13 / 52
【13】新生活(7)
しおりを挟むメリッサと暮らすようになり、まずは家の中を綺麗に整理整頓をすることから始めた。
よく洗って天日干しにした薬草は、それぞれ種類ごとに瓶にいれ、名前をラベリングし、棚に整列する。見た目はどれも似通っていてフラミーニアには違いがよくわからない。メリッサは香りで種類を判別しているようだった。
衣類、食料品、食器、文房具、本など同じカテゴリーのもの同士を纏める。
生活でよく使うものは使用用途を踏まえ、使いやすいように一から部屋を模様替えして配置を変えた。
部屋を綺麗にしたことで、山になっていた荷物の中からは大量の本が出てきた。半分は薬学に関するもので、もう半分は一般生活に関するものだった。
フラミーニアはそれらの本を毎日読み耽り、またメリッサから教えを乞いながら少しずつ知識を増やしていった。
古く焦げついた本しか手元になかったフラミーニアはひたすら本に没頭した。自分の知らない最新の知識を学ぶことが出来て、ただただ楽しかった。
メリッサには飲み込みが早いと褒められた。毎日新しいことを知る日々はとても充実していた。
一般知識も増えたが、特に料理に関してはかなり上達したと思う。味覚がないメリッサのために舌触りや風味を良くしようと、日々熱心に取り組んだ。下茹でをしてみたり、具材を擦り下ろしてみたり、ハーブとの組み合わせを考えてみたり。
そのうち簡単なものならレシピ本無しで作れるくらいにまでになった。
失った髪は一年経ってやっと肩につく長さまで伸びた。生えてきた髪は以前とは異なる真っ黒な色。
魔力を宿していた頃は、銀髪で淡いエメラルドのような瞳だった。まるで妖精のような出立ちだったが、それと比較すると今の容姿は悪魔と比喩しても遜色ないほどだった。
でもそれは公爵家の檻から抜け出せたように感じて。新しい自分になれた気がして、フラミーニアはこの色合いが嫌いではなかった。
この頃から、フラミーニアはメリッサから指導を受けながら薬草についても勉強を始めた。
【嗅覚覚醒】の常時魔法を有しているメリッサは、薬草の香りで調合の配分を決めていく。
到底凡人のフラミーニアでは不可能な能力だ。したがって一つ一つ地道に分量を測り、調合するという独自のやり方を模索していった。
簡単な薬でも作れるようになれば、きっと独り立ちしたときに役に立つだろうと、メリッサの温かな計らいだった。
メリッサの作る薬は強力だ。
何も知らなかった頃はその高い効能に全く気が付かなかったが、勉強を始めた今、メリッサの凄さがよくわかる。
同じ環境で育てた薬草でも生えていた場所や鮮度の違いによってその成分の濃度が多少変わってくる。【嗅覚覚醒】を行使してその成分量を的確に把握し、精度の高い薬を完成させるのだ。
薬草の中には過剰摂取すると体にとって毒になるものも多い。メリッサの【嗅覚覚醒】の能力を遺憾なく発揮できるのがこの仕事だった。
「薬師は私の天職よ」
そう言って意気揚々と薬草を摘むメリッサは美しく、眩しかった。
0
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
国王陛下は仮面の下で笑う ~宮廷薬師がダメなら王妃になれ、ってどういうことですか~
佐崎咲
恋愛
若くして国王となったユーティス=レリアードは、愚王と呼ばれていた。
幼少の頃に毒を盛られた後遺症でネジが飛んだのだろうともっぱらの噂だった。
そんなユーティスが幼い頃縁のあった薬師の少女リリアの元を訪ねてくる。
用件は「信頼できるリリアに宮廷薬師として王宮に来てほしい」というもの。
だがリリアは毒と陰謀にまみれた王宮なんてまっぴらごめんだった。
「嫌。」の一言で断ったところ、重ねられたユーティスの言葉にリリアはカッとなり、思い切り引っぱたいてしまう。
しかしその衝撃によりユーティスは愚王の仮面を脱ぎ、再び賢王としての顔を町の人々に向ける。
リリアは知っていた。そのどちらも彼がかぶっている仮面に過ぎないことを。
だけど知らなかった。それら全てが彼の謀略であることを。
すべては、リリアを王妃にするためだった。
張り巡らされたユーティスの罠に搦めとられたリリアは、元ののんびりした生活に戻ることはできるのか。
========
本編完結しましたが、書ければ番外編など追加していく予定です。
なろうにも掲載していますが、構成など異なります。
最終章は、こちらではじれじれ編。
なろうは、一発殴りに行っての砂糖吐く激甘仕様(アイリーン無双入り)です。
どっちも書きたくてこうなりました……。
※無断転載・複写はお断りいたします。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる