嘘つき山猫は赤面症

nyakachi

文字の大きさ
上 下
18 / 37
手負いのあの子は懐きにくい

触れそうで触れない

しおりを挟む
ここに来てようやっと警戒度が下がったのか、律がソファーに沈み込むように体を預けた。
体より大きめのパーカーを着こみ、背もたれに抱きつくように座するせいか、引っ張られて体のラインを浮き彫りにしていた。

しかも、立っているせいか相手を見ようとすると目線が下がり、上から谷間が覗けてしまう。

一部が熱を持ちそうな気配がしたので慌ててその場に腰を下ろした。

「忘れ物ってどんなものですか?」
ああ、そういう口実だったな。

ポケットにあるソレを思い浮かべ、さも大事そうな品物であることを匂わせる。
ついでにこれを口実にしないと会ってくれない、他意はないアピールをすると、ほんのり頬が赤くなって謝られた。

慌ててごそごそと失せ物探しをする律に、罪悪感を抱きながら今日は早々に帰ろうとこっそりとニセ失せ物を用意する。

「……ああ、あったみたいだ。」
振り替えった律に手のひらにのせたなんの変哲もない、それこそ何の思い入れもないクリップ形のネクタイピンを見せる。

良かった、と肩を下ろし笑顔をくれた。

距離が近いせいか、律の薫りがする気がする。

つばの代わりお茶を飲み干すと、律がじっと見てくる。

やましい気持ちと罪悪感が頭をもたげる。

疑ってる?

「なんかしつれーなこと考えてるだろ」

「いや、何もー。」
あからさまにうろたえる律に、今日はここまでにしようと、当初の目的を思い出す。

あった!

置かれたスマホにちょっとためらうが、ロックがかかってないのを確認して電話帳へと自分を登録する。

ついでにワン切り空メール操作もしておけば、自分のスマホににも登録ができる。

一連の操作を終えて返却するとまさかの名前を読み間違えられる。

フリガナもちゃんと入力したし、名前も名乗ったぞ!
俺はちゃんと覚えてるのに!

警戒心はどこいった?

「大丈夫です!」
いや、大丈夫じゃないから!
俺も含めてもうちょっと警戒度を上げてくれ。

目的を果たしたことだし、と荷物を持ち立ち上がる。
「ーー邪魔したな。お茶も美味かった」

ぽんぽん

何気なく。
意識してではなく、見上げてきた律の頭に手を乗せーーー



フリーズされた。
しおりを挟む

処理中です...