4 / 49
欠陥聖女クララ(4)
しおりを挟む
「そうだ、さっきの質問。俺に会ったこと、わからない?」
見事に聞きたいことをスルーされてしまった。
仕方なく諦めて問いに答える。
「何度も思い出してみましたが、私は殿下に聖女の儀でしかお会いしておりません。そもそも私は神殿に入ってから一度も外へ出ていないので、お会いすることはないはずです」
「そうか、そうだよね。さすがにわからないか」
ライオネルは残念そうな声で呟くと、クララの手の指を絡めて繋いでくる。
まるで恋人のような距離感に、クララはどうしていいかわからず、あたふたとしてしまった。
「あのっ、殿下……!」
「そんな堅苦しく殿下なんて言わないで。ライって呼んでよ」
「なっ! む、無理です……!」
「どうして? 無理じゃない。クララには可愛い唇があるんだから呼べるはずだよ」
じっと見つめられたかと思うと、指で下唇をふにふにと弄られる。
(もうなんなの! わけがわからないっ! 女神様、夢ならもう十分ですから起こしてくださいいぃ……!)
二十年間、男性と触れ合うなんて一切経験がなかった。クララのキャパシティをすでにオーバーしてしまっている。
クララに聖女として生きる道筋を示してくれた、初恋の男性──ライオネルに七年ぶりに会ったかと思えば、こんなに密に触れてきて、純真無垢なクララは翻弄されっぱなしである。
これ以上は無理……! とぎゅうっと目を閉ざした。
「顔真っ赤にして……可愛い。これってキスしていい合図かな。読んでた小説にキスシーンでもあった?」
「違いますっ!」
バチッと目を見開く。
高尚な第二皇子と口づけて良いはずがない。そこまでクララは身の程知らずではなかった。
「違ったか。でもせっかくだし、このままキスしてみる?」
「だっ、だめです! 皇子殿下なのですから、そういったことは相応しいご令嬢となさってください!」
グイグイと距離を詰めてくるライオネルの胸を突っぱねる。
この男性は皇族としての自覚はないのだろうか。一体どんな皇族教育を受けてきたのか……。この国の未来が心配になる。
「相応しいご令嬢……君のことでしょ?」
「殿下、頭をぶつけてしまわれたのですね……! よろしければ神聖力で治癒いたしましょうか!」
「ううん、至って健康体だよ」
「では、今殿下はどうやら血迷っておいでです。私は聖女ですが出自は平民です。ご令嬢とは程遠い人間です!」
「そんなこと気にしていたの? 関係ないよ」
「いやいや、関係大アリです!」
全く話が通じない……!
なんとかライオネルの暴走を抑えようと、クララは必死に説得する。
「それにそもそも聖女の婚姻や男性との接触は、神殿の許可がないとしてはいけないという規則があります!」
クララは一番説得力のある言葉を投げかけた。
聖女は女神の遣いであり、神聖な存在として扱われる。そのため、有力貴族は聖女の血を一族に取り込もうと、聖女との政略結婚を望むケースが多い。
帝国の貴族社会にはヒエラルキーがあり、いくつか派閥が存在する。
権力の偏りを防ぐという目的もあって、聖女の婚姻や異性関係は神殿の総意で決められる。それはたとえ皇族であっても、干渉はできないのだ。
ここまで言えばさすがにわかってくれたはず。
クララは力強く顔を上げた。
「クララが聖女なら……ね」
ライオネルが整った顔で綺麗に笑っている。
その含みのある笑顔に、ぞわっと悪寒がした。
「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ」
「わかりません……」
(もしかして……)
クララは必死に首を振る。
嫌だ、聞きたくない──。
「聖女の称号を失ったら、君はただのクララだ。ほら、何も問題ないよ」
見事に聞きたいことをスルーされてしまった。
仕方なく諦めて問いに答える。
「何度も思い出してみましたが、私は殿下に聖女の儀でしかお会いしておりません。そもそも私は神殿に入ってから一度も外へ出ていないので、お会いすることはないはずです」
「そうか、そうだよね。さすがにわからないか」
ライオネルは残念そうな声で呟くと、クララの手の指を絡めて繋いでくる。
まるで恋人のような距離感に、クララはどうしていいかわからず、あたふたとしてしまった。
「あのっ、殿下……!」
「そんな堅苦しく殿下なんて言わないで。ライって呼んでよ」
「なっ! む、無理です……!」
「どうして? 無理じゃない。クララには可愛い唇があるんだから呼べるはずだよ」
じっと見つめられたかと思うと、指で下唇をふにふにと弄られる。
(もうなんなの! わけがわからないっ! 女神様、夢ならもう十分ですから起こしてくださいいぃ……!)
