中条秀くんの日常

藤野 朔夜

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大学一回生になりました

夏の合宿が、あるらしいです

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  今日は早く帰ってこい。久しぶりに太一に言われたから、仕方なくサークルの集まりは、家の用事という都合で欠席した。
  帰った瞬間鍛錬場に拉致られた。
  太一からの挑戦状。第何弾だっけ、これ。全戦全勝してるけど。太一に負けてやるつもりは、まだない。
  だから、純とのコンビでも良いぞっていつも言っているのに、太一は一人で突っ込んでくる。負けてやんねぇよ。太一と純の二人がかりでも、負ける気はない。
  まぁ、純は見てる立場に立つらしいので、純の近くに鞄を置いておく。
  下手なとこに置いとくと、鞄が破損するから。
  太一は俺が帰って来るまでに、体を温めていたらしい。俺は少し肩ら慣らし。いきなり動けるものでもないし。いつもしてる。
  準備運動的なストレッチをしてから、太一に声をかけた。
「いつでも良いぞ」
  と。
  だいたいは太一からの攻撃が先だ。
  太一は遠距離が得意だから、あまり接近戦にはなりはしない。俺も中距離から遠距離だし。
  ドゴッと音がして、太一からの攻撃が始まる。
  音はすごいが、太一の武器が投げナイフとかの飛び道具だからであって、俺には当たってない。
  壁には突き刺さってたけど。後で直せよ、太一。
  っと、びっくりした。いつの間に短剣での短距離攻撃を、自分の戦い方に加えたんだ?
  ま、投げナイフ、狙っても当たらないんだから、それをフェイクにしての短距離攻撃か。考えたな。
「へぇ、うまく考えたな」
  そう言いながら、避け続ける。
  こっち武器無しなんだけど。遠慮無しだなぁ。避けれるけど。
  とりあえず、手刀の要領で、太一を吹き飛ばす。
「はい。こちら秀さんの携帯ですが、ご本人が現在事情が有って出られません。ご用件承ります」
  あぁ?壁際にいた純から、何か聞こえた。
「おい、純。人の携帯勝手に出るな」
  太一をいなしながら、純に抗議の声を上げる。
「だって、ずっと鳴りっぱなしでしたよ?留守電機能付けてなかったでしたっけ?」
  悪びれもなく、純が答えてくる。だってじゃねぇよ。多分、俺の鞄から、ずっと鳴ってたんだろうけど。
  そういえば、面倒な情報屋からの連絡がウザくて、留守電機能解除してたな。
「面倒な奴から面倒な留守電が入るから、機能解除してたんだよ。おい、相手誰」
  まさか、その面倒な奴じゃないだろうな。
「榊ゆう……って、切れてるんですけど」
「切ったんだよ」
  俺の能力、携帯やらパソコンやらにも便利すぎる。一瞬で純のいる所まで行って、かけ直しをする。
  太一が純がいるとか関係なしで突っ込んで来たから、回避しながら。
「ごめん。ちょっと今……」
  うーわ、太一容赦ねぇし。俺言葉途中で切れた。
  とりあえず、足技で太一を吹っ飛ばしとく。しばらく起きて来るな。
『さっきの、誰?』
  あれ、祐也がちょっと不機嫌っぽい。
  あぁ、俺の家来たいって言ってたの、まだ実現できてないから、太一や純にも会ってないな。
「さっきの?アレは太一の片割れ。で、何?」
  純のことはどうでもいい。要件早く聞かないと、太一が起きてくる。太一の片割れで、通じるかどうかは知らないけど。
『あぁ、夏にバンドの強化合宿やるって話しなんだけど。霊安寺で』
  はぁ?なんか祐也から聞くには不思議な単語が最後に聞こえた。
  強化合宿はわかるけど。
「どこで、やるって?」
  どこで、を殊更強調してしまった。否、聞こえてるんだけど。
『霊安寺』
  やっぱり幻聴じゃなかったか。
  合宿?だろ。なんで寺なんだよ。待て……。
「……あぁ、あの民宿か。っとヤベ……」
  霊安寺のことでちょっと呆けた瞬間を狙ってか、太一の攻撃が再開した。もう少し寝てろよ、お前。意外と頑丈だな。
  というわけで、秘義……とかなんでもないけど。単に太一が投げたナイフ使って、太一の首に刺さる手前で寸止めしただけだが。
「よし、俺の勝ち」
「だぁぁぁぁぁ、また負けた」
  太一を一歩も動けなくして、俺の勝ち宣言。撤回は無理のようだ。
「ごめん。で、霊安寺で合宿だっけ?日程さえわかれば調整する」
  そう言ったら、祐也の『わかった』って声が少し弾んで聞こえた。不機嫌そうなの直ったかな。良かった。
「秀さーん。今の、恋人ですか?」
  うげ、やっかいな高校生がいたんだった。
  いつぞやの、純との会話を思い出す。否、忘れてないけど、いつだったかとか。
  初めて祐也の家に泊まりに行った時の、週末の日曜日だったから。
