26 / 52
【26】デート(3)
しおりを挟む
昼が近くなったからか、先程より人通りが増えている。
「それ、肩寒くないの?」
「私恥ずかしいって言ったんだけど、店員さんに流行りだからって言われちゃって……。寒くはないんだけど」
「ふーん。……着るのは俺といる時だけな」
繋いだ手にぐっと力が込められた。
気恥ずかしくなって下を向いて歩く。
「メリッサとは何処へ行ったの?」
「いつも薬屋に行ってたよ。あとは日用品店と本屋、くらい」
「女性同士なのに服屋とか雑貨屋は行かないんだ」
「森の中で飾り立てても意味がないってメリッサが。あとメリッサの気分が悪くなってしまうから滞在も手短かに済ませたかったし」
「あー。確かに」
並んで歩いていると、漂ってくる甘い香りに思わずスンと鼻を鳴らした。
この良い香りの出所は何処だろうとキョロキョロと辺りを見回す。
「あ、向こうでパラチンキが売ってる。こっちまで匂いが流れてきてるな」
「パラチンキってなに?」
「薄いクレープ状のパンケーキの中にジャムが入ってるんだ。食べやすいよ。買ってみようか」
「そうなんだ」
森の中で生活をしていると甘味はもっぱら生の果物ばかりだ。
パンケーキってどんな味がするのだろう。
お金を支払いパラチンキを二個受け取ったセノフォンテがフラミーニアの元へ戻ってくる。ベンチに並んで腰掛けた。
「はいどうぞ。……なんか昔と逆だね」
「ふふ、ありがとう。昔は屋根の上だったけど、やっぱりベンチが食べやすいね」
夜更けに屋根の上で会っていた時はフラミーニアのご飯を二人で分け合って食べていた。
懐かしいな、と思いながら手の中のパラチンキを見る。
薄い生地が重なり、赤いジャムが溢れ出ていた。一口齧ると香ばしい生地と甘酸っぱいジャムが一体となっていて美味しい。
「やっぱり……セノと食べるご飯は美味しいな」
幸せな記憶を思い出して心が温かくなる。まさかまたセノと並んでご飯を食べられるなんて思ってもいなかったから。
小さく呟いた言葉をセノが聞いていたかはわからない。
「次は何食べようか。飯屋にでも入るか?」
「え、もう食べたの。相変わらず早いね」
「こんなの二口あれば十分。肉食べたいなー。フランは?」
「私もお肉がいいな!」
「よし決まり」
残りのパラチンキを咀嚼するフラミーニアの頭をセノフォンテがぽんぽんと撫でた。
「いつも撫でられる側だったから、俺から触るのはなんか、新鮮」
意地悪く口端をあげるセノフォンテを見てギュッと心臓が収縮する。
金瞳を直視していられなくて、咄嗟に手元のパラシンキに視線を合わせる。
この浮わついた気持ちは何だろう……。
「セノはふわふわで可愛いけど……」
「フランも割と触り心地良いよ」
「絶対そんなことない……」
このままだと何かが破裂しそうなので、パラチンキを食べるのに集中した。あんなに甘かったはずなのに、途中から味がしなくなってしまった。
その後はレストランに入り、二人してステーキを平らげた後は本屋や雑貨店へ寄り、買い物を楽しんだ後、森の家に戻る。
「お帰りなさい」
そう言ってアルトゥルが迎えてくれた。
「メリッサとお話できましたか?」
「お陰様で。メリッサは疲れたのか眠ってしまいました。寝台に寝かしていますから、あとはお願いしますね」
「わかりました」
上着を羽織り帰宅の準備を始めるアルトゥル。騎士であるセノフォンテと同じくらい筋肉がついた男らしい体つきで、騎士服を着ていないだけでもしかしたらアルトゥルも騎士なのかもしれない。
上着の釦を留めながら思い出した様に話しかけられた。
「衣裳も耳飾りも似合っていますよ。セノが選んだにしてはなかなかのセンスですね」
「うるせーよ」
「あの、実はお店の方に見立てていただいて……」
んむ、とセノの大きな掌に口元を押さえられた。
「くくっ。フラミーニアさんは正直な女性ですね」
「ん、んん……」
「フラン、アルとは話さなくていい。あんまり良いことないから」
「んーん?」
「なんでも」
「あと褒められた時は適当にありがとうございますって言っときゃいいから!」と駄目出しをされた。事実を話しただけなのに……。
「それじゃあ、また一ヶ月後に来ますね」
「俺はまた薬を運ぶから、三日後な」
「うん」
馬車が入れない森の中なので、徒歩で帰路につく二人を姿が見えなくなるまで見送った。
「それ、肩寒くないの?」
「私恥ずかしいって言ったんだけど、店員さんに流行りだからって言われちゃって……。寒くはないんだけど」
「ふーん。……着るのは俺といる時だけな」
繋いだ手にぐっと力が込められた。
気恥ずかしくなって下を向いて歩く。
「メリッサとは何処へ行ったの?」
「いつも薬屋に行ってたよ。あとは日用品店と本屋、くらい」
「女性同士なのに服屋とか雑貨屋は行かないんだ」
「森の中で飾り立てても意味がないってメリッサが。あとメリッサの気分が悪くなってしまうから滞在も手短かに済ませたかったし」
「あー。確かに」
並んで歩いていると、漂ってくる甘い香りに思わずスンと鼻を鳴らした。
この良い香りの出所は何処だろうとキョロキョロと辺りを見回す。
「あ、向こうでパラチンキが売ってる。こっちまで匂いが流れてきてるな」
「パラチンキってなに?」
「薄いクレープ状のパンケーキの中にジャムが入ってるんだ。食べやすいよ。買ってみようか」
