稜蘭高校 ドタバタ日記

藤野 朔夜

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夏休みがやってくる

帰省の話

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  結局生徒会はリコールされて、新たな生徒会になった。
  前からの生徒会役員で残ってるのは桐生忍会長と、八木崎亨副会長のみ。
  風紀委員長とかもその辺忙しそうにしてたらしいけど、一年生には関係ない話しにしかならなかった。
「圭吾は夏休み実家帰るのか?」
  恭に聞かれて読んでいた本から目を離す。
「うん。何日間かは帰るけど。実家遠いし、行くのもこっち戻ってくるのも大変だから。そんな長く実家に帰ってる気はないけど」
  だってここなら気にしないで力の制御の練習ができるし。
  台風とかで定期船が止まったら、俺は動けなくなるわけで。それだったら、何日間か顔出して、天気が良い日に戻って来た方が楽だ。
  あ、ちなみにテストは終わった。来週からテストが返って来る。そんで夏休み前の成績表も。
「ふーん。そうか」
  恭は帰らないのかな。あ、帰ったとしても、この近くだから特に問題は無いのか。
  俺みたいに船が止まって動けなくなるなんてこと無いわけだし。
「恭は?帰らないのか?」
  でもやっぱり気になるので聞いておく。
「圭吾が居ないと暇だから、その間は帰るかも?一応成績表とか見せろって言われてるし」
  なんで疑問形なんだろうね、恭は。
  しかも俺が居ないと暇だからって理由が。
  成績表はやっぱりどこの家でも気にするよね。それは帰って見せた方が良いと思う。
「家帰ったら兄弟居るし、ここにいるより暇じゃないだろうけど。面倒なんだよ」
  五人兄弟だったっけ。騒がしそうだ。
「桐生会長と何か約束とかしてないの?」
  そこが気になる。
  いや、会長忙しそうだし。夏休みになったら体育祭の準備だとか聞いてたけど。
「忍先輩?忙しいんじゃないか?まぁ、暇が有ったら連絡くるかもしれないが。俺の家近くだし、連絡来たらすぐに戻って来れる」
  なるほど、家が近いっていうのは、便利なものだな。





「正、君夏休みどうするの?」
  職員寮。またも同僚の襲来を受けた中条正は、うんざりした目を向ける。
「特に何も」
  考えてもいなかった。
  正はそのまま、テストの採点を続けることにして、簡潔に答える。
「え、帰るとか、無いの?」
  その答えには、同僚は驚いたらしい。
  実家には最初から顔を出す気なんてさらさら無いし。弟に丸投げして来たあの家に戻るのも、何だか気が引けている正。
  だから、帰るとかそんなことは、考えもしなかった。
「シアンは、どうするんです?」
  無理矢理名前を呼ばされてから、正は普通に彼の名を呼べるようになっていた。
「俺?俺帰るとなると、飛行機取らなきゃだし。面倒だし。帰っても何にも意味ないし。兄がいるだけだろうから、話しもしないし。あ、別に兄弟仲が悪いとかじゃないから。単に兄が無口なだけだから。親も今どこにいるか知らないからなぁ。会いに行くって気も無いけど」
  聞いてもいないことまでしゃべってくるシアン。
  そうか、彼には兄がいるのか。とかそんな情報はいらない。
「弟は日本のどっかにいるんだろうけど。探す気は今の所ないし。まぁ、弟より弟の恋人には会いたいけど。今会いに行ったら、邪魔扱いされそうだし。それはそれでなんか面白そうだけど。あ、俺が日本来た理由って、弟だからね。弟というか、弟の恋人が理由か。あの子は可愛いからさ。まぁ、弟からかうのが目的なんだけど。からかいがいのある弟って、良いよねぇ」
  なるほど、弟もいるのか。……だから、そんな情報はいらない。
「で、結局何が言いたいんですか?」
  一クラス分だけ持ち帰り採点をしていたから、さっさと終わった。
  ので、何だか知らないが、色々と話しをしているシアンに向き直ることにした正。
  放っておくと、いらない情報が多量に盛り込まれた話しを、延々としていそうだから。
「え、俺も帰る気が無いっていう話しだよ?夏休み暇だねぇ。どっか行く?」
「嫌ですよ。何故あなたとどこかへ出かけなければならないんですか」
  二人とも、部活動なんかの顧問にはなったりしていない。そもそも部活も少ない訳なのだが。
  夏休みの強化週間の補習や、力の制御の補習などにも、二人はかかわらない。
  暇で有ることはたしかだが、何故にわざわざこの同僚と、熱い中出かける計画を立てねばならないんだ、と正は嫌そうな顔を隠しもしない。
「えー、俺は今の日本の観光を、色々としたい」
「一人で行って下さい」
  わざわざ私を巻き込むな、と正は思う。
  シアンの思考回路には、付いていけないのだ。
「正と行きたい」
  一言で断られても、シアンはめげること無く告げる。
「嫌です」
  こちらも折れない正。
  二人の押し問答は、その後数日間続くことになる。





