執着系皇子に捕まってる場合じゃないんです!聖女はシークレットベビーをこっそり子育て中

鶴れり

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欠陥聖女クララ(4)

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「そうだ、さっきの質問。俺に会ったこと、わからない?」

 見事に聞きたいことをスルーされてしまった。
 仕方なく諦めて問いに答える。

「何度も思い出してみましたが、私は殿下に聖女の儀でしかお会いしておりません。そもそも私は神殿に入ってから一度も外へ出ていないので、お会いすることはないはずです」
「そうか、そうだよね。さすがにわからないか」

 ライオネルは残念そうな声で呟くと、クララの手の指を絡めて繋いでくる。
 まるで恋人のような距離感に、クララはどうしていいかわからず、あたふたとしてしまった。

「あのっ、殿下……!」
「そんな堅苦しく殿下なんて言わないで。ライって呼んでよ」
「なっ! む、無理です……!」
「どうして? 無理じゃない。クララには可愛い唇があるんだから呼べるはずだよ」

 じっと見つめられたかと思うと、指で下唇をふにふにと弄られる。

(もうなんなの! わけがわからないっ! 女神様、夢ならもう十分ですから起こしてくださいいぃ……!)

 二十年間、男性と触れ合うなんて一切経験がなかった。クララのキャパシティをすでにオーバーしてしまっている。

 クララに聖女として生きる道筋を示してくれた、初恋の男性──ライオネルに七年ぶりに会ったかと思えば、こんなに密に触れてきて、純真無垢なクララは翻弄されっぱなしである。

 これ以上は無理……! とぎゅうっと目を閉ざした。

「顔真っ赤にして……可愛い。これってキスしていい合図かな。読んでた小説にキスシーンでもあった?」
「違いますっ!」

 バチッと目を見開く。
 高尚な第二皇子と口づけて良いはずがない。そこまでクララは身の程知らずではなかった。

「違ったか。でもせっかくだし、このままキスしてみる?」
「だっ、だめです! 皇子殿下なのですから、そういったことは相応しいご令嬢となさってください!」

 グイグイと距離を詰めてくるライオネルの胸を突っぱねる。
 この男性は皇族としての自覚はないのだろうか。一体どんな皇族教育を受けてきたのか……。この国の未来が心配になる。

「相応しいご令嬢……君のことでしょ?」
「殿下、頭をぶつけてしまわれたのですね……! よろしければ神聖力で治癒いたしましょうか!」
「ううん、至って健康体だよ」
「では、今殿下はどうやら血迷っておいでです。私は聖女ですが出自は平民です。ご令嬢とは程遠い人間です!」
「そんなこと気にしていたの? 関係ないよ」
「いやいや、関係大アリです!」

 全く話が通じない……!
 なんとかライオネルの暴走を抑えようと、クララは必死に説得する。

「それにそもそも聖女の婚姻や男性との接触は、神殿の許可がないとしてはいけないという規則があります!」

 クララは一番説得力のある言葉を投げかけた。

 聖女は女神の遣いであり、神聖な存在として扱われる。そのため、有力貴族は聖女の血を一族に取り込もうと、聖女との政略結婚を望むケースが多い。

 帝国の貴族社会にはヒエラルキーがあり、いくつか派閥が存在する。
 権力の偏りを防ぐという目的もあって、聖女の婚姻や異性関係は神殿の総意で決められる。それはたとえ皇族であっても、干渉はできないのだ。

 ここまで言えばさすがにわかってくれたはず。
 クララは力強く顔を上げた。

「クララが聖女なら……ね」

 ライオネルが整った顔で綺麗に笑っている。
 その含みのある笑顔に、ぞわっと悪寒がした。

「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ」
「わかりません……」

(もしかして……)

 クララは必死に首を振る。
 嫌だ、聞きたくない──。

「聖女の称号を失ったら、君はただのクララだ。ほら、何も問題ないよ」




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