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旅立ちと再会(2)
しおりを挟む「大丈夫よ、ユリビス」
クララは腹の奥に力を込めて、笑顔を作った。
守ってくれる人は誰もいない。ユリビスと自分を守れるのは自分だけ。
手が震えている。こんな悪意のある視線で見られたことがなくて、怖い。
──下を向かないで。堂々と胸を張って。
神殿勤めしていたときに毎日呟いていた、魔法の言葉を思い出す。
クララは顔を上げて、男たちと向き合った。
「あなた方に用などありません。お引き取りください」
「子供と二人旅なんて苦労も多いだろ? 俺たちが手伝ってやるって言ってんだ。なぁ?」
「くくくっ……」
「結構です」
じりじりと詰め寄ってくる男たちに、自然と後退る。
クララはいつでも攻撃できるよう、体の内部に神聖力を集約させた。
あまり街中で目立つ行為はしたくなかったが、正当防衛なら致し方ない。
「失礼、何かトラブルか?」
豪奢な騎士服に身を包んだ男性が間に割って入る。胸にはいくつも紋章がついており、それなりの地位にある騎士だと思われた。腰には剣を提げている。
「チッ……」
位の高い騎士だということを察した男たちは、悪態をつきながらもその場から立ち去った。さすがに警備の目があるところで悪さはできないのだろう。
クララは力を抜き、集めていた神聖力を解いた。
「騎士様、ありがとうございました」
軽く頭を下げて、足早に立ち去ろうとユリビスの手を握った。
「貴女はもしかして……」
その言葉にドクンと胸が騒ぐ。
この場所は北部の神殿にも通じる街道のある、小さな街だ。聖女クララの顔を知っている者がいてもおかしくはない。
(逃げなきゃ……!)
クララはユリビスを抱きかかえ、走り出した。
「あ、ちょっと……!」
慌てて呼び止める騎士の声が後方から聞こえたが、止まる気はない。
早く身を隠せる場所へ逃げないとと、クララはひたすら足を動かした。
「きゃあっ!」
「危ない!」
突然目の前に現れた人影に気づかず思いきりぶつかってしまう。
反動で転びそうになったクララを、ユリビスごと抱き留めて支えてくれた。その瞬間、衝撃で被っていたフードが取れて、緩やかな青髪が宙を舞った。
「ごめんなさいっ」
「……クララ?」
「え」
顔面を曝け出していたことに気づいて、青ざめる。
(うそ、正体がバレて……っ)
慌てて上を向くと、美しい紫水晶の光があった。見慣れているはずなのに、どこか懐かしく感じる色合いに、心臓が早鐘を打つ。
「…………!!」
聖域にいる間もずっと胸の内に想っていた、ライオネル皇子殿下だった。
最後に見たときと、なんら変わりない麗しいかんばせを見て、ドキドキと胸が高鳴る。
「殿下……」
「会いたかった……。あなたが聖域から出てくる日をずっと待っていたよ」
頬に手を添えられ、まじまじと見つめられる。クララに向けるライオネルの視線は、まるで宝物を見つめるかのような甘やかな瞳だった。
「お母さん、この人はだあれ?」
ユリビスの声にハッと現実に戻る。
ユリビスが視界に入っていなかったのか、ライオネルは一転して顔を歪ませた。
「お母さん……?」
(ああああぁっ、まずい!!)
一番会ってはいけない人に、出立早々に再会してしまうだなんて──!
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