心霊現象相談事務所

藤野 朔夜

文字の大きさ
上 下
19 / 49
君が消えた、夏

第一章 ②

しおりを挟む
  秋人は、生徒会の資料を見ながら、考え込んでいる。
  資料の内容が、頭に入って来ない。
  ここのところ、そんなことばかりで。会議前に慌てて、資料に再度目を通すことになっている。
  前までは、一度できっちりと内容は頭に入っていたのに。
  あの男に会ってからだと、秋人はわかっていた。
  誰にも相談してはいけない。その呪縛が、秋人をさらに追い詰めている。
  悟られても、いけない。追及をかわす術が、自分にはないから。秋人は、常に気を張っていなければならなくなった。
  章といても、だ。
  章に追及されたら、俺はかわせない。それがわかっているから、つとめて普段通りに、と。
  勇の鍛錬に参加しながら、秋人は自分を鍛えていた。
  あの男を、自分の力で撃退できないか、と。
  それができたら、多分一番良いのだ。自分が弱いから、あんな男の呪縛にさえ、勝てない。
  このままでは、いけない。秋人はそう考えた。
  だから、勇の鍛錬というのは、秋人にとっては願ってもないことなのだ。
  勇を鍛えているように見せながら、自分を鍛えられるからだ。
  否、実際に、勇をちゃんと鍛えてはいる。
  自分の力であの男を撃破できなかった場合、章を守って欲しいという思いから。
  章を守る役目は、秋人自身だった。でも、実際は、守るどころか、守られている方だ。これではいけないと、秋人は思う。
  この間の戦闘で、痛感した自分の力不足。
「俺が、ずーっと守ってやる。だから、ずっと一緒にいような」
  幼い頃にした、章と秋人の約束。
  章は、覚えていてくれるだろうか。
  章はすでに、あの頃恐がっていたモノを、自分で滅する力を持っている。
  秋人は、ただただ、章に守られながら、戦うだけだった。
「守ってやるっていうのは、あの施設にいた間だけだったな」
  ポツリと呟く独り言。
  見えるだけだった章。見えるだけだったから、怯えていた。
  でも、今は……。
「会長?」
  独り言を聞かれたのか、役員から声がかかる。
「なんでもない」
  相手を一瞬だけ見やり、秋人は再度資料に目を向けた。
  相変わらず、言葉の羅列は意味をなざずに、ただそこに連なっている。
  本当は、あの男の呪縛を振り切って、正たちに相談したい。言ってしまえば楽になる。わかってはいるのだ。
  だけれども、あの男の呪縛は強くて、言葉に出せない。
  章に危害を加えられたら、という思いもあって、余計に言葉は出てこない。
  それでも、きっと話しをすれば、秋人も章も二人ともを守ってくれる力を、あの人たちは持っていると、知っている。
  ただ、自分が呪縛を破れずに、もがいているだけだ。
  情けない。
  言葉には出さずに、心の中だけで思う。溜め息はでてしまったが。役員はため息には何も言わないだろう。
  朝だって、帰りだって、生徒会の仕事なんて、偽りだ。ただ単に、最近の自分の会長としての仕事が、物思いのせいではかどらないだけ。無能の塊だと自嘲する。今までだったら、昼休みさえあれば片付けられた。
  純から引き継ぎをして、二月くらいから仕事をしてきた。だから、自分の能力はわかっているつもりだ。
  それが、あの男のせいで、かき乱された。
  はかどらない仕事。増えていく資料。
  もう、昼休みだけでは、追いつかないのは明白で。仕方なしに、昼休みに加えて朝と放課後、生徒会室の住人になるしかなかった。
  それでも、仕事ははかどらない。朝や放課後を増やす意味なんて、どこにもないのだ。
  はかどらないものは、はかどらないのだから。
  章と勇が、一緒にいるのを見る度に、笑い合っているのを見る度に、もう自分はいらないのだと、言われている気になってしまう。
  とんだ被害妄想だと、秋人はまたため息をはく。
「会長?お疲れですか?」
  どうしてこの役員は、同じ二年なのに俺に敬語で話しかけてくるのか。
  いつも疑問だが、とっつきにくい自分を少し敬遠しているのもわかっている。名前で呼んでこないのもその為だろう。
「平気だ」
  ほら、こんな言い方をするから……わかって入るのだが、自分は秀のように、吹っ切れない。
「そうですか」
  そう言って、彼は自分の仕事に向き直った。
  本当は、秋人と二人で生徒会室にいたくないのだろう。
  前までは、朝や放課後にはいなかったから、役員たちはその時間に仕事をしていたようだ。
  が、今は昼休みのみでなく、朝も放課後も自分がいるから、役員たちは無駄話しを一切しないで仕事をしている。
  そこまで、神経質にさせてしまう自分の存在は、やはりいらないのではないかと、考え出して。考えを打ち切るように頭を振った。
  これでは仕事にならない。
  堂々巡りの考えばかりが、頭を締めている。
  考えを締め出さなければ、資料の内容は頭に入らないままだし、仕事にならないのだ。
  仕事が終わらないのでは、役員に気を遣わせたままになってしまうので、良くない。
  とにかく、俺が強くなって、この呪縛を解けるようにならなきゃはじまらない。
  あの男に、勝てるだけの力をつけなきゃ、始まらない。
  悩んだって、答えなんか出ないのだ。
  章を守りたいなら、自分が強くなるしかないじゃないか。
  その為には、鍛錬の時間を増やしたい。生徒会の仕事になんて、こんなに時間を割いてる場合じゃないのだ。
  俺が強くならなきゃ、意味がない。
  そう考えた秋人は、今までが嘘のように仕事に取り組んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

風そよぐ

chatetlune
BL
工藤と良太、「花を追い」のあとになります。 ようやく『田園』の撮影も始まったが、『大いなる旅人』の映画化も決まり、今度は京都がメイン舞台だが、工藤は相変わらずあちこち飛び回っているし、良太もドラマの立ち合いや、ドキュメンタリー番組制作の立ち合いや打ち合わせの手配などで忙しい。そこにまた、小林千雪のドラマが秋に放映予定ということになり、打ち合わせに現れた千雪も良太も疲労困憊状態で………。

トゴウ様

真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。 「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。 「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。 霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。 トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。 誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。 「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました! 他サイト様にも投稿しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...