「そうなんだ」
森の中で生活をしていると甘味はもっぱら生の果物ばかりだ。
パンケーキってどんな味がするのだろう。
お金を支払いパラチンキを二個受け取ったセノフォンテがフラミーニアの元へ戻ってくる。ベンチに並んで腰掛けた。
「はいどうぞ。……なんか昔と逆だね」
「ふふ、ありがとう。昔は屋根の上だったけど、やっぱりベンチが食べやすいね」
夜更けに屋根の上で会っていた時はフラミーニアのご飯を二人で分け合って食べていた。
懐かしいな、と思いながら手の中のパラチンキを見る。
薄い生地が重なり、赤いジャムが溢れ出ていた。一口齧ると香ばしい生地と甘酸っぱいジャムが一体となっていて美味しい。
「やっぱり……セノと食べるご飯は美味しいな」
幸せな記憶を思い出して心が温かくなる。まさかまたセノと並んでご飯を食べられるなんて思ってもいなかったから。
小さく呟いた言葉をセノが聞いていたかはわからない。
「次は何食べようか。飯屋にでも入るか?」
「え、もう食べたの。相変わらず早いね」
「こんなの二口あれば十分。肉食べたいなー。フランは?」
「私もお肉がいいな!」
「よし決まり」
残りのパラチンキを咀嚼するフラミーニアの頭をセノフォンテがぽんぽんと撫でた。
「いつも撫でられる側だったから、俺から触るのはなんか、新鮮」
意地悪く口端をあげるセノフォンテを見てギュッと心臓が収縮する。
金瞳を直視していられなくて、咄嗟に手元のパラシンキに視線を合わせる。
この浮わついた気持ちは何だろう……。
「セノはふわふわで可愛いけど……」
「フランも割と触り心地良いよ」
「絶対そんなことない……」
このままだと何かが破裂しそうなので、パラチンキを食べるのに集中した。あんなに甘かったはずなのに、途中から味がしなくなってしまった。
その後はレストランに入り、二人してステーキを平らげた後は本屋や雑貨店へ寄り、買い物を楽しんだ後、森の家に戻る。
「お帰りなさい」
そう言ってアルトゥルが迎えてくれた。
「メリッサとお話できましたか?」
「お陰様で。メリッサは疲れたのか眠ってしまいました。寝台に寝かしていますから、あとはお願いしますね」
「わかりました」
上着を羽織り帰宅の準備を始めるアルトゥル。騎士であるセノフォンテと同じくらい筋肉がついた男らしい体つきで、騎士服を着ていないだけでもしかしたらアルトゥルも騎士なのかもしれない。
上着の釦を留めながら思い出した様に話しかけられた。
「衣裳も耳飾りも似合っていますよ。セノが選んだにしてはなかなかのセンスですね」
「うるせーよ」
「あの、実はお店の方に見立てていただいて……」
んむ、とセノの大きな掌に口元を押さえられた。
「くくっ。フラミーニアさんは正直な女性ですね」
「ん、んん……」
「フラン、アルとは話さなくていい。あんまり良いことないから」
「んーん?」
「なんでも」
「あと褒められた時は適当にありがとうございますって言っときゃいいから!」と駄目出しをされた。事実を話しただけなのに……。
「それじゃあ、また一ヶ月後に来ますね」
「俺はまた薬を運ぶから、三日後な」
「うん」
馬車が入れない森の中なので、徒歩で帰路につく二人を姿が見えなくなるまで見送った。
0
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
水川サキ
恋愛
「僕には他に愛する人がいるんだ。だから、君を愛することはできない」
伯爵令嬢アリアは政略結婚で結ばれた侯爵に1年だけでいいから妻のふりをしてほしいと頼まれる。
そのあいだ、何でも好きなものを与えてくれるし、いくらでも贅沢していいと言う。
アリアは喜んでその条件を受け入れる。
たった1年だけど、美味しいものを食べて素敵なドレスや宝石を身につけて、いっぱい楽しいことしちゃおっ!
などと気楽に考えていたのに、なぜか侯爵さまが夜の生活を求めてきて……。
いやいや、あなた私のこと好きじゃないですよね?
ふりですよね? ふり!!
なぜか侯爵さまが離してくれません。
※設定ゆるゆるご都合主義
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に
「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」
と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。
確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。
でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。
「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」
この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。
他サイトでも投稿しています。
※少し長くなりそうなので、長編に変えました。
よろしくお願いいたしますm(__)m
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる