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【41】あなたと前だけを(11)

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 夜が明ける前に目を覚ましてしまったフラミーニアは朝から忙しなく動いていた。
 普段よりも丁寧に身支度を整え、塵一つないように隅々まで掃除をする。
 全ての用意を整えても、何度も時計を見ては立ち上がり、ウロウロと歩き回っては椅子に座る。

「フラン、落ち着けって。時間になったら来るから」
「うん。わかってはいるんだけど、なんだかソワソワしちゃって」

 持っている衣類の中で最も小綺麗な衣服に身を包んだフラミーニアは、高く結んだリボンをもう一度結び直した。

 外から話し声が聞こえて、椅子から勢いよく立ち上がり玄関の扉を開く。

「メリッサ!」
「フラン!」

 膨らみのあるお腹を考慮して背後へとまわり、抱きついた。

「会いたかった会いたかった会いたかった……!」
「私もよ。来るのが遅くなってごめんね」
「ううん!」

 約二ヶ月ぶりの再会だ。
 妊婦となっても相変わらず天使のような美貌は変わらない。

「アルトゥルさんもお久しぶりです。あ、もしかして……」

 輝く銀髪に紫色の瞳。メリッサとお揃いの色彩を見て、すぐに誰だか予想はついた。
 意志の強そうな力強い目力がメリッサそっくりで、王族らしい威厳を放っていた。

「メリッサの兄、レオポルドだ。妹が世話になったな。礼を言う」
「フラミーニアと申します。王太子様にお礼を言われるなんて……! むしろお世話されたのは私の方です」
「そうね。初めて会った時は町の子供よりも手が掛かったわ」
「えへへ」

 外で立ち話をするのも失礼なので早速家の中へ案内し、苦味の少ない薬草茶を差し出した。
 王太子相手にこのような庶民的なもてなしで良いのだろうかと不安がよぎったが、元々は王族であるメリッサの家なのだから良いかと考えを改めた。

「まさかレオとアルまで来るなんてな」
「身重のメリッサを一人で来させるわけにはいきませんよ」
「妹がどんな家に住んでいたか興味あったからな。フラミーニア、だったか。後で薬草畑も見てみたい」
「はい! ご案内しますね!」

 小さい食卓机に五人が座るといっぱいいっぱいになった。
 いつもは閑静な森だが、賑やかで活気あふれる空間に思わず胸が躍る。

「メリッサ、体調は良くなった?」
「おかげ様で悪阻は殆どなくなったわ。お腹の子も順調よ」
「良かったぁ」
「留守にした間、家を管理してくれてありがとう。ちゃんと消臭の香も焚いてくれているのね」
「うん。私はセノの匂い好きだけど、ここはメリッサの家だから頻繁に換気していたよ」
「おい、いちいちそんなこと言わなくていい」
「え?」

 またセノフォンテに怒られて首を傾げていると、レオポルドが「成程、こういうことか」と呟いていた。
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