心霊現象相談事務所

藤野 朔夜

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春、出会い、そして……

第三章 ④

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「うし、成功!」
  軽やかな声に、純は後ろを振り返った。
  聖はすでに臨戦態勢を解いて、後ろを見ていた。
「章、大丈夫か?」
  後ろから戦闘に加わった一人、中条秀は章へと近付く。
  秋人に抱きかかえられている章は、少し顔色が悪い。
「ごめんな、防ぎが甘かった」
  秀はそう言って章の体に掌を当てる。暖かい光が章の体を包み込む。
「あ、りがとうございます。秀さんの人形なかったら、僕気を失ってました」
  少しだけ回復したとみられる章に、秋人は安堵する。
「助かったが、なんでここに秀と太一がいる」
  聖の質問。
  軽やかな声の主は、柚木太一だった。
「家帰ったら、正兄に泉林へ行ってくれって言われた」
  秀は軽く答える。
「俺は暇だったから、秀さんについて来た」
  軽い調子のまま、太一は答えた。ナイフ回収しないとな、と言いながら、彼は校庭の中央付近に落ちているナイフを拾いに行く。強い力の炎でも、ナイフは燃やし尽くせなかったようだ。
  ナイフなどに気を溜めて、敵を切り裂くのを得意とする太一だが、炎を纏わせることができるのは知らなかった。
「いつから炎使えたの?」
  太一への疑問は、太一と共に校庭中央へ向かっている純が発した。
「んー、これは、秀さんの力。力をナイフに溜めといた状態で、どんくらい力が持つかとか、色々研究してんの。で、秀さんの力溜めたのを、別の人間が使っても大丈夫かっていう実験結果ね、これ」
  何やら暇を持て余した結果、実験やら研究やらに結び付いたらしい。
  他人まで巻き込んだ実験になっているところが、太一らしいのだが。
「けど、今一力が弱いな」
  自分が使う分には問題ないのだろうが、他人が使うと弱くなる、と秀は感想を述べる。
  そうだったかなぁ、と太一は特に気にした風でもない。実験が成功した為に、機嫌が良いのかもしれない。
「じゃぁ、ここの浄化と、校庭どうにかするか」
  呟いた秀に、聖が目を向ける。
  何をするんだ?と。確かに、校庭をこのままにはできない。あちこち穴ぼこだらけだ。
  場の空気も澱んでしまっているから、浄化も必要だろうが。
「來雅(らいが)」
  静かに秀は誰かを呼ぶ。
  フッと秀の後ろの空気の濃度が濃くなり、そのまま空へと消えて行った。
「雨降る前に帰るぞ、太一」
  純と話しをしている太一を呼ぶ秀。
「通り雨だから、問題ないだろ」
  そう聖に言うと、秀はさっさと身をひるがえす。
「あー、秀さん待って」
  慌てた太一が秀を追って、走り出す。
  聖は、秀の背を見送ったまま、動かなかった。否、動けなかった。本当に、突然規格外なことをする従弟たちだ、と。
「聖さん、保健室に戻りましょう」
  そう言った秋人の腕には、まだ章がかかえられている。
  章を襲ったモノの大半は秀が取り除いたようで、先程までのような顔色の悪さはないが、まだ怠さは抜けないらしい。
「あ、俺は体育館の結界解いて来ます」
  そう言って、純は体育館へと動き出す。
  秋人も既に保健室へと動き出していた。
  茫然としているのは聖と、この状況に着いてこれていない勇だけだった。


「考えたんだけどね、秋人君。君がいないと混乱収まらないんじゃないかな?」
  体育館から保健室に戻ってきた純が言う。
  体育館は、生徒会長不在のままである。
  なんとか、身体を動かして、茫然としている勇を伴って聖は保健室に辿り着いていた。
「あー、新入生二人も所在わからずとかになってねぇか?」
  今更過ぎるのだが。
  こっそり体育館に入り込むなり、教室に戻るなりするしかなさそうである。
  雨が、降り始めた。
  校庭に出来たいびつな穴は、雨が降ったことで、土が流れ奇妙な形はなくなるだろう。
  場の空気も、雨が洗い流して正常化してくれるはずだ。
「とりあえず、副会長には全員教室に戻るように指示を出すように言って来たけれどね」
  根回しはしてきたと、純。
  ただ、会長がいない、と慌てていた生徒会メンバーも見ている訳で。
  秋人が生徒会に戻らなければ、彼らは混乱したままかもれない、と。
「先生方も、保健医の聖さんの姿が見えないことを訝しがってましたし」
  これは、また。自分もか、と聖は思う。
  勇に、状況説明をしてあげられる時間は今は取れそうにないな、と誰もが思う。
「村越、話しをしたいが、今は無理そうだ。教室に、章と一緒に戻ってくれ。章、うまく入り込めるか?」
  これはもう、うまいこと紛れ込むしかないだろう。
  人々の気が、校舎内に戻りはじめている。
「はい、大丈夫です」
  章はしっかりと頷いて、勇と共に立ち上がる。
「教室での話しが終わったら、二人ともまた保健室に戻ってこい」
  扉を開けて廊下に出る二人に、聖の声がかかった。「はい」と二人が答える声が廊下からして、歩き去る足音が聞こえた。
  秋人は、億劫そうに立ち上がる。慣れない戦闘後だからだろう。体は休みたがっているのかもしれない。
「秋人、大丈夫か」
  気遣う聖に、秋人は頷くだけで答えた。
「きりが良い所で一端事務所に戻れるようにします」
  そう言って、保健室を出て行く秋人を追って、純も廊下に出て行く。
「秋人君が心配なので、彼の手伝いしてきますね」
  聖にをう言い置いて。「あぁ」と返す聖は、さて自分が先生方にどう言い訳をするべきか、と悩みながら。
  まぁ、体調不良の生徒を連れて保健室に戻ったことは、知られているのでそのまま保健室にいたことにしよう、と結論を出して。
  騒ぎどころか、地震があったなど知らなかったということにするか、と。
  地震は観測されていないので、問題ないだろう、多分。
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