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全てがかみあう(ライオネル視点)(2)
しおりを挟む庭園や馬舎などを周辺をくまなく探し、最後に古びた倉庫にやってきた。幾重にもかけられた鎖を剣で叩き切る。
「ユリビス!」
勢いよく扉を開け、中に入る。
暗闇のなかには怯えた様子の一切ない、平然としたユリビスが座っていた。
「殿下、待ってたよ!」
さも来ることがわかっていたかのような態度に、ライオネルが呆気に取られる。
ユリビスはライオネルに駆け寄り、ぎゅうっと足元にしがみついた。
開かれた扉から差し込む光に照らされて、ユリビスの髪が金色に輝く。
「ユリビス……?」
「なあに、殿下。僕ここ嫌い。早く、お母さんのところへ帰ろうよ!」
暗闇では気がつかなかった。
ニカっと太陽のように笑うユリビスの瞳は、紫と金に輝いている。
自分と同じ、紫水晶の色──。
ライオネルは一瞬目を丸くし、すぐに破顔した。
「はは、そうか。そういうことかぁ……」
複雑なパズルのピースがカチッと合わさる、そんな感覚だった。
ライオネルはユリビスを軽々と抱き上げた。
「そうだね、クララが待ちくたびれてる。俺も早くクララに会いたいよ」
「だめーっ、僕が最初にお母さんにぎゅうしてもらうからっ!」
「じゃあユリビスごとクララを抱きしめようかな。それならいいでしょ?」
まだ五歳の小さな体を抱きしめる。
──クララが腹を痛めて産み、大切に育てたユリビスという命。その命の重さを痛感する。
「ユリビス、無事でよかった」
「うん! 殿下が来てくれるって、信じてたんだ」
ユリビスは泣きもせず、明るい声で元気よく振る舞っていた。けれどさすがに不衛生な場所で監禁されていた五歳の体は、かなり疲弊しているようだった。
馬車まで移動する道中、ライオネルの腕の中で、うつらうつらとし始める。
「ゆっくり休んで。起きたらユリビスの好きな果実水を用意しておいてやるから。一緒に飲もう」
「うん、約束だよ……」
柔らかくて未熟な、今にも壊れてしまいそうな体を抱きしめ、大切に運んだ。
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