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君が消えた、夏
第一章 ②
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秋人は、生徒会の資料を見ながら、考え込んでいる。
資料の内容が、頭に入って来ない。
ここのところ、そんなことばかりで。会議前に慌てて、資料に再度目を通すことになっている。
前までは、一度できっちりと内容は頭に入っていたのに。
あの男に会ってからだと、秋人はわかっていた。
誰にも相談してはいけない。その呪縛が、秋人をさらに追い詰めている。
悟られても、いけない。追及をかわす術が、自分にはないから。秋人は、常に気を張っていなければならなくなった。
章といても、だ。
章に追及されたら、俺はかわせない。それがわかっているから、つとめて普段通りに、と。
勇の鍛錬に参加しながら、秋人は自分を鍛えていた。
あの男を、自分の力で撃退できないか、と。
それができたら、多分一番良いのだ。自分が弱いから、あんな男の呪縛にさえ、勝てない。
このままでは、いけない。秋人はそう考えた。
だから、勇の鍛錬というのは、秋人にとっては願ってもないことなのだ。
勇を鍛えているように見せながら、自分を鍛えられるからだ。
否、実際に、勇をちゃんと鍛えてはいる。
自分の力であの男を撃破できなかった場合、章を守って欲しいという思いから。
章を守る役目は、秋人自身だった。でも、実際は、守るどころか、守られている方だ。これではいけないと、秋人は思う。
この間の戦闘で、痛感した自分の力不足。
「俺が、ずーっと守ってやる。だから、ずっと一緒にいような」
幼い頃にした、章と秋人の約束。
章は、覚えていてくれるだろうか。
章はすでに、あの頃恐がっていたモノを、自分で滅する力を持っている。
秋人は、ただただ、章に守られながら、戦うだけだった。
「守ってやるっていうのは、あの施設にいた間だけだったな」
ポツリと呟く独り言。
見えるだけだった章。見えるだけだったから、怯えていた。
でも、今は……。
「会長?」
独り言を聞かれたのか、役員から声がかかる。
「なんでもない」
相手を一瞬だけ見やり、秋人は再度資料に目を向けた。
相変わらず、言葉の羅列は意味をなざずに、ただそこに連なっている。
本当は、あの男の呪縛を振り切って、正たちに相談したい。言ってしまえば楽になる。わかってはいるのだ。
だけれども、あの男の呪縛は強くて、言葉に出せない。
章に危害を加えられたら、という思いもあって、余計に言葉は出てこない。
それでも、きっと話しをすれば、秋人も章も二人ともを守ってくれる力を、あの人たちは持っていると、知っている。
ただ、自分が呪縛を破れずに、もがいているだけだ。
情けない。
言葉には出さずに、心の中だけで思う。溜め息はでてしまったが。役員はため息には何も言わないだろう。
朝だって、帰りだって、生徒会の仕事なんて、偽りだ。ただ単に、最近の自分の会長としての仕事が、物思いのせいではかどらないだけ。無能の塊だと自嘲する。今までだったら、昼休みさえあれば片付けられた。
純から引き継ぎをして、二月くらいから仕事をしてきた。だから、自分の能力はわかっているつもりだ。
それが、あの男のせいで、かき乱された。
はかどらない仕事。増えていく資料。
もう、昼休みだけでは、追いつかないのは明白で。仕方なしに、昼休みに加えて朝と放課後、生徒会室の住人になるしかなかった。
それでも、仕事ははかどらない。朝や放課後を増やす意味なんて、どこにもないのだ。
はかどらないものは、はかどらないのだから。
章と勇が、一緒にいるのを見る度に、笑い合っているのを見る度に、もう自分はいらないのだと、言われている気になってしまう。
とんだ被害妄想だと、秋人はまたため息をはく。
「会長?お疲れですか?」
どうしてこの役員は、同じ二年なのに俺に敬語で話しかけてくるのか。
いつも疑問だが、とっつきにくい自分を少し敬遠しているのもわかっている。名前で呼んでこないのもその為だろう。
「平気だ」
ほら、こんな言い方をするから……わかって入るのだが、自分は秀のように、吹っ切れない。
「そうですか」
そう言って、彼は自分の仕事に向き直った。
本当は、秋人と二人で生徒会室にいたくないのだろう。
前までは、朝や放課後にはいなかったから、役員たちはその時間に仕事をしていたようだ。
が、今は昼休みのみでなく、朝も放課後も自分がいるから、役員たちは無駄話しを一切しないで仕事をしている。
そこまで、神経質にさせてしまう自分の存在は、やはりいらないのではないかと、考え出して。考えを打ち切るように頭を振った。
これでは仕事にならない。
堂々巡りの考えばかりが、頭を締めている。
考えを締め出さなければ、資料の内容は頭に入らないままだし、仕事にならないのだ。
仕事が終わらないのでは、役員に気を遣わせたままになってしまうので、良くない。
とにかく、俺が強くなって、この呪縛を解けるようにならなきゃはじまらない。
あの男に、勝てるだけの力をつけなきゃ、始まらない。
悩んだって、答えなんか出ないのだ。
章を守りたいなら、自分が強くなるしかないじゃないか。
その為には、鍛錬の時間を増やしたい。生徒会の仕事になんて、こんなに時間を割いてる場合じゃないのだ。
