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《50》がむしゃらに(3)

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 昼休憩になり、一人で食堂へ向かった。いつもと同じ日替わり定食を頼んで、適当な席へ着く。
 味噌汁を一口飲むと胃が温まるのを感じて、ほっと息をついた。

「やっほ、瑛美。お隣いい?」
「ひかり。もちろんどうぞ」

 同じ日替わり定食をお盆にのせたひかりが隣に座る。昨年末はピンク色がかった髪色だったのが、黒に近い髪色に変わっていた。

「また髪色変えたね。暗くしたんだ」
「うん。なんか、もういいやーって思って」

 はは……と自嘲気味に話すひかりの声色はどこか暗い。もしかしてクリスマスパーティーのときに、文太郎と何かあったのだろうか。

「パーティーの時、勝手に退場してごめんね。大丈夫だった?」
「うん。私こそイヴなのに大和くんとの時間取っちゃってごめんね。瑛美と別れた後、頑張って文ちゃんにアピールしたんだけど、見事に玉砕してきちゃった。あははっ」

 なんと言って励ませばよいかわからず、黙り込む。ひかりが明るく気丈にすればするほど、胸がチクチクと痛んだ。

「こんなこと言われても反応に困っちゃうよね。ごめんね、瑛美を巻き込んで」
「ううん。私何も役に立たなくてごめんね……」
「もういいんだ。私にできることは全てやったし、そのうえで駄目だったんだからもう仕方ないもの。それに今年で三十歳だし、区切りとしてもちょうどいいかなって。今までは文ちゃん以外は目も向けていなかったけど、他の人ともちゃんと向き合ってみる。ほんと、初恋は叶わないって言った人って誰なんだろうねー。その通り過ぎて泣きたくなるよ」
「うん……。ひかりが決めたこと、私は応援するよ。いつでもひかりの味方だよ」

 月並みな言葉しか出てこない自分を情けなく感じつつも、ひかりに精一杯寄り添いたいという意思を伝える。

「ありがとう。ほんと、今すごく友達のありがたみを痛感するよ。三十代の時間は貴重なんだから、うじうじしてないで頑張る!」

 無理くり笑顔を作るひかりに優しく微笑みかける。
 どんなときも前を向くひかりは、やっぱり尊敬する自慢の友人だ。

「でもね、小さいころからずっと文ちゃんばっかりだったから、今更他の男の人を見るとよくわからなくて。正直自分の好きなタイプすらよくわからないの」
「芸能人とか男性アイドルとかは?」
「うーん。純粋に格好いいなとか、優しいなとかは思っても、それって好きなの? って思ったり」
「うん、わかるかも……」

 ひかりの言ったことを自分に置き換えて考えてみる。過去に付き合った元彼は、告白されて嬉しくて付き合っただけだったし、確かに自分から猛烈に好きになったのは大和が初めてだった。
 大和の魅力的な部分を思い出して、その共通点を探る。

「私はギャップかも……。会社ではいつも顔を顰めてキリキリしているけれど、着物を纏うと一気に雰囲気が変わって格好良くてドキドキして……」
「ギャップはすっごくわかる。私も文ちゃんを好きになったのは普段のにこにこしている顔と、組紐を組んでいるときの真剣な表情のギャップにやられたもん。あれ、ずるいよね」

 ひかりと和装男子の魅力について語っていると、すぐに昼休憩が終わってしまう。
 未来を見据えるひかりを見て、自分も下を向くのはやめようと奮起した。

 そして年始のセールで活気づく社内の荒波に揉まれて、あっという間に時間が過ぎ去っていった。
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