオン様、変態。ディオン様、校舎内で、変態行為。ディオン様、ディオン様、課題三倍、ディオン様七歳、してしまったおねしょを、クルト様のせいにしようとして、失敗。ディオン様九歳、木登りの最中、落下。お姫様抱っこでクルト様に受け止められる。ディオン様……』


 流れ出した音は、生徒会から、少なくとも生徒会室があるこの建物いっぱいに鳴り響くほどの音
だ。延々と、ディオン様の恥ずかしい出来事を喋っている。
 その声は、エッラさんとエッタさんの声だ。

「ぼ、防御魔法って、これ?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

水鳥楓椛
恋愛
 わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。  なんでそんなことが分かるかって?  それはわたくしに前世の記憶があるから。  婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?  でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。  だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。  さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

悪役令嬢の居場所。

葉叶
恋愛
私だけの居場所。 他の誰かの代わりとかじゃなく 私だけの場所 私はそんな居場所が欲しい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。 ※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。 ※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。 ※完結しました!番外編執筆中です。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

処理中です...