俺が強くならなきゃ、意味がない。
そう考えた秋人は、今までが嘘のように仕事に取り組んだ。
資料の内容が、頭に入って来ない。
ここのところ、そんなことばかりで。会議前に慌てて、資料に再度目を通すことになっている。
前までは、一度できっちりと内容は頭に入っていたのに。
あの男に会ってからだと、秋人はわかっていた。
誰にも相談してはいけない。その呪縛が、秋人をさらに追い詰めている。
悟られても、いけない。追及をかわす術が、自分にはないから。秋人は、常に気を張っていなければならなくなった。
章といても、だ。
章に追及されたら、俺はかわせない。それがわかっているから、つとめて普段通りに、と。
勇の鍛錬に参加しながら、秋人は自分を鍛えていた。
あの男を、自分の力で撃退できないか、と。
それができたら、多分一番良いのだ。自分が弱いから、あんな男の呪縛にさえ、勝てない。
このままでは、いけない。秋人はそう考えた。
だから、勇の鍛錬というのは、秋人にとっては願ってもないことなのだ。
勇を鍛えているように見せながら、自分を鍛えられるからだ。
否、実際に、勇をちゃんと鍛えてはいる。
自分の力であの男を撃破できなかった場合、章を守って欲しいという思いから。
章を守る役目は、秋人自身だった。でも、実際は、守るどころか、守られている方だ。これではいけないと、秋人は思う。
この間の戦闘で、痛感した自分の力不足。
「俺が、ずーっと守ってやる。だから、ずっと一緒にいような」
幼い頃にした、章と秋人の約束。
章は、覚えていてくれるだろうか。
章はすでに、あの頃恐がっていたモノを、自分で滅する力を持っている。
秋人は、ただただ、章に守られながら、戦うだけだった。
「守ってやるっていうのは、あの施設にいた間だけだったな」
ポツリと呟く独り言。
見えるだけだった章。見えるだけだったから、怯えていた。
でも、今は……。
「会長?」
独り言を聞かれたのか、役員から声がかかる。
「なんでもない」
相手を一瞬だけ見やり、秋人は再度資料に目を向けた。
相変わらず、言葉の羅列は意味をなざずに、ただそこに連なっている。
本当は、あの男の呪縛を振り切って、正たちに相談したい。言ってしまえば楽になる。わかってはいるのだ。
だけれども、あの男の呪縛は強くて、言葉に出せない。
章に危害を加えられたら、という思いもあって、余計に言葉は出てこない。
それでも、きっと話しをすれば、秋人も章も二人ともを守ってくれる力を、あの人たちは持っていると、知っている。
ただ、自分が呪縛を破れずに、もがいているだけだ。
情けない。
言葉には出さずに、心の中だけで思う。溜め息はでてしまったが。役員はため息には何も言わないだろう。
朝だって、帰りだって、生徒会の仕事なんて、偽りだ。ただ単に、最近の自分の会長としての仕事が、物思いのせいではかどらないだけ。無能の塊だと自嘲する。今までだったら、昼休みさえあれば片付けられた。
純から引き継ぎをして、二月くらいから仕事をしてきた。だから、自分の能力はわかっているつもりだ。
それが、あの男のせいで、かき乱された。
はかどらない仕事。増えていく資料。
もう、昼休みだけでは、追いつかないのは明白で。仕方なしに、昼休みに加えて朝と放課後、生徒会室の住人になるしかなかった。
それでも、仕事ははかどらない。朝や放課後を増やす意味なんて、どこにもないのだ。
はかどらないものは、はかどらないのだから。
章と勇が、一緒にいるのを見る度に、笑い合っているのを見る度に、もう自分はいらないのだと、言われている気になってしまう。
とんだ被害妄想だと、秋人はまたため息をはく。
「会長?お疲れですか?」
どうしてこの役員は、同じ二年なのに俺に敬語で話しかけてくるのか。
いつも疑問だが、とっつきにくい自分を少し敬遠しているのもわかっている。名前で呼んでこないのもその為だろう。
「平気だ」
ほら、こんな言い方をするから……わかって入るのだが、自分は秀のように、吹っ切れない。
「そうですか」
そう言って、彼は自分の仕事に向き直った。
本当は、秋人と二人で生徒会室にいたくないのだろう。
前までは、朝や放課後にはいなかったから、役員たちはその時間に仕事をしていたようだ。
が、今は昼休みのみでなく、朝も放課後も自分がいるから、役員たちは無駄話しを一切しないで仕事をしている。
そこまで、神経質にさせてしまう自分の存在は、やはりいらないのではないかと、考え出して。考えを打ち切るように頭を振った。
これでは仕事にならない。
堂々巡りの考えばかりが、頭を締めている。
考えを締め出さなければ、資料の内容は頭に入らないままだし、仕事にならないのだ。
仕事が終わらないのでは、役員に気を遣わせたままになってしまうので、良くない。
とにかく、俺が強くなって、この呪縛を解けるようにならなきゃはじまらない。
あの男に、勝てるだけの力をつけなきゃ、始まらない。
悩んだって、答えなんか出ないのだ。
章を守りたいなら、自分が強くなるしかないじゃないか。
その為には、鍛錬の時間を増やしたい。生徒会の仕事になんて、こんなに時間を割いてる場合じゃないのだ。
俺が強くならなきゃ、意味がない。
そう考えた秋人は、今までが嘘のように仕事に取り組んだ。
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