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【36】あなたと前だけを(6)
しおりを挟むセノフォンテを広場に残し、フラミーニアは軽い足取りで雑貨店へと向かう。生活雑貨から装飾品まで取り扱いがある、品揃え豊富な店だ。
以前セノフォンテと入店した時に目星をつけていたので、迷うことなく目当ての品が並ぶ陳列棚へと向かう。
ガラスケースに入れられているそれを真剣な眼差しで見比べる。
「やっぱりメリッサは紫、セノは金が良いかな……」
カチカチと一定のリズムで時を刻む懐中時計。
金が縁取られたものと、紫色の水晶が細やかに埋められているものに前々から目をつけていた。
店主に声をかけ、ガラスケースから取り出してもらい、実際に手に取ってみる。
ひやりとした金属がすぐ体温に馴染んだ。
メリッサとセノフォンテが実際に手に持つところを想像してみる。
……うん。凄く良い感じだ。
「銀貨三枚で懐中時計を二つ購入したいです。金色と、紫色のものなんですが」
「あぁ、この二つじゃあ銀貨三枚と銅貨五枚は必要だね」
「そうですか。ゔーん……」
顎に手を当てて考え込む。
本を諦めてもお金は足りないし、今日一つを買って、もう一つはまた別の機会にするか。それとももう少し安価なものに変更するか。
考え込むフラミーニアに、髭面のおじさんがある提案をしてくれた。
「この金色の方、蓋とチェーンを外して革ベルトに変えれば、二つで銀貨三枚で売ってあげるよ」
「革ベルトですか?」
「そうさ。懐中時計ではなく腕時計になるがね。特に男性は片手が空くからといって、こっちを好む人が多いよ」
「それでお願いします!」
即決だった。
懐中時計は取り出し、蓋を外さないと時間を確認できないが、腕時計であればすぐに時間を知ることができる。
騎士は荷物で手を塞いではいけないということを聞いたことがあるフラミーニアは、快くその提案を受け入れた。
「まいど!」と元気な声が店内に響く。
早速金色の時計を革ベルトに取り替えてもらい、それぞれ箱に入れてリボンをかけてもらう。
店主が作業する様子をワクワクしながら待つ。
代金を支払い、贈り物を胸にしっかりと抱えると、広場に向かって走りだした。
喜んでくれるかな。喜んでくれるといいな。
大好きなセノフォンテとメリッサの笑顔を思い浮かべる。
初めて自分の力で得た金銭。
知識も技術も魔力も持たない自分が、漸く人の手を借りず踏み出した一歩。時間はかかってしまったが、やっと自分の足で人生を歩いている実感が湧く。
噴水が見えてきた。セノフォンテが居るところまであと少しだ。
はやる気持ちが勝手に脚の動きを加速させていく。
すると見たことのある紋章の馬車がフラミーニアを追い越し、広場に停車した。
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