  あの時から、なんでか祐也に会いたい、会ってみたいと、純がうるさい。否、連れてくる気はあるから、そのうち会えるとか答えてて、未だにそれが実現されてないだけなんだけど。
「霊安寺で合宿すんの?夏休みに?」
  太一が復活した。元から倒れてたわけでもなかったんだけど。
「あぁ、バンドの強化合宿らしいけど」
  そういえばこいつらも、夏休みに霊安寺のとこ行くとか何とか、言ってなかったか?
  夏に霊安寺には魂鎮めに行くから、元々俺は行く用事が有るんだが。まぁ、うまいこと日程調整すれば、バンド練習は可能だろう。
  魂鎮め、夜にやるし。
「秀さん、いつの間にバンド活動始めたの?」
  太一が不思議そうに聞いてくる。あれ、言ってなかったか。
「俺サークル軽音なんだけど」
「マジで?え、本当に?秀さん歌ってたりするの?」
  太一が何故か異様に食いついている。まぁ、純相手の会話より、こっちのが断然気楽なんだが。
「楽器はできないからな、俺」
  壊しそうで、触れもしない。電子機器に通用する能力も、少し考え物だと思う。
  だから、未だにマイクのセット、祐也か真さんに任せっぱなしだ。わからない、を理由に。説明はされたから、頭には入ってるんだけど。
  あの機材が、どういう作りになってるかさえわかれば、問題はないのだが。
「へー、俺らが行く時と被んないかなぁ。被ってたら、秀さんの歌聞けるのに」
「そうだね。被ってたら、秀さんの恋人にも会えちゃうよね」
  入り込んできたよ、純が。
  太一だけだったら、音楽話しだけですんだのに。
「そうだ!秀さんに恋人いるって、学校で噂になってたけど。あれどこから出たの?」
  それは純からだぞ、太一。純からだからこそ、学校全体、果ては卒業生にまで出回ったらしいぞ、その噂。
「俺が発信源ですよ。いい加減、秀さん宛の何だかよくわからない物の橋渡し、断るの面倒になったので。秀さんに恋人いるって発覚した次の日から、断りの文句に言いました」
  俺知らなかったんだけど!とか太一が言ってるけど。うん。普通はわからないんだよ、太一。純恐い。
「何言ってるの、太一。あれだけあんまり出かけなかった秀さんが、最近週末の度に出かけてるじゃない。気付きなよ」
  否、太一が言いたいのは、噂の発信源がお前だってこともじゃないのか?と思いつつ、入ったメールを見る。
  合宿の日程だった。夏休み入ってすぐじゃないか。魂鎮め、さすがに三日とかじゃ終わらないぞ。仕方ない、しばらく夜は霊安寺籠りしよう。
  祐也や敏行は、何となくでわかってくれそうだけど。真さんとか滝とか、その他行く人たちへの説明が面倒だな。
「日程?いついつ?」
  妙にはしゃいでいる太一がいる。否、お前はお前のバンド頑張れよ。何で俺のバンド見に来る気満々なんだよ。
「俺も気になりますね」
  太一と違って、なんだかうすら寒くなるような笑顔を向けるな。
「夏休み入ってすぐ」
  色々面倒になって、素直に答える。俺は夏休み入った瞬間に、霊安寺行かなきゃならないから、行きは皆と別行動しないとだな。それも説明が面倒なんだが。仕方ないか。
「え、魂鎮めどうすんの?」
「夜に霊安寺籠りする。何とかなるだろ」
  本当に、色々と面倒だな。自分の事情が。
「俺たちも夏休み入ってすぐの日程だから、被るんじゃん?俺らも魂鎮め手伝う?」
  太一が聞いてきてくれる。たしかに、三人で行えば、それなりに早く終わるし、分担もできるが。
「俺らはただの学生軽音サークルの、バンド練習だからな。お前らたしか、インディーズのデビューシングル、作るんじゃなかったか?」
  そんな人たちを人手として使うのは、さすがに気が引ける。
  っていうか、そんな重大な練習なのに、俺のバンド見に来ようとするなよ。
「CD作るわけじゃなくて、単なる練習だし。曲作りは兼ねてるけど。俺らのバンドメンバー、気にしないから大丈夫だよ?」
  うーん。太一たちのバンドメンバーは、たしかに太一と純の力のこと知ってるし。
  まぁ、でも……。
「重大さは変わらないだろう。時間が空いてるなら手伝っては欲しいが、わざわざ時間を作らなくて良い」
  俺は毎年やってることだから、問題はない。ただ、バンド練習時以外の時間は、休憩に充てそうだけど。
  海に行く?勝手に行って来い、とか言いそうだな、俺。元々海に入るのは、あまり好きでもないし。住職が何を思ったのか冬の海に、修行だー!とか言って、俺を放り込んだことが起因してるけど。あの時は本気で、死んだら住職を怨む、とか思った。
「わざわざ時間作らなかったら、秀さんのバンド見れないじゃん」
「わざわざ時間作ろうとしなければ、秀さんの恋人に会えないじゃないですか」
  なんでこの二人、言ってることが全く違うのだろう。
  しかも、魂鎮めの話し、どこ行った。
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