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《32》可愛いは作るもの?(3)
しおりを挟む無事に年末年始の一大イベントの企画内容が固まり、企画部の繁忙期はひとまず終わった。しかしセールへ向けて社内が慌ただしいのは変わらない。
「今日は在庫整理と商品発送の手伝いを依頼されている。倉庫へ行ってそれぞれ指示を仰いでくれ」
企画部社員総出で倉庫へと向かう。体育館ほどの広さがある倉庫には天井近くまで商品が積まれている。
紙に記載されている商品をこの中からピックアップしてそれを段ボールに詰めて発送するという単純な作業をひたすら続けた。
「普段デスクワークだから、たまにこうして体を動かすといかに自分が普段怠けていたのかを痛感するよ」
「激しく同感です……」
アラサーの住吉と瑛美は息も絶え絶えに梱包作業に勤しむ。
「わたし、こういう単純作業は好きです」
「つい最近まで大学生だった白木さんは違うね。なにかスポーツでもやってた?」
「はいっ。テニスサークルに入ってました」
「あぁ、そんな感じするー」
雑談をしながらもしっかりと手は動いている。
つい何度も時間を確認してしまうのは、時間厳守の企画部の性かもしれない。
「おーい。誰かこっち手伝ってー」
「あ、私行ってきますね」
大和の声に反応して、前髪を整えてから小走りに大和の声がするほうへ向かう。
「手伝います」
「深谷か。ありがとう。これを向こうに運んでほしいんだ。いけるか?」
「はい。大丈夫です」
指定された段ボールは重くはないが、大きくて前が見えづらい。でも足元に気をつければ問題はなそうだ。
ゆっくりとした足取りで前に進む。その後ろに同じく段ボールを抱えた大和がついて歩いた。
「瑛美」
「はっ、はい……、大和、ここ会社です」
「うんわかってる」
この空間には企画部の社員全員が揃っている。しかも倉庫はやたら声が響くのだ。
小さな声で名を呼ぶ大和の声色は、明らかに情を含んでいる。誰かに聞かれたら……と背徳感を感じながらも、返事をする。
「早く仕事を終えて、二人きりになりたい」
「わ、私も、です」
大和の前を歩いていて良かった。こんな真っ赤になっている顔、誰にも見られるわけにはいかない。
「ひゃあっ!」
大和に気を取られていた瑛美は床に落ちていたガムテープに気づかず、足を滑らせた。
「瑛美っ!」
間一髪、床に頭を打ちつける直前に段ボールを片手で抱えた大和が瑛美の後頭部をキャッチした。
「わ、すすすいません清澄部長……!」
「怪我はないか?」
「大丈夫ですっ」
「良かった。俺もいきなり声をかけて悪かったな」
「いえ、私の不注意でしたから。お声をかけていただいて……嬉しかったです」
瑛美の乱れた髪を優しく治してくれる。スカートの裾を払いながら、大和を見つめるとそのまなざしには熱がこもっていた。
胸がむず痒いような不思議な感覚に襲われる。
「今日も定時で終わろうな」
「はい!」
再び段ボールを抱えなおして作業を再開した。
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