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《4》地味アラサー女は穏やかに過ごしたい(4)
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「では本日は初回ですので長襦袢の着方と着物の着方をお教えします」
おろおろと視線が泳いでしまう瑛美をよそに、淡々と授業が進んでいく。
大和の指導はわかりやすい。装飾語を省き、簡潔な言葉で説明してくれるのですんなりと頭に入っていく。
会社で指導してくれる時は威圧感があってただただ怖かっただけなのに、着付け教室では終始穏やかで物腰柔らかい。少しずつ瑛美の緊張が解けていく。
「衣紋と言って、女性はうなじ部分に空白を作ります。およそ指四本分の隙間が美しいとされています」
「襟合わせは全て左側が上です」
「長襦袢はしわなく身にまとわせて。長襦袢が乱れていると、上にまとう着物も乱れてしまいます」
和室の壁の片一面が全て鏡になっており、自分の着姿を確認しながら教わった通りに手を動かしていく。
「次に着物を着ていきましょう。女性と同じように着付けていくので、手の動きをよく見てください。一緒にやりましょう」
大和はそう言って男帯をほどき、腰に結ばれていた紐を解いた。
もちろん男性も下に長襦袢を着ているのだが、襟合わせから除く肌が艶めかしくて。指導を受けているにもかかわらずドクンと胸が高鳴った。
きっちりと着こなされた長襦袢の上からでも、大和の猛猛しい体つきがわかる。
(今まで全く意識したことなかったけど、意外と筋肉ある……ってだめだめ、集中しないと!)
邪念を振り払うように軽く頭を振る。
「裾を合わせた後は腰紐を結びます。この紐一本で着物の全てを支えることになるので、しっかりと強く結びます。そうしないと緩んで着物がズルズルと脱げていきますからね」
大和の見本通りに腰紐をあて、後ろへ回し、交差して引き締める。
「本来は片なわ結びという結びをするのですが、今日は一回目なので普通に蝶結びにしましょう。まず一度自身で着てみることが大切ですから」
「えっと……あっ」
着物は意外と重量があって、結んでいる最中に紐が緩んでしまう。
「焦らずに。ここで交差した紐を一度手で押さえて。そうするともう一方の手は放しても緩みません……そう上手」
「ありがと、ございます……」
手が触れて至近距離で目が合って、顔が熱くなった。
なんだか頭もクラクラしてくる。
「瑛美さん?」
「あれ……大丈夫、です……」
足がもつれてふらついてしまい、大和の長い腕に支えられる。なんだか地震が起きたように、ぐらぐらと視界が揺れている。
なぜだろう。疲れが溜まっているのだろうか。慣れない着付けに体が追いついていないのだろうか。
「……ちょっと失礼」
長襦袢の襟元に指をかけ、緩められる。のぼせた頭では拒むこともできず、ただぼうっと大和の男らしい喉仏を見つめていた。
「きつく締めすぎだ、馬鹿」
おろおろと視線が泳いでしまう瑛美をよそに、淡々と授業が進んでいく。
大和の指導はわかりやすい。装飾語を省き、簡潔な言葉で説明してくれるのですんなりと頭に入っていく。
会社で指導してくれる時は威圧感があってただただ怖かっただけなのに、着付け教室では終始穏やかで物腰柔らかい。少しずつ瑛美の緊張が解けていく。
「衣紋と言って、女性はうなじ部分に空白を作ります。およそ指四本分の隙間が美しいとされています」
「襟合わせは全て左側が上です」
「長襦袢はしわなく身にまとわせて。長襦袢が乱れていると、上にまとう着物も乱れてしまいます」
和室の壁の片一面が全て鏡になっており、自分の着姿を確認しながら教わった通りに手を動かしていく。
「次に着物を着ていきましょう。女性と同じように着付けていくので、手の動きをよく見てください。一緒にやりましょう」
大和はそう言って男帯をほどき、腰に結ばれていた紐を解いた。
もちろん男性も下に長襦袢を着ているのだが、襟合わせから除く肌が艶めかしくて。指導を受けているにもかかわらずドクンと胸が高鳴った。
きっちりと着こなされた長襦袢の上からでも、大和の猛猛しい体つきがわかる。
(今まで全く意識したことなかったけど、意外と筋肉ある……ってだめだめ、集中しないと!)
邪念を振り払うように軽く頭を振る。
「裾を合わせた後は腰紐を結びます。この紐一本で着物の全てを支えることになるので、しっかりと強く結びます。そうしないと緩んで着物がズルズルと脱げていきますからね」
大和の見本通りに腰紐をあて、後ろへ回し、交差して引き締める。
「本来は片なわ結びという結びをするのですが、今日は一回目なので普通に蝶結びにしましょう。まず一度自身で着てみることが大切ですから」
「えっと……あっ」
着物は意外と重量があって、結んでいる最中に紐が緩んでしまう。
「焦らずに。ここで交差した紐を一度手で押さえて。そうするともう一方の手は放しても緩みません……そう上手」
「ありがと、ございます……」
手が触れて至近距離で目が合って、顔が熱くなった。
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「瑛美さん?」
「あれ……大丈夫、です……」
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なぜだろう。疲れが溜まっているのだろうか。慣れない着付けに体が追いついていないのだろうか。
「……ちょっと失礼」
長襦袢の襟元に指をかけ、緩められる。のぼせた頭では拒むこともできず、ただぼうっと大和の男らしい喉仏を見つめていた。
「きつく締めすぎだ、馬鹿」
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