【R18】御曹司とスパルタ稽古ののち、蜜夜でとろける

鶴れり

文字の大きさ
上 下
56 / 84

《49》がむしゃらに(2)

しおりを挟む


 目的地である丘に到着したのは予定時刻の一時間前だった。

「ここで降りてよかったのか?」
「うん。ここが指定された場所なんだよね」
「んならいいんだけどよ」

 ガルドさんの心配はごもっとも。さほど街から離れていないこの丘は、二つある丘のうち高い方。街に近い、低い丘からは街に向かって畑が広がっていて、街まで遮るモノがない。つまり、街から丸見えなのだ。
 ココから街を目視出来るくらいだ、龍化りゅうかしたグレンの大きさを考えると、私達が到着したことは確実に分かっていることでしょう。
 丘とは聞いていたけど、ここまで見通しのいい丘だとは予想外。本来なら一時間もかからないって言ってたし、ジュードさんのおかげで機嫌よかったし、車とは違ってスピード調整難しいんだろうな……早すぎるって怒られないことを願おう。

「セナっちー、皮剥きは終わってるからすぐに作れるけど、作っちゃっていいのー?」
「んー、お昼分だけだと早いご飯になりそうだから、作り置き用のも作っちゃおうかな」
「あ、なら、久しぶりに魚食べたいなー。いいー?」
「いいね!」

 ジルには引き続き書類チェックをお願いし、グレンとガルドさん達にはバドミントンモドキ、ネラース達にはボールを渡しておいた。
 いつもお肉ばっかりリクエストされるから、魚のリクエストは嬉しい。嬉しすぎてちょっと作りすぎた気もする。

 今日のメニューは、ジュードさん作の野菜コロッケ、人参の豚肉巻き、ジャーマンポテト、お味噌汁。私作のアマゴの南蛮漬け、ニジマスの干物、お刺身の盛り合わせである。
 作り置きって話だったのに、リクエストしただけあってジュードさんが「やっぱ今日食べたいなー」って。その代わり、ジュードさんが作った人参しりしり、じゃが芋のチーズ焼き、人参とゴボウのきんぴらの三品は無限収納インベントリへと仕舞われた。

〈セナ、おかわり!〉
「もう? 早くない?」
〈コレはシラコメが進む〉
「あぁ、こっちの刺し身ってやつもうめぇ。特に右側の白いやつ」
「オレっちはこのサッパリしたやつー」
「強いて選ぶとするなら、自分はジンベリの木のすりおろしとネギ草が載ったやつですかね」
「……全部美味しいけど……ピンクの……」

 グレンが指差したのは干物。ガルドさんは平目の刺し身、ジュードさんは南蛮漬け、モルトさんは鰯の刺し身、コルトさんは金目鯛の刺し身が気に入ったらしい。
 お刺身率が高い。鮪がいないのが意外じゃない? そしてグレンが珍しくメインに肉じゃなくて魚を食べている。
 ちなみに、ネラース達は『どれも好き』って。アクランは白熊なだけあって干物意外の魚料理をおかわりしていた。


 ご飯も食べ終わり、腹ごなしにネラース達とフライングディスクで遊んでいると、街からお迎えと思われる騎士団員が馬に乗って来た。デカい男性と小柄な女性の二人。デカい男の人はニコやかだけど、女の人の方は眉間にシワを寄せている。

「騎士団長よりめいをうけてお迎えに上がりました。セナ様でしょうか?」
「はーい、私がセナです」
「全員のギルドカードを確認させていただきたい」
「どーぞ」
「…………確かに、本人のようだ。街まで案内する」
「お願いします」

 声をかけてきたのは男性で、その後は女性の対応だった。性別だけ聞くと言葉遣いが逆な感じがするけど、表情を見ればとても一致している。女性の方が冷たい感じ。まぁ、男性は男性で二面性がありそうなニコニコなので、どのみちあんまり歓迎はされてなさそうだ。
 女性の騎士、まともに見たの初めてだよ。キアーロ国、ジィジの国、ヴィルシル国……三つのお城ではチラッと見た程度。アーロンさんの国、シュグタイルハンなんているって話だったけど、一人も見かけなかった。

 ネラース達には影に入ってもらい、グリネロを呼んで乗せてもらう。ネラース達の大きさチェンジは見せない方がいいってクラオルから注意が入ったからね。
 雑談をすることもなく、彼らは馬を飛ばし、街までは二十分ほど。意外と距離があったみたい。


 再度ギルドカードを掲示してから街の中へ。私達はそのまま領主邸へと案内された。街の中は人っ子一人出歩いていなくて、グリネロに乗ったままで大丈夫だった。
 領主邸は装飾などは施されておらず、がない。っていうか街全体がシュグタイルハンほどじゃないものの、無骨な雰囲気なんだよね。

 男性騎士がドアノッカーを鳴らすと、すぐに内側からドアが開けられた。
 正面に立っていたのは、ボブヘアで意志の強そうな瞳を持った、二十代後半に見える女性。ドレス姿ではなく、動きやすそうな冒険者みたいな服装だった。
 腰に片手剣を携えているし、護衛に雇われ冒険者かな?

