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第三章 最後の攻略者襲来!
俺様、何様? 王子様!(5)
しおりを挟む譲れない押し問答。
未だ椅子に座るディオン様は、小さくため息をついた後、立ち上がり、私のほうまで詰め寄っ
た。
一歩進めば、ディオン様にぶつかってしまいそうな距離だ。
威圧だとでもいうのだろうか。
三次元のイケメンなれしてない私にとっては、ただ恐ろしい。
クルト君より少し低めの背だが、私を上から殴るには十分のリーチである。
「なんなんですか」
「言え」
ぐい、と引き寄せられたのは腰。
右手は彼の左手に掴まれて。
まるで、ダンスを踊るときのような、格好。
「あ……な……え?」
がっしりと腰はディオン様の腕にホールドされている。
青い瞳は、真っすぐ、私の瞳を見つめている。
透き通るようなその色に、一瞬、思考を忘れる。
いや、もう何にも考えられない。
ここまで密着したのは、愛ちゃんに無理やり走らされたとき以来だ。あの時は、ほとんど事故だった。今は、ディオン様の意思で。
顔がほてってくるのがわかる。
いやだ、また、泣きそうになる。
「言え」
「ふぃ、フィリ」
私は今、何て言った?
「愛称じゃなくて、本名を言え」
「スイナーク・フィリベルト……」
今、私は、自分が助かりたい一心で、ついさっきまで一緒にいた男の子の名前を口に出した。なんて、なんて嫌な女なのだろう。
ごめん、フィリ。
「スイナーク……珍しい名前だな……」
密着した体制を崩さないまま、ディオン様は思考を始める。
正直、もう、開放してほしい。
でないと、本当に、泣き出してしまいそうだ。
「はな……はなし……」
ダメだ、衝撃からろれつが回らない。
否定の言葉も出ない。
というか、防御魔法が作動しないのは―――なんで!
「ああ、一年生の妖精交じりか。あいつか……」
思い出したかのように言うディオン様は、ぐい、とさらに私に近づく。
くっついた状態で、さらに。
頭の中にある何かがキレた。
「う、わあああああああああああああ!」
目の前の金髪王子を突き飛ばす。どこにそんな力があったかわからないけれど、王子は床に尻餅をついた。
「お、お前、いきなり」
本棚にあった手頃な本をディオン様に投げつける。手当たりしだい、なくなったら次の棚、だ。
「やめ、やめろ!」
突如、どこからか鳴り響く警告音。
女性の声を伴ったそれは、大音量で流れ出す。
『ディオン様、変態。ディオン様、校舎内で、変態行為。ディオン様、ディオン様、課題三倍、ディオン様七歳、してしまったおねしょを、クルト様のせいにしようとして、失敗。ディオン様九歳、木登りの最中、落下。お姫様抱っこでクルト様に受け止められる。ディオン様……』
流れ出した音は、生徒会から、少なくとも生徒会室があるこの建物いっぱいに鳴り響くほどの音
だ。延々と、ディオン様の恥ずかしい出来事を喋っている。
その声は、エッラさんとエッタさんの声だ。
「ぼ、防御魔法って、これ?」
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