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【28】新しい変化(2)

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「メリッサが元気になりますように」

 沸々と泡を作る液体を匙でまわす。
 魔力を持たないフラミーニアが祈りを込めても意味はないが、丁寧に心を込めて薬草を煎じた。

 水の量が半分になるまで煮詰めると、コップへと移す。
 寝台に横になっていたメリッサの体を起こし、薬草茶を手渡した。
 スン、とメリッサの小さな鼻が震える。

「……うん、良いバランスね。煎じるのが上手くなったわ」
「良かったぁ……。これで少しは症状が改善できそう?」
「カラスビシャクの効能は吐き気止めだから十分効果はあるはずよ」
「そっか。あとメリッサが口にしやすい食べ物も用意しておくから、食べられそうなら言ってね」

 薬草茶を一気に飲み干したメリッサが、フラミーニアの安堵した顔を見てクスリと笑う。

「フラン、頬に泥がついてるわ」
「ほんとに? 気がつかなかった」
「ここへ来た時は何にも出来ない不出来な子だったのに……ふふっ」
「メリッサ?」
「ううん、何でもない。少し寝るわ」

 再び横になって目を瞑るメリッサの顔色が少し良くなった気がした。

 散らかった作業台を片付けながら、メリッサは何なら食べられるのかと考えを巡らせる。

 窓がカタカタと鳴る音が聞こえてハッと思い出した。すぐに食卓横にある窓を開ける。

「セノ……! ごめんね遅くなって」

 鷹の姿のセノフォンテはいつものようにフラミーニアの肩に乗ると頬を擦り付ける。

 セノフォンテが【変化魔法】を保有していることを知ってからも、相変わらずスキンシップは変わらない。
 犬のときは頑なに触れさせてくれなかったのに、なぜか鷹の姿のセノは密接に触れてくれる。
 手を繋ぐ感覚で、鷹の立派な翼を撫でる。

「わざわざ来てくれたのに申し訳ないんだけど、メリッサは体調を崩してて、渡せる薬が無いの。ごめんね。三日後には良くなってるといいけど……」

 セノフォンテの頭を優しく撫でながら、フラミーニアは落ち込んでいた。
 ただいつものように薬草を育て、家の中の家事をするだけ。メリッサの苦しみを取り除いてあげれるようになりたい。
 先程の吐き気止めの薬草茶だって、メリッサにお願いされる前に自分で気がついて作るべきだったのに。まだまだメリッサの手を借りている自分に嫌気が差す。

 落ち込んでいるフラミーニアを励ますように頬を嘴で突かれた。

「セノ……。私メリッサを助けてあげたいのに、何も出来なくて……もどかしいよ。今なら少しだけど【魔力転移】があればって思っちゃう……」

 クゥゥとセノが小さく喉を鳴らした。
 フラミーニアは首を振って微笑する。

「セノに渡した魔力のことは全く後悔していないよ。セノのお陰で私は自由になれたんだから。……でもやっぱり、大切な人を守れるようになるには強くならなくちゃ駄目、なんだね」

 鷹を抱きかかえてそっと腕の中に閉じ込める。

「私、もっと頑張る……」

 セノはされるがままじっと動かないでいてくれた。
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