中条秀くんの日常

藤野 朔夜

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大学一回生になりました

食後に甘い一時を

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「秀は、コーヒーブラックでも良い?」
  ブラックしか作れないんだけど、と思いながら祐也は秀に聞く。
  材料の問題でも、自分の嗜好がブラックだからでもある。
「ブラックが、良い」
  ご飯を食べたからか、秀は少し落ち着いて来ていた。
  始めは、ご飯の味がわからなかったらどうしよう、と秀は考えていたのだが。思った以上に祐也のご飯は美味しかった。
  誰かが作ってくれるって、すごい良いなと秀は思ったのだ。
「おーぅ、はい」
  祐也は秀にコーヒーを渡す。
  姿勢はしっかりしたまま、秀は机の前に座り続けている。
「楽な格好で良いよ?疲れない?」
  ブラックが、良いって可愛いなぁ。もはや秀が何を言っても可愛いとか思いそう、と祐也は考える。いや、それはこれまでと変わってないな。と苦笑いしてしまったが。
  祐也に言われて、正座のままだった秀が、少しだけ足を崩して座り直した。
「濃すぎたりしてない?」
  足崩してても姿勢が良い秀は、もう可愛い以外の何者でもないな。祐也は考えながら、コーヒーについて聞いて、紛らわそうとする。
「ん。もう少し濃くても良いくらい」
  一口飲んだ秀が答える。
  よしよし、秀の好み把握と、祐也は思った。こうやって、少しずつでも、好みを把握していかなきゃな、と。
  普段はベッドにもたれたりするのだが、それをしてしまうと秀との距離が少しだけ空いてしまうので、さっきご飯を食べた時と同じ位置に座る。
  カーペットはちゃんと敷いてあるが、クッションなどは置いていない。
  机は床に直座りした方が楽な高さなので、ソファを置く気は今のところ祐也にはない。というか、ソファを置いたら、手狭になる。
  が、座椅子とか、クッションとかあると楽かもしれない。そう祐也は思った。
  一人だと、あまり気にしないことが、秀がいることで気になってくる。
「何?」
  じっと見過ぎていたからか、秀に問われて祐也はハッとする。
  いかんいかん、秀とせっかく二人きりなのに、何も話さずで終わる訳にはいかんだろ。
「秀とキスしたい」
  そのまま願望出してどうするの、俺?!
  祐也は慌てふためく。
  いや、俺クッションとか座椅子のこととか考えてたのに、なんでいきなりキスだよ?!
  会話しようとして、それはないだろう、と祐也。
「な、に、……?」
  慌てているのは秀も同じだ。
  言葉は理解した。理解できたけれど、固まって、真っ赤になっている。
  祐也はもう、言葉にしてしまったから、無しにする、という考えは捨てた。
「秀は俺と、キスしたくない?」
  もうここは、押して押して押しまくる。
  祐也は少し秀に近付く。
「否、あの、え、と……」
  秀は視線を彷徨わせている。
  嫌だと簡単に突っぱねない秀に、祐也は押す姿勢を変えない。
「俺は秀とキスしたい」
  もう一度ハッキリと、口に出す。
  そのまま秀に手を伸ばすが、嫌だと撥ね付けられはしなかった。
  サラサラした髪を撫でて、頭の後ろに手を置いて秀の頭を固定してしまう。
「っ、あ」
  何も言えなくなっている秀は、真っ赤な顔を隠すように俯いてしまったけれど。
「秀」
  耳元に囁いて、さらに体を密着させる。
  ピクリと震えた秀は、ゆっくりとだけれど顔を上げた。でも、間近にありすぎた祐也の顔に、真っ赤な顔がさらに熱を帯びる。
  恥ずかしさを隠すためか、ギュッと目を瞑った秀が、可愛すぎるでしょう、と祐也は思う。
  そのまま、少し触れるだけのキス。
  でも、全然足りなくて、再度口付けていた。
  強引に、唇を割ることはしない。固く閉ざされている秀の唇を、祐也の舌が舐めていく。
  少しでも、嫌だって素振りが見えたら、すぐに止めようと思っていたのに。祐也はそのキスを止めることができなくなっている。
  キスだけで、こんなに固まってしまっている秀だ。その先に行きたい気持ちは押し殺して。
  キスだって唐突に、早すぎる段階でしていることは自覚している。
  秀の手が、裕也の服の裾を引っ張った。
「ん。ごめん。嫌だった?」
  祐也は秀の唇を舐めるのをを止めて、秀をキスから解放する。
「ちが、う。息、できない……」
  深いキスではなかったけれど、ずっと口を塞ぎすぎたらしい。
