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強行突破、再び(2)

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(夜にどこに連れていくっていうの……)

 着替えが終わり、女官に手を引かれながら何処かへ連れていかれる。
 初めて皇宮へ来たときも、頭に麻袋を被せられ、手枷の鎖を引かれながら歩いた。六年前の記憶を思い返しながら、クララは背筋を伸ばして歩く。

「ライオネル殿下、クララ様をお連れしました」
「ご苦労。下がっていいよ」
「はい」

 小さな女性の手から、大きくてあたたかな手の感触に変わる。

「殿下……?」
「クララ。あぁ、この日をどれだけ待ち侘びたか」
「あの? そろそろ説明していただいても?」

 ライオネルのうっとりする声が聞こえたが、クララは何のことやらわからない。

 ギギギ……という重たい扉が開く音が聞こえて、ライオネルに手を引かれる。

「大丈夫、俺についてきて」

 クララは導かれるまま、歩いた。
 コツコツと大理石の床が鳴る。
 聖域へ向かう洞窟を歩いたときと同じ、なんだか怖いようなそわそわするような不思議な感覚だった。

 ライオネルが足を止めたので、クララも立ち止まる。

「クララ」

 ライオネルの手が目隠しにかかり、結び目を解かれた。頭にはベールをかけられており、目の前のライオネルの麗しいかんばせしか視界に映らない。

「殿下?」
「とっても綺麗だよ」
「はぁ……殿下のほうがお綺麗です」

 目がチカチカとしてしまいそうな煌びやかなシャンパンゴールドの衣装に身を包んだライオネルは、まさに皇子様という格好をしていた。

(眩しい……)

 ライオネルの美貌も合わさり、まるで発光しているのではと思うほど眩かった。

「コホン。えー、では婚約式を執り行います。まず、第二皇子ライオネル・イヴ・ビアト殿下。貴方は──」

(はぁあっ?!)

 突然聞こえた掠れた声に、顔を横に向けると大神官様が婚約宣誓の儀を執り行っている。
 また反対方向へ視線を向けると、会場を埋め尽くすほどの貴族たちが参列していた。

 ふるふると足が震える。

(う、嘘でしょ……私と殿下の婚約式だなんて!!)

 あまりの衝撃に立ちくらみがしそうだ。しかししっかりとライオネルに両手を握られており、倒れることすら許されない。

「聖女クララ、第二皇子ライオネル・イヴ・ビアト殿下を婚約者として認めますか?」
「………………」
「聖女クララ?」

 絶対に認めたくない……いや、認めてはいけないのに、そう言えない状況下に置かれて押し黙る。

(どうしようどうしようどうしよう──!)

「クララ」

 力強く手を握りしめられて、ハッと前を向く。
 ライオネルの紫瞳が柔く微笑んだ。そしてゆっくりと口元が動く。

 ──きょ、う、こ、う、と、っぱ。

 幸せそうな満面の笑みを浮かべるライオネルに、何も考えられない。

「みとめ……ます……」

 クララの承諾に、会場からは祝福の拍手が盛大に送られた。

 ベールをかぶっていて良かった。そうでなければ、今きっとクララは死人のような顔をしている。

(あぁ、いっそのこと倒れてしまいたい。夢であって──)

 ライオネルにしっかりと腰を抱えられながら、拍手の中に埋もれていった。



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