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過ぎ去る、秋
第三章 ②
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事務所には、正と亜希羅と秀。
ここのところ、三人で情報交換が、主になっていた。
情報網は、それぞれが持っている。でも、三人集まっても、どの情報網にも引っかかってはこない。
「三人寄れば文殊の知恵、というけれど。これじゃ、知恵も何もないわね」
亜希羅が、溜め息をついた。
文殊菩薩にすがりに、葛城山にでも行こうかしら。なんて言い出している。
「いきなり仏教徒にならないでくださいね」
話しがズレていく兄と姉を見ながら秀は、一息つく為にコーヒーでも淹れるかと、立ち上がる。
「般若経典、だっけ?」
秀も話しがズレている。
「そこを掘り下げなくても良いわよ。霊安寺と懇意にしてるんだから、どっちかというと、仏教徒じゃない」
掘り下げなくて良いと言いながら、話しは戻らない。
「霊安寺は、何を奉っていました?」
正に問われて秀は、あれと思う。
「俺、そういうの関係なしに、霊安寺にいた」
「まぁ、そうね。私も知らないわ」
秀は霊安寺に長くいたこともあるが、その秀が知らないと言う。
亜希羅も、知らない。正も、質問しただけあって、知らないのだ。
「私たちは、仏教なのでしょうか。神道ですかね。それともまた違う何かでしょうか」
「儒教、っていう考えも」
コーヒーを渡しながら、正の言葉に秀が付け足す。
「ま、キリスト教じゃあないわね」
亜希羅が、最もなことを言う。
それはそうだ、と正と秀は頷いた。
「この時代、どんな宗教とかは、関係ないのでしょうね」
海を渡ってくるモノもいる。
そんなモノにも対抗出来うる力を、持たなければならなかった。
だからこそ、立名の留学があったのだ。
日本は海に囲まれているから、と安心できる時代ではない。交通手段が出来てくるとともに、そういうモノたちも、移動してくる。
「日本が特別何かの宗教だけを、突出させてないからって感じもあるけど」
秀はそう正に言う。
ああ、そうか、と正は納得する。
異国の地。自身とは異なる宗教概念の場。それは、闇の住人にだって、力の影響が出る。
だが、日本は、どの宗教を重んじる、ということがない。
宗教も、自由なのだ。自由自在に、容を変えて、新しいものができたりする。
古来からのアニミズムの精神は、宿っているかもしれないが。
八百万の神を奉る国だ。どんな宗教の神々も、受け入れてしまっている。
「アニミズムって言われた方が、納得できるわね」
亜希羅が言う。
生きとし生けるもの、全てに神が宿っている。
その概念が、一番しっくりくるのかもしれない。
「それは、神道の概念にも……って、違いますね。宗教談議ではないです」
切り替えるように、正が言う。
話しがズレにズレたが。
「ここまで情報がないと、全く違う角度の話しをしたくなるのよ」
行き詰っている。
だからこそ、全く関係ない話しでもしていないと、やってられない。亜希羅はそう言う。
「正兄の情報網も、亜希姉の情報網も、俺の情報網も当てにならない。情報屋からの情報もなし。見事に行き詰まり、だな」
秀は椅子の背もたれにもたれかかりながら、今の現状を確認するように言う。
パソコンは、一台のみ開いているだけで、後は閉じたままだ。
その開いているパソコンも、情報屋からの連絡を待つのみで、情報を探索しようという気が起きない。
「どこに、どうやって潜伏してるのでしょうね」
以前、天野に会いに行った時には、簡単に探し出せた。
でも今は、まったく何も、手掛かりがない。
以前会いに行けたのは、天野本人が会う意思があったからなのだろうか。
相手の掌の上で、躍らされているかのようで。自分たちがとても滑稽に思えてきてしまう。
「おもしろくないわね」
ポツリと亜希羅が呟いた。
自分の自由に動くことを、亜希羅は望んでいる。だからこそ、だろう。
相手の良いように動かされているという事実が、亜希羅には許せない。
