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空白を埋めるように(1)

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「ユリビス──……っ!」

 皇宮の正門の前で到着を待ち構えていたクララは、ライオネルがユリビスを抱えながら馬車から降りてくると側へ駆け寄った。

「ユリビス、無事でよかったぁ……っ」
「ん……? お母さん……?」

 ユリビスが薄らと目を開ける。その瞳は大衆的な茶色ではなく、帝国で最も高貴な色をしていた。

(瞳が元に戻って……! ううん、そんなことどうだっていいっ!)

「守ってあげられなくてごめんね……っ、ユリビス愛してる」

 丸い柔な頬を包み込み、額にキスをした。

「大丈夫だよ。殿下が来てくれたもん。お母さん泣かないで。鼻が、まっかに、なっちゃう、よ……」

 ユリビスはそのまま再び眠ってしまった。

「ユリビスを休ませよう。ゾア、頼んだ」
「かしこまりました」

 ライオネルはそばについていたゾアードにユリビスを託す。そして止まらない涙をハンカチで拭うクララを抱き上げた。

「殿下?」
「クララもあまり休めていないとゾアから聞いてる。それに…………」

 急に黙り込んだライオネルの顔を伺うと、口角を上げて、にっこりと弧を描く目と視線があった。
 笑ってはいるけれど、笑ってない。完全に笑ってない。

 拭っても止まらなかった涙が、一瞬で引っ込んだ。

「俺に何か言うことがあるよね?」

(ああああああっ……)

 まるで地獄へ続く扉の前に立たされたような気分だった。

 何も言えず、ライオネルに運ばれるがまま皇宮内を進む。ライオネルの足が長いからか、筋力があるからか、異様に歩くのが早い。

(怒ってる……すっっっごく怒ってるわ。ユリビスが殿下の子だということは、瞳を見れば一目瞭然だもの。もう、何も言い逃れできない……)

 全身に拘束具をつけられて監禁される絵図が、ぼんやりと頭の中に浮かんだ。

 部屋に運ばれるのかと思いきや、着いたのは神聖宮だった。
 皇宮の端にひっそりと佇む神聖宮は、神殿と良好な関係を築くために作られた、女神像のある静かな場所だ。皇宮勤めの人たちは激務で祈りを捧げる暇もないらしく、ほとんど人が寄りつかない。

 ライオネルは女神像の前にある祭壇に、クララを降ろした。
 徐ろに簡易ドレスの裾を持ちたくし上げる。

「で、殿下! いきなり何を……!」

 神聖なる場所で肌を晒すなんて。
 しかし男の力には敵わず、胸下まで裾がまくれあがってしまう。

 ライオネルはクララの薄い腹を労わるように撫でた。そして恭しく臍の下に唇を落とす。

「女神よ。俺とクララに宝物を授けてくれてありがとう」
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