【R18】御曹司とスパルタ稽古ののち、蜜夜でとろける

《３３》可愛いは作るもの？（４）

　そうして昼を過ぎても梱包作業は続く。

「あれ、清澄部長って倉庫じゃなかったですか？」
「今広報部に呼ばれて、打ち合わせ中です」
「あちゃー、そっかぁ……この企画資料をもう一度確認して欲しかったんですけど……」
「急ぎでしたら私が持っていきましょうか？」
「本当？　頼んでも良いですか？」

　商品開発部の社員から大和宛ての資料を預かる。企画部は仕事が落ち着いているものの、他の部署は今の時期多忙なのだ。少しでも負担を減らしてあげたい。

「ちょっと広報部へ行ってきます」

　一言声をかけ、倉庫から出る。エレベーターで七階へと向かった。
　一人きりのエレベーター内で、軽く身なりを整えてから、広報部のあるデスクに向かう。

　小さな会議室には大和とひかりの姿があった。全面ガラス張りになっている個室は、声は聞こえないものの中の様子はよく見える。
　隣に並んで椅子に座り、談笑している二人は相変わらず美男美女だ。

（やっぱりこの二人、お似合いだな……いつ見ても入り込む隙なんてないと思ってしまう……）

　一瞬足がすくんでしまう。
　しかし瑛美は急ぎの案件の仕事を預かっているのだ。瑛美の私情で仕事を滞らせるわけにはいかない。

　意を決してノックをして扉を開ける。

「ひかりはそれで良いか？」
「大和くんがそれで良いなら、父も了承すると思う」
「じゃあこれでいこうか」

　そんなやり取りが聞こえてドアノブを握りしめたまま固まってしまった。

「誰かいるのか？」

　その声でハッと現実に戻る。

「打ち合わせ中失礼します。開発部の押田さんから清澄部長に至急確認していただきたいと資料を預かりました」
「あぁ。わざわざありがとう」

　さっと書類を渡すと、そそくさと退出する。大和の顔もひかりの顔も見ることが出来ない。

　――ひかり。
　――大和くん。

　そう呼び合っていた。
　大和は会社の人のことを例外なく名字で呼ぶ。なのに『ひかり』と仲睦まじそうに呼んでいた。

（ひかりの好きな人って……）

　ひかりは気のない男性を誑かすような性悪な女性ではない。だからこそ大和くんと親しみを込めてそう呼ぶには、それなりの理由があるはず。

　瑛美の中に沸き上がった疑問は、ほぼ確信めいたものになる。
　ざわついた心をどうすればよいのか、瑛美にはわからなかった。
　その後、終業まで瑛美はただひたすら梱包作業に集中した――現実から目を逸らすように。