そんな妹を見ながら、正は宣言を再度した。
「考えは変わりません。秋人を取り返します」
ここのところ、三人で情報交換が、主になっていた。
情報網は、それぞれが持っている。でも、三人集まっても、どの情報網にも引っかかってはこない。
「三人寄れば文殊の知恵、というけれど。これじゃ、知恵も何もないわね」
亜希羅が、溜め息をついた。
文殊菩薩にすがりに、葛城山にでも行こうかしら。なんて言い出している。
「いきなり仏教徒にならないでくださいね」
話しがズレていく兄と姉を見ながら秀は、一息つく為にコーヒーでも淹れるかと、立ち上がる。
「般若経典、だっけ?」
秀も話しがズレている。
「そこを掘り下げなくても良いわよ。霊安寺と懇意にしてるんだから、どっちかというと、仏教徒じゃない」
掘り下げなくて良いと言いながら、話しは戻らない。
「霊安寺は、何を奉っていました?」
正に問われて秀は、あれと思う。
「俺、そういうの関係なしに、霊安寺にいた」
「まぁ、そうね。私も知らないわ」
秀は霊安寺に長くいたこともあるが、その秀が知らないと言う。
亜希羅も、知らない。正も、質問しただけあって、知らないのだ。
「私たちは、仏教なのでしょうか。神道ですかね。それともまた違う何かでしょうか」
「儒教、っていう考えも」
コーヒーを渡しながら、正の言葉に秀が付け足す。
「ま、キリスト教じゃあないわね」
亜希羅が、最もなことを言う。
それはそうだ、と正と秀は頷いた。
「この時代、どんな宗教とかは、関係ないのでしょうね」
海を渡ってくるモノもいる。
そんなモノにも対抗出来うる力を、持たなければならなかった。
だからこそ、立名の留学があったのだ。
日本は海に囲まれているから、と安心できる時代ではない。交通手段が出来てくるとともに、そういうモノたちも、移動してくる。
「日本が特別何かの宗教だけを、突出させてないからって感じもあるけど」
秀はそう正に言う。
ああ、そうか、と正は納得する。
異国の地。自身とは異なる宗教概念の場。それは、闇の住人にだって、力の影響が出る。
だが、日本は、どの宗教を重んじる、ということがない。
宗教も、自由なのだ。自由自在に、容を変えて、新しいものができたりする。
古来からのアニミズムの精神は、宿っているかもしれないが。
八百万の神を奉る国だ。どんな宗教の神々も、受け入れてしまっている。
「アニミズムって言われた方が、納得できるわね」
亜希羅が言う。
生きとし生けるもの、全てに神が宿っている。
その概念が、一番しっくりくるのかもしれない。
「それは、神道の概念にも……って、違いますね。宗教談議ではないです」
切り替えるように、正が言う。
話しがズレにズレたが。
「ここまで情報がないと、全く違う角度の話しをしたくなるのよ」
行き詰っている。
だからこそ、全く関係ない話しでもしていないと、やってられない。亜希羅はそう言う。
「正兄の情報網も、亜希姉の情報網も、俺の情報網も当てにならない。情報屋からの情報もなし。見事に行き詰まり、だな」
秀は椅子の背もたれにもたれかかりながら、今の現状を確認するように言う。
パソコンは、一台のみ開いているだけで、後は閉じたままだ。
その開いているパソコンも、情報屋からの連絡を待つのみで、情報を探索しようという気が起きない。
「どこに、どうやって潜伏してるのでしょうね」
以前、天野に会いに行った時には、簡単に探し出せた。
でも今は、まったく何も、手掛かりがない。
以前会いに行けたのは、天野本人が会う意思があったからなのだろうか。
相手の掌の上で、躍らされているかのようで。自分たちがとても滑稽に思えてきてしまう。
「おもしろくないわね」
ポツリと亜希羅が呟いた。
自分の自由に動くことを、亜希羅は望んでいる。だからこそ、だろう。
相手の良いように動かされているという事実が、亜希羅には許せない。
そんな妹を見ながら、正は宣言を再度した。
「考えは変わりません。秋人を取り返します」
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