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《34》もやもや、しくしく、ぬくぬく(1)
しおりを挟む今日もしっかりと定時に仕事を終えてしまった。
どうしてこんな時に限って着付けの稽古があるのだろう。
いっそのこと仮病を使って休もうかと一瞬考えたが、そんなことをしても無意味だと思いなおして、着付け教室に向かっている。
着付けの本が何冊も入った鞄は重くて、そのせいか足取りも重たくなる。
教室で迎えてくれた大和はいつものように正絹の着物を優雅に着こなしていて、目に毒なほど格好良い。
「では稽古を始めようか」
「よろしくお願いします」
どこか灰暗い影を感じながらも、大和の指導のもと着付けを行った。
「瑛美、疲れてる?」
「いえ……」
「今日は倉庫での作業だったし、確かに体力がきついよな」
そんなつもりはなかったのだが、どこか集中力に欠けていたのだろうか。大和にそう指摘されて更に気分が落ち込む。
「残りの時間は座学にしよう。年末で慌ただしいのもあるし、たまにはこうしてのんびり学ぶのも良いと思うんだ」
「はい。すみません大和先生……」
「謝らなくて良い。瑛美の体が大事だから。無理は良くない」
そう言って大和は座卓を取り出した。
「瑛美、おいで」
大和の膝に座るように促される。
嬉しいのと同時に本当に良いのかと迷いが生まれる。
そんな瑛美の様子に気づいたのか、大和は強引に手を引いて瑛美を膝の上に座らせた。
背中から熱が伝わってくる。
「あーやっと瑛美を堪能できる」
そう言ってうなじを嗅がれて、恥ずかしくて肌が赤く染まった。
「大和先生だめ……っ、今日は汗をかいたから」
「確かに匂いが濃いかも」
「やあぁ――!」
「わっ、ごめんごめん。もうしないから、逃げないで」
一目散に離れようとした腰を掴まれて引きずり戻される。大和の少し高い体温に包まれて、胸が締めつけられてなんだか苦しい。
「瑛美好きだよ」
そう甘く囁かれて、瑛美の中で何かが弾けた。
(あ……なんかもう、だめ)
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