  秀は慣れてないんだ、慣れてないから。だから……可愛いと思う気持ちを、どうやって押さえたらいいですかー!祐也は心のままに、秀を抱き締めていた。
  ぎゅうっと、でも苦しくないように気遣って。
  駄目だな、この先なんて、本当にゆっくりしていかないと。
  祐也は戒めながら、でも、まだキスしたい。と本能が訴えている。
「祐也、ごめん。俺慣れてないから……」
  どうしたら良いのか、わからない。と秀は祐也を見る。
  真っ赤なまま祐也を見る秀の顔。祐也への破壊力は半端なかった。
「息ちゃんとできるようにするから、もっとキスして良い?あと、鼻で息したら良いよ」
  止めどなく溢れる本能のまま、答えは聞かずにまた秀の口をふさぐ。
  何かを答えようとしていたところを狙ったから、今度は秀の口の中まで。
「んん……!?」
  驚いた秀が、体をさらに強張らせたけど。
  大丈夫だよ、というように、頭に添えた手で、頭を撫でる。
  これ以上はしないから、もう少し堪能させて、いきなり唐突にしちゃってごめん。心の中で祐也は謝りながら。
  歯列をなぞり、上あごを撫でて。祐也の舌が、自分の口の中で動くことに、秀の体がピクリと反応をする。
  体から力が抜けてしまったのか、秀はすがるように祐也にもたれている。
  可愛い反応。
  口を塞いでいるから、時おりくぐもった秀の吐息が聞こえる。
  ちゃんと息ができるようにする、って言ったから、角度を変える度に少しだけ空間を開けて。
  やっぱり鼻で息するのも秀は、止めてしまているみたいで。それはそれで可愛いけど。
  奥へと逃げた秀の舌を、祐也の舌が追いかけて、絡めた。
  さっきブラックコーヒーを飲んだばかりなのに、秀の口の中は甘くて。
  甘いのは苦手だけど、秀のこの甘さは癖になるな、とか祐也は考える。
  舌を絡めて、舌先で刺激されることに、耐えられなくなったのか、秀が祐也の胸元を遠慮がちに叩く。
  慣れてない秀にこれ以上は駄目か。俺も理性崩壊しそうだし。とやっと祐也は秀を解放した。
「ん、はっ……」
  唇が離れてもれた、吐息が甘い。
  唾液で濡れた唇は、赤くなって主張しているかのようで。
  もう一度食らい付きたくなるのは、なんとか我慢した。
「ごめん。ちょっと理性崩壊しかけた」
  これで、ちょっとなのか?!秀は内心ではとてつもなく驚いているのだが。
  祐也にもたれたまま、しびれたように動かないのは、体中全てで。
  だから、言葉を発せなかった。
「秀本当、可愛い」
  そう言って、頭を撫でてくれる祐也の手が、暖かくて優しいから。反論なんてなくなったのだけど。
  祐也にもたれたままの姿勢であることに、秀が気付いて、これって抱きついてるみたいじゃないか、と慌てて離れようとしたけれど、祐也は秀を離さなかった。
「もちょっと、くっついてようよ」
  祐也がそう言って、離してくれないから、なんて言い訳を心の中でして、秀はそのままでいることにした。
  なんとなく、祐也が慣れている様子なのが、面白くないと秀は思いながら。
  慣れてなかったら、あんなキスされないだろうけど。
  先程のキスを思い出してしまい、一人で赤面だ。
  そういえば、顔を赤くしてるのも、体を強張らせているのも、何もかも自分だけだ。秀はさらに面白くなくなる。
  可愛いとか、好きだとかも、良い慣れてるのかな、と。
  これまでに、祐也に恋人がいたっておかしくはない。だけど、面白くない。
  なんだろう、この気持ち。秀は一人で考える。
「秀、考え事?」
  祐也の言葉に秀は驚いた。
  こうやって、自分を察してくれるのは、多分祐也だからだろう。
「別に……」
  なんでもない、と言いかけて、秀は思い止まった。
「祐也が、慣れてるのが、面白くないって……」
  何と無く、自分の心内を吐露することが、秀には恥ずかしいことに思えて、言葉は小さくなっていってしまったけど。
  途端に祐也に強く抱き締められた。
「え、祐也?」
  俺変なこと言っちゃったのか、と。
「秀、本当に可愛いんだけど。俺もう、忍耐力と勝負し過ぎて大変」
  は?訳がかわらず、秀は体を少しだけ起こそうと努力する。
「あー、ダメダメ、秀。俺の顔今変なことになってるから」
  祐也が秀の頭を抑え込んで、起きられないようにしてしまう。
  抱き締められたまま、どうしたら良いのかわからず、そのままになる秀。
  というか、祐也がどの辺で、どう自分のことを可愛いと言ってくるのか、本当に意味がわからない。と秀は思った。
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