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【31】あなたと前だけを(1)
しおりを挟むこうしてセノフォンテとの二人きりの生活が始まった。
妊娠が発覚したメリッサはアルトゥルと共にすぐに王城へと移り、二人は正式に結婚することになった。
驚いたことに、メリッサ・デ・ヤッキアはこの国の第一王女だった。気品のある所作、豊富な知識は王女たる所以だったのだ。
【嗅覚覚醒】を持って生まれたメリッサは、多くの人が溢れかえる王城での生活が耐え難く、離宮か田舎の領地で静養することが多かったのだそう。
この森で一人で暮らしていたのも、薬師としての自分の実力を試したいと国王を説得したからだ。メリッサが二十歳になるまでという条件付きだったが、お陰でメリッサは薬師としての才能を開花させた。
しかし王女がたった一人で森に住むなんて、許されるのだろうか。セノフォンテに問うと、王家が有する特別な魔力が込められた宝物に守りの加護があるそうで、それがあれば安全らしい。確かに思い返してみてもメリッサと暮らして二年、熊や猪など危険動物に遭遇したことは一度もないし、危険人物に会ったこともない。
三日に一度、運び屋としてセノフォンテが来ていたのは監視の意味合いもあったそうだ。
アルトゥルとセノフォンテは王太子レオポルドの小姓として、幼い頃から友人だった。その為メリッサと顔を合わせることも多かったのだとセノフォンテが教えてくれた。
王太子の側近として宰相補佐の役割を担っているアルトゥルとメリッサの婚姻を、前々から国王は了承していて、あとはメリッサが頷くだけだったらしい。
セノフォンテ曰く、「根回しと舌戦はアルトゥルの右に出る者はいない」のだそう。詳細はよく分からないが、とにかくアルトゥルを敵に回さない方が良いということだけは頭に入れておいた。
フラミーニアはセノフォンテと共に薬草畑を管理しながらこの家を守ることになった。
セノフォンテは朝、鷹の姿に変化し仕事に向かう。早ければ夕方、特別任務がある日は夜遅く帰宅することもある。
つまりフラミーニアは日中、一人ぼっちだ。今までは常にメリッサと一緒だった。食事をするのも薬を作るのもお風呂に入るのも眠るのも。
セノフォンテは王太子の護衛騎士。仕事で家を出るのは仕方ないと分かっていても、今までの暮らしと比べて少し寂しいと思ってしまう。
「セノがいなくても、やることは沢山あるんだから……」
寂しさを振り払うように行動を開始する。
いつメリッサやセノフォンテが戻ってきても良いように、部屋を清潔にし、整理整頓をする。
今まではメリッサに合わせて舌触りの良い料理ばかり作っていたが、セノフォンテの好きな料理も覚えたい。セノフォンテの喜んだ顔を思い浮かべながら、新しく購入したレシピ本を見てスープを煮込んでおく。
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