二十年間、男性と触れ合うなんて一切経験がなかった。クララのキャパシティをすでにオーバーしてしまっている。
クララに聖女として生きる道筋を示してくれた、初恋の男性──ライオネルに七年ぶりに会ったかと思えば、こんなに密に触れてきて、純真無垢なクララは翻弄されっぱなしである。
これ以上は無理……! とぎゅうっと目を閉ざした。
「顔真っ赤にして……可愛い。これってキスしていい合図かな。読んでた小説にキスシーンでもあった?」
「違いますっ!」
バチッと目を見開く。
高尚な第二皇子と口づけて良いはずがない。そこまでクララは身の程知らずではなかった。
「違ったか。でもせっかくだし、このままキスしてみる?」
「だっ、だめです! 皇子殿下なのですから、そういったことは相応しいご令嬢となさってください!」
グイグイと距離を詰めてくるライオネルの胸を突っぱねる。
この男性は皇族としての自覚はないのだろうか。一体どんな皇族教育を受けてきたのか……。この国の未来が心配になる。
「相応しいご令嬢……君のことでしょ?」
「殿下、頭をぶつけてしまわれたのですね……! よろしければ神聖力で治癒いたしましょうか!」
「ううん、至って健康体だよ」
「では、今殿下はどうやら血迷っておいでです。私は聖女ですが出自は平民です。ご令嬢とは程遠い人間です!」
「そんなこと気にしていたの? 関係ないよ」
「いやいや、関係大アリです!」
全く話が通じない……!
なんとかライオネルの暴走を抑えようと、クララは必死に説得する。
「それにそもそも聖女の婚姻や男性との接触は、神殿の許可がないとしてはいけないという規則があります!」
クララは一番説得力のある言葉を投げかけた。
聖女は女神の遣いであり、神聖な存在として扱われる。そのため、有力貴族は聖女の血を一族に取り込もうと、聖女との政略結婚を望むケースが多い。
帝国の貴族社会にはヒエラルキーがあり、いくつか派閥が存在する。
権力の偏りを防ぐという目的もあって、聖女の婚姻や異性関係は神殿の総意で決められる。それはたとえ皇族であっても、干渉はできないのだ。
ここまで言えばさすがにわかってくれたはず。
クララは力強く顔を上げた。
「クララが聖女なら……ね」
ライオネルが整った顔で綺麗に笑っている。
その含みのある笑顔に、ぞわっと悪寒がした。
「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ」
「わかりません……」
(もしかして……)
クララは必死に首を振る。
嫌だ、聞きたくない──。
「聖女の称号を失ったら、君はただのクララだ。ほら、何も問題ないよ」
42
お気に入りに追加
831
あなたにおすすめの小説

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました
高瀬ゆみ
恋愛
侯爵令嬢のフィーネは、八歳の年に父から義弟を紹介された。その瞬間、前世の記憶を思い出す。
どうやら自分が転生したのは、大好きだった『救国の聖女』というマンガの世界。
このままでは救国の聖女として召喚されたマンガのヒロインに、婚約者を奪われてしまう。
その事実に気付いたフィーネが、婚約破棄されないために奮闘する話。
タイトルがネタバレになっている疑惑ですが、深く考えずにお読みください。
※本編完結済み。番外編も完結済みです。
※小説家になろうでも掲載しています。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる