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《31》可愛いは作るもの?(2)

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 一通り買い物が終わり、お腹がすいた二人は近くにあるイタリアン料理のお店へと向かう。思い思いのメニューを注文して、ふぅっと一息つく。

「ひかり、今日は買い物に付き合ってくれてありがとね。すごく助かったよ」
「ううん、私もたくさん買っちゃったし。十二月ってイルミネーションも始まるしあちこちにクリスマスのオブジェが飾られていて、それだけでテンション上がっちゃう」
「うん。確かにそうだね」

 注文した葡萄ジュースで乾杯する。お酒の苦手な瑛美にひかりが合わせてくれたのだ。こういう気遣いが出来て優しいところが、ひかりが皆から慕われるところなのだと思う。

「もうすぐクリスマスだけど瑛美は予定あるの?」
「うーん、多分何もないと思う……」

 今年のクリスマスは平日だ。普段通り仕事があるし、終業後も大和は着付けの仕事がある。きっといつもと同じように直帰して、一人部屋でのんびりと過ごすことになるだろう。

「ひかりは?」
「私も特にないかなぁ」
「嘘、たくさんお誘いあるでしょ?」
「何人かに食事に誘っていただいたんだけど、クリスマスにその気がないのに食事に行くのは相手に失礼かと思って断ったんだ」
「そっか。ひかりって可愛いし人気者で、だけどそういうしっかりしているところもすごく尊敬するなぁ」
「なにそれ~。ありがとう」

 本当に完璧な女性だと思う。同性から見てもこんなに素敵なのだから、男性が放っておくはずがないのだ。
 小首を傾げて柔らかく微笑む仕草も気品と可憐さがあって、見習うところばかりだ。

「瑛美だから言うけど、私ずっと好きな人がいるの。全く相手にされていないんだけどね」
「えぇっ、そうなんだ! こんなに可愛いひかりに靡かない男性なんてこの世にいるなんて……」
「いや普通にごまんといるから!」
「いやいや、私が男だったら絶対ひかりを好きになるもの」

 顔を見合わせてクスクスと笑う。

「私たち来年は三十歳になるでしょう。両親からもそろそろ結婚は、とせっつかれていて。でも諦めたくないから、もう少しだけ頑張るつもり」
「ひかりなら絶対大丈夫だよ。私いつでも話聞くから」
「ありがと。すごく心強いよ」

 まさかひかりが片思いをしているなんて知らなかった。ひかりの周りには常に男女問わず人が居るし、そんな素振りは一切なかったから。

 ――こんな見た目も中身も完璧なひかりですら一生懸命頑張っているんだ。私ももっと頑張ろう。

 そうやる気スイッチを連打された一日となった。



 金曜日の朝。少しだけ早起きをした瑛美は鏡の前に座り、新しく買った化粧品を開封する。キラキラと可愛らしい装飾がついた蓋を開けると甘いバニラの香りが広がって、それだけで幸せな気分に浸る。
 瞼に色をのせ、最後に唇に紅を引いた。
 ほんのちょっぴり、血色がよくなって可愛くなった……かもしれない。少なくとも毎回同じものばかり使っていたときと比べて、印象が華やかになっている気がする。

(気づいて欲しいなんて、そんなことは思わないけど……一瞬でも良いから、可愛いって思ってもらえたら嬉しいな……)

 付箋をつけた着付けの本を鞄に入れ、定刻通りに部屋を出る。
 今年もあと二週間ほど。凍えるような寒さの中、肩を丸めながら駅へと向かった。

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