「あ、桐生。僕夏休み一週間は実家帰るから」
  生徒会室で、前年の資料を見ながら、役員全員が揃うというのは、こうなるのだなと考えていた忍。
  八木崎の声がかかって、彼女は彼を見る。
「そうか、わかった。日にちがわかるなら、その日程に合わせて、体育祭の準備期間を作る」
  体育祭の準備期間は、球技大会より長く取れる。
  だから、副会長の彼が抜ける間、準備に時間を取らなくても問題は無い。
「桐生は帰らない?」
  八木崎の問いに、他の役員も忍を見たのがわかった。
「皆も帰るか?お盆は、集まる所も多いだろう」
  とりあえず、返事はせずに他の役員にも確認を取る。
「お盆はそうですね。集まりますから。八木崎君も、帰るのはお盆じゃないの?」
  会計の問いに、八木崎は頷いている。
  なるほど、やはりお盆は集まる習慣の有る家が多いのか。と忍は考える。
「俺はどっちでも。とくに集まるとか無いから」
  書記の言葉に、あれ?と思うが、そういえば彼は超能力者であり、霊能力者とはまた違った家柄かもしれないと考え直す忍。
「私の家もそうだな。お盆となっても、集まりは無い。だから、私も帰るか帰らないかは悩んでいたんだが」
  忍の家は、霊能力者家系ではあるものの、そういう風習は無かった。
  副会長が帰って会計も帰るのなら、生徒会の仕事は止まるだろう。なら、帰っても問題は無いのだろうが。
  また一人でここにいるのも、嫌な気分を思い出しそうだと、忍は思う。
「桐生の家は、お盆とか関係ないんだ。僕の家、一応寺だからね。なんか忙しい。帰っても色々手伝わされるのが目に見えてる」
  八木崎の言葉に、あぁそれは忙しそうだなと忍は感じる。
  嫌そうな顔をしている八木崎は、早くから家の手伝いをしていたのだろう。忙しさを知っている顔だ。
「なら、お盆の期間は生徒会も休みにするか。帰っても帰らなくとも、休みは必要だろうからな」
  忍はそう結論付けた。
  ずっと学校の仕事をし続けるのは、やはり学生にとっては辛いものだ。
  休みは友人と遊びたいと思う役員もいるだろう。
「他の日も、休みたいなら前から言っておいてくれたら、対処する」
  外出許可や外泊許可は、夏休みでも必要になる。
  提出先は生徒会なので、今は結構な数の外出・外泊届が出されている。
  役員の外出や外泊は、簡単に処理出来るだろう。他の生徒の分も、出された物に印を押すだけだ。その上で、教頭に提出する。
  普段であれば理由が必須で、理由次第では受付拒否になる物も出てくるが。今のは夏休みに帰省などの為に出されているので、理由は流し読みだ。
「夏休み、帰省する人結構いますね。書類に印押すだけなのに、疲れちゃった。あぁ、私も帰るんだから、書類出さなきゃ!」
  手をブラブラさせた会計が、慌てたように記入用紙を取りに行く。
「あ、僕のも」
  八木崎がそこに声をかけている。
「提出期限って、有ったが?何日前には出さなきゃいかんとか」
  書記の言葉に、忍は首を横に振る。
「特にない。まぁ、生徒会を休みにするから、その期間は受付不可能と、掲示板にでも掲示しておけば、生徒はその前には持って来るだろう」
  毎日毎日そんな書類に埋もれたくはない。まぁ、だからこその休みでもあるのだが。
  ネットでの掲示板と、寮のロビーに設けてある掲示板。両方に掲示しておけば問題ないだろう。と忍は言う。
  夏休みの生徒会の日程は、こうして決まって行く。
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