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《54》五感すべてで(3)
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「このあと、店を予約してあるんだ」
そう言われて連れてこられたのは、日本庭園が美しい料亭だった。鹿威しの軽やかな音色が響く、綺麗に整えられた庭が一望できる個室に案内される。
瑛美は初めての高級料亭に胸を高鳴らせた。
「なかなか休みが取れなくて瑛美と外でデートできなかったから。ここは、いつか瑛美と来たいと思っていた場所なんだ」
そう言われて胸が熱くなる。
すぐに料理が運ばれてきて豪華なディナーが始まった。
先附は肉寿司から始まり、蒸し鮑や車海老の前菜、魚料理はのどぐろの幽庵焼きという高級食材が並ぶ。漆の椀にのった料理は見ているだけでも楽しい。
デザートに和栗と安納芋のティラミスと煎茶をいただき、膨らんだ胃をそっと撫でた。
「どれもとっても美味しかったです。帯があるから全部は食べられないと思いましたが、ぺろっと食べれちゃいました」
「瑛美の着付けの腕が上がった証拠だな。締め方が下手だと内臓を圧迫するから」
「そうだといいですけど」
テーブルの上が片づけられ、湯呑と急須だけが置かれる。
完全に日が暮れて、日本庭園には光が灯され、幻想的な雰囲気に変わった。
「瑛美」
大和はたもとから小さな箱を取り出した。
ドクンと心臓が跳ねる。
「俺と結婚しよう」
箱の中から出てきたのは、七色に光輝く透明な宝石がついた指輪。
女の子なら一度は夢見る、憧れの指輪だった。
手が震える。神経が切れてしまったかのように、全身の感覚がプツリと消えていた。
「ほら、手だして」
大和は指輪を取り、瑛美が手を差し出すのを促す。
まるで夢を見ているようで、ふわふわとしていて現実とは思えない。
「ほ、ほんと……?」
「うん。本当」
大和の端正な顔はいつもと変わらず飄々としていて、それも相まってこれは夢ではないかと思ってしまう。
いつのまにか瑛美の左手の薬指に輝く宝玉があって、その重みに一気に現実味が沸いて目から雫があふれた。
「本当に、私で、いいんですか?」
「何度言ったらわかるんだ。こんなに瑛美がいいと言っているのに。強情な奴だな」
そういって破願する大和を見て、更に涙腺が緩む。
「愛してるよ。俺と死ぬまで一緒にいて」
たかが切れたように涙が溢れだす。それを予測していたのか、大和はさっとハンカチを差し出した。
なんだかすべて大和の手のひらで転がされているような気もするが、それよりも嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
こんな瑛美がいいと何度も口にしてくれた大和の深い愛情に包まれて、このとびきり幸せな甘い沼に自ら飛び込んでいきたいと思う。
でも瑛美は未だに自分に自信がない。大和の隣に見合うとは胸を張って言うことはできない。本当にこんな自分でいいのだろうか。
全身にいろんな感情がぐちゃぐちゃに掻き混ざって訳が分からなくなる。
そんな瑛美を置いていくように、大和は話を続けた。
そう言われて連れてこられたのは、日本庭園が美しい料亭だった。鹿威しの軽やかな音色が響く、綺麗に整えられた庭が一望できる個室に案内される。
瑛美は初めての高級料亭に胸を高鳴らせた。
「なかなか休みが取れなくて瑛美と外でデートできなかったから。ここは、いつか瑛美と来たいと思っていた場所なんだ」
そう言われて胸が熱くなる。
すぐに料理が運ばれてきて豪華なディナーが始まった。
先附は肉寿司から始まり、蒸し鮑や車海老の前菜、魚料理はのどぐろの幽庵焼きという高級食材が並ぶ。漆の椀にのった料理は見ているだけでも楽しい。
デザートに和栗と安納芋のティラミスと煎茶をいただき、膨らんだ胃をそっと撫でた。
「どれもとっても美味しかったです。帯があるから全部は食べられないと思いましたが、ぺろっと食べれちゃいました」
「瑛美の着付けの腕が上がった証拠だな。締め方が下手だと内臓を圧迫するから」
「そうだといいですけど」
テーブルの上が片づけられ、湯呑と急須だけが置かれる。
完全に日が暮れて、日本庭園には光が灯され、幻想的な雰囲気に変わった。
「瑛美」
大和はたもとから小さな箱を取り出した。
ドクンと心臓が跳ねる。
「俺と結婚しよう」
箱の中から出てきたのは、七色に光輝く透明な宝石がついた指輪。
女の子なら一度は夢見る、憧れの指輪だった。
手が震える。神経が切れてしまったかのように、全身の感覚がプツリと消えていた。
「ほら、手だして」
大和は指輪を取り、瑛美が手を差し出すのを促す。
まるで夢を見ているようで、ふわふわとしていて現実とは思えない。
「ほ、ほんと……?」
「うん。本当」
大和の端正な顔はいつもと変わらず飄々としていて、それも相まってこれは夢ではないかと思ってしまう。
いつのまにか瑛美の左手の薬指に輝く宝玉があって、その重みに一気に現実味が沸いて目から雫があふれた。
「本当に、私で、いいんですか?」
「何度言ったらわかるんだ。こんなに瑛美がいいと言っているのに。強情な奴だな」
そういって破願する大和を見て、更に涙腺が緩む。
「愛してるよ。俺と死ぬまで一緒にいて」
たかが切れたように涙が溢れだす。それを予測していたのか、大和はさっとハンカチを差し出した。
なんだかすべて大和の手のひらで転がされているような気もするが、それよりも嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
こんな瑛美がいいと何度も口にしてくれた大和の深い愛情に包まれて、このとびきり幸せな甘い沼に自ら飛び込んでいきたいと思う。
でも瑛美は未だに自分に自信がない。大和の隣に見合うとは胸を張って言うことはできない。本当にこんな自分でいいのだろうか。
全身にいろんな感情がぐちゃぐちゃに掻き混ざって訳が分からなくなる。
そんな瑛美を置いていくように、大和は話を続けた。
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