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【22】身に宿す魔力(4)セノ視点
しおりを挟む通い慣れた空路を辿りデレッダ公爵家の屋根の上に降り立つと、今度は小さな蜘蛛へと変化する。
壁を伝い、当主の部屋らしき所をしらみ潰しに当たり、窓の隙間から寝室に忍び込んだ。カーテンの影にひっそりと隠れる。
寝台に座り、ちょうど使用人から事態の報告を受けている最中のようだ。
「フラミーニアが居なくなっただと……?」
「申し訳ありません! 女官長が食事を届けに部屋に入ったところ、もぬけの殻だったと……。部屋の窓から布を伝って降りたようです。既に魔法痕を追跡できる者を手配しております」
「ああ。誰にも見つからぬように探し出せ。良いな」
「畏まりました」
深々と腰を折る使用人。
デレッダ公爵は特に焦った様子もなく、仄暗い笑みを浮かべた。
「知識を与えずただの人形となるように育てたつもりだったが……変な虫でもついたか。連れ戻したら地下牢、だな」
「いつでも使用出来るよう、準備を進めておきます」
「それよりも一刻も早く見つけ出せ。【魔力転移】を失えば全ての計画が水の泡だ。……まぁ小娘の足で行ける範囲は限られるはずだが」
【魔力転移】という言葉を聞いて全身に震えが走る。
やっぱりフラミーニアは【魔力転移】保持者だった。この全身を巡っている魔力は、元はフラミーニアのものであった。
それに魔力を行使したフラミーニアは必ず何かしらの代償を受けているはず。代償の内容は分からない。一刻も早く、見つけ出さなくては。
セノフォンテは飛び跳ねて床に着地すると、おそらく筆頭執事であろう使用人の靴に張り付いた。
歩く度に大きく揺さぶられるが、落とされないようにしがみつく。そして些細に指示出しをする内容を記憶に留める。
――俺が絶対にフランを見つけ出す。
一度公爵家を後にし、王城へ戻り情報を伝えると、フラミーニアを捜索するためエヴシェンの隊に加わった。
***
王都中に張り巡らされている地下下水の出口はそう多くない。全てを見て回れば、必ずフラミーニアを見つけ出すことが出来るはずだ。
「未成年の少女の足で水を中を進むのは……この範囲が妥当でしょう。デレッダ公爵家を中心にして考えると、おそらく出口は六個です」
宰相補佐の役割を担っているアルトゥルの推察に従って、全ての出口付近を見て回る。王都の南側にある出口の捜索に参加したセノフォンテは焦りからか苛立ちが表に出る。
何処にいるんだ? ここではない他の出口か……?
あんなにフランと過ごしたのに、フランのことを何も知らない。何もわからない。くそ……!
ぽんと肩に手が乗る。
「そう焦んな。大丈夫だ、セノ。人事尽くして天命を待つ、だぞ」
「天命なんか待ってられっかよ」
赤茶色の短髪姿が快活なエヴシェンは落ち着いた口調で話す。
王太子レオポルドの専属護衛騎士として共に同じ近衛騎士団に所属しているが、普段は顔を合わせることが少ない。
「真っ直ぐで長い銀髪を持つ薄緑色の瞳の十七歳の少女か。すぐに見つかりそうだが、意外と見つからないな。きっと隠れるのが上手いんだろう」
うんうんと謎に納得しているエヴシェンを無視して時間を確認する。
「俺は一度王都に戻って相手側の動向を確認してくる。エンは引き続き捜索を頼む」
「承知した。気をつけろよ」
「お互いな」
パンと掌と掌を合わせて、再び鷹に変化する。
一日で何度も変化を繰り返しているのに全く疲れが出ないのも、フラミーニアの魔力のお陰なのだろうか。
公爵家よりも先にフラミーニアを保護するべく、公爵家の捜索の動向を探るのは【変化魔法】を有するセノフォンテでしか出来ないことだ。
なかなかフラミーニアを見つけられない自分の不甲斐なさに怒りを覚えながら、見慣れた景色を悠々と進んだ。
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