【R18】御曹司とスパルタ稽古ののち、蜜夜でとろける

鶴れり

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《61》得た勲章とは(3)

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 今は着付けに関する資格を取得しつつ、この倭の国きもの学院の着付け師範アシスタントとして、着付け教室に勤務している。

「瑛美先生、ごめんなさいね。来週の予定だった夜桜観賞会、今日に変更になったの。今から向かってもらえるかしら?」
「和歌先生、承知しました」

 支度部屋に入ってきた学院長である清澄和歌から、予定の変更を告げられる。

「他の人たちはもう先に向かっているから」と言われて、待ち合わせ場所が書かれた紙を受け取った。

「そういえば着付け技術試験の結果が来ていたわ。……今聞く?」
「はい。知りたいです。ど、どうでしたか……?」

 そっと畳に視線を落とす学院長を見て、駄目だったかと重たい息が出そうになる。

「きゃーっ! 合格よ、おめでとう!」
「もぉー! そんな神妙な顔されたら落ちたと思うじゃないですかっ」
「うふ。びっくりさせようと思ったのよ。本当におめでとう。また今度改めてお祝いさせて」

 御年七十近い学院長は茶目っ気があってとても可愛らしい人だ。冷淡な大和と本当に血が繋がっているのかと思うほど、性格は正反対だ。

「ありがとうございます。これも全て和歌先生のお陰です。感謝してもしきれません」
「いいえ、瑛美先生が頑張ったからよ。……ってあら、屋形船の出航時間に遅れてしまうわ。急がないと」
「はい。では行って参ります!」

 高層ビルから出て、待ち合わせ場所へと向かう。
 春とはいえ、夜はまだ冷える。薄手のショールを肩に掛けながら、スマートフォンで地図を確認した。

 河岸に咲くライトアップされた桜並木を、屋形船で観覧する夜桜観賞会は、きもの学院の人気イベントらしい。
 瑛美が参加するのは今回が初めてだが、参加したことのある別の講師からは、とても素晴らしく感動的だったと話を聞いた。

 今回は教室の生徒たちの補助として参加することになっている瑛美は、足早に草履を鳴らす。

 無事に待ち合わせ時間内に屋形船の停留所に着いた。しかし、人影はない。

(早く着きすぎてしまったのかな。いや、でも出発時間の五分前だし……)

 そう思っていると、屋形船の操縦士に声をかけられて、促されるまま船に乗り込んだ。

 提燈の灯りがついた船内は、思っていたよりもスペースがなく、頭上に気をつけながら足を進める。
 今回の夜桜観賞会に参加する人数は二十数名と聞いている。それにしてはこの船は小さすぎる気がする。

 ふと、男性の影が視界に入って足が止まった。
 彫りの深い、ぱっちりとした二重瞼。男性らしい太さのある眉。スッと通った顎のライン。
 黒いサラサラの髪は軽く目に掛かっていて、清潔感がある。

 提燈の橙色がかった灯りに照らされて妖艶な雰囲気を纏った男性は、お猪口を片手に瑛美を凝視して固まっていた。

「瑛美……? 幻覚……?」
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