「セナ様方御一行をお連れしました。こちらの男性がドラゴンだそうです」
「ご苦労。は解除だと通達してくれ。セナ様方は案内する」

 そう告げ、すぐに踵を返して歩き出した女性の後を追う。無駄口叩いちゃいけない雰囲気だよ。
 連れて行かれたのは応接室だった。片側のソファは二列。私達の人数に合わせて用意してくれていたみたい。

「そちら側に座ってくれ。……さて、私はこの街――パソヴァルの領主、サーシャ・グラフ。貴殿らの名前を聞いてもよいだろうか?」

 雇われ冒険者じゃなかった。本人だった。勘違いして申し訳ない。
 順番に自己紹介すると、「幼子とは聞いていたが、まさかここまで幼いとは……」って言われちゃった。

「この街はここ数年、ヴァリージェ国の情勢の煽りを受けている。今では国境から先は賊が多く潜み、商人などの荷馬車が襲われる事件が頻発していると報告を受けている。陛下より貴殿らは強いと聞いているが、よくよく準備をしていくことを勧める」
「あ、だから街に全然人がいなかったんですか?」
「いや、それは貴殿らがドラゴンで来訪すると聞いていたからだな。混乱させぬように近隣地域一体に外出禁止の措置を取った。先ほど解除したから、じきに平常に戻るだろう」
「え!? 超ごめんなさい!」

 玄関のところで言ってたってやつか! まさかそんな大掛かりな対策を取られているとは思ってなかったよ。だから外の街道も人が全く通らなかったのね。納得。仕事にならないじゃん。街の人も冒険者もマジでごめん。
 ガバッと頭を下げた私にグラフさんは虚をつかれたように目を丸くした。

「…………フハハハッ! 本当になのだな。この街ではたまにあることだ、気にしなくていい」
「たまに……近くにドラゴンが生息してるんですか?」
「そうではない。既知だと思うが、この街は国境がほど近い。高く切り立った山々の間に街道と関所ある。正規で入国出来ない者――所謂いわゆる、賊や犯罪者だな。そいつらが危険な山を越えてまで不法に入国してくることがある。近隣で略奪行為などが発覚した場合、街から出ないように通達している。魔物の場合も同様だ」
「……なるほど」

 でもそれは街から出ちゃダメなだけで、家からの外出禁止じゃなくない? とは思ったものの、あまり深堀りすると申し訳なさが倍増しそうだ。気にするなって言葉に甘えてしまおう。

「えっと、グラフさん」
「あぁ、サーシャでいい。その代わり、私も名前で呼ばせてもらおう。それに話しやすい口調で大丈夫だ。私もこうだからな」
「あ、うん。ありがとう。質問してもいい?」
「あぁ」

 許可を得たので、街の特産品や物価、この辺の魔物の種類や強さ……隣国――問題のヴァリージェ国と、海に面したキューマレ国の情勢などなど。
 思いつくままに質問を重ね、ざっくりとした概要は理解できた。

 国境に位置する切り立った山は危険度からあまり人が立ち入れない。その点では人の脅威は街道に集中しているが、魔物はそうもいかない。さらに、ここ数年のヴァリージェ国の情勢のせいで、流れてきた人達が山に立ち入るようになり、魔物が以前よりも降りてくるようになった。
 賊や犯罪者、流れ者、魔物……問題が起きれば、基本的には騎士団が派遣される。
 先日には賊と魔物の戦闘で山崩れも起きたらしい。だから騎士団もピリピリしているんだそうだ。
 迎えの騎士の態度は「なんで大変なときに旅行者の相手をせにゃならんのだ」ってところかな?

 サーシャさんは祖父と母親が元冒険者だそうで、本人も魔物との戦闘に参加することもあるんだって。
 私達の早い到着もわかっていたけど、アデトア君が「到着後に昼食にするらしい」って伝えてくれていたみたいで、それに合わせて迎えを寄こしてくれたんだそう。
 アデトア君が「おそらくになるが、セナは気にいると思うぞ」って言っていた理由がわかった。考え方が柔軟で、貴族っぽくないからとても話しやすい人である。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

社長の×××

恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。 ある日突然異動が命じられた。 異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。 不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。 そんな葵に課長は 「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」 と持ちかける。 決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。 果たして課長の不倫を止めることができるのか!? *他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...