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騒動だらけ 生徒会
②
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「式神のままで良いのか?」
忍はふと、柳の在り方を考えた。
「否、神としての本質は変わっておらぬが、すでに神ではない。だから私は式だろうな」
元は神だから、考え方は変わらないだろう。だが、彼は一度魔に落ちている。
だから式神とは言わない、と。
「そうなるのだな」
忍は頷いて答えながら、歩きを進める。
「しかし、珍しいな。昼は食堂という場所で食べるのではないのか?」
いつもなら、食堂に友人数人と行く。
けれど今日の忍は友人を断り、軽食を購入して移動している。
「真意を確かめるべきと言ったのは柳だろう。生徒会室に向かっている。副会長以外も居れば、別の場所にまた移動するさ。役員が私が居る時に来ないのは、私を嫌っているからだろうという推測が当てはまるだけだ」
モヤモヤしたままでは気が済まないのが忍だ。
ならばさっさと確かめたら良い。
移動するから、食堂でのお昼ご飯はあきらめたのだ。
人の多い場所でなければ、柳は普通に忍に話しかけてくる。たとえ普通に姿が見えるようにしていなかったとしても、忍は柳が居ることを、ハッキリと視認している。
「忍に害意が有るとなれば、私がどう動くかわからない。一度タガが外れているからな。場を移しておく。が、何か有れば必ず呼んで欲しい」
自分が今守るべきは忍だと、柳は認識しているから。その忍に何か有ったとしたら、自分がどうなってしまうかわからない。
なので柳は一度忍の傍から離れた。しかし、呼べばすぐに行くと言い置いて。
「一度タガが外れている……か。アレの心配もわかるが、私が止めるという選択肢を忘れているのか?」
――忘れてはいない。主の縛りの効力も強いことをわかっている。だが、忘れているのは忍の方だろう。前は主が気を失っていた。その時に止めに入った忍を殺して、主を殺した。それが私だ――
忍がポツリと零した独り言に、思念で柳からの返事が来る。
あぁそうか。忍は思い出しているのに、忘れていた。
柳を止められるべき主が、気を失っていたら止められはしないのだ。
「生徒会室で気を失うようなことは、起こらないと思うがな」
そうそう何か有ってたまるか、と忍は思う。
コンコンコン
カチャリ
やはり生徒会室の鍵は開いていた。
中に居たのは、副会長の八木崎亨だけだ。
「他の役員は居ないのか」
忍はポツリと呟く。
八木崎は入って来た忍を一瞥しただけで、後は書類に向き直っている。
「真意でも、聞きに来たの?」
書類に向きながら、八木崎は声を発した。
忍がここにくる理由など、それしかないとわかっているようだった。
「そうだな。何故放課後でなく、今動いているんだ?」
忍は自身がいつも使っている机に座り、八木崎を見る。八木崎は顔を上げない。
「他の役員は仕事ボイコットだってさ。そんで、僕にもボイコットしようって言って来た。他の役員は前から仕事してないから、変わらないよ。むしろ桐生がしてるから、僕の仕事は本当に少ない」
以前は役員全員分の仕事をやっていたようなものだった。
けれど忍が仕事をしているから、八木崎の仕事は忍の作った書類に訂正を入れることが主だ。
「それは私を嫌っているからか?」
ボイコットの理由はそれしかないだろう。だが八木崎は仕事をしている。それについての回答はないのだが、追究はゆっくりで良い。
「桐生はご飯食べたら?持って来たんでしょ。役員は僕の方が生徒会長に良いってさ。でも僕は面倒なことが嫌い。仕事をしない役員が嫌い。桐生はいきなり生徒会長になって、引き継ぎもロクに出来てないのに、去年度の資料見てちゃんと仕事してる。だから手伝いはする。僕は自分の仕事を放棄するのは嫌い」
八木崎は生徒会室に入って生きた忍が、購入して来ただろう食事の袋を見ている。
やっと顔を上げて、八木崎は早口で忍に言った。
「他の役員の目が有るから、放課後には来れない、か?」
仕事をしていない役員たちよりも、仕事をしている忍の方が、八木崎には好印象だと言っているのだろう。そう忍は受け止めた。
「そう。僕が生徒会室に行ってるってわかると、面倒。面倒は嫌い。でも桐生一人じゃ難しい。それにさっきも言ったけど、僕は仕事を放棄するのが嫌い」
仕事を放棄したくはない。だが、他の役員の目が面倒。
なるほど。八木崎は自分の考えに従って動いているだけだろう。
「昼休みにここへ来るのは大丈夫なのか?」
ご飯を食べだした八木崎と同じように、忍も買って来たおにぎりの袋を開ける。
「静かな場所でご飯食べるっていうのは、一年の頃から変わってない。僕が一人でいたいからって言えば、昼休憩は自由。ただ、放課後は自由が無い。これ球技大会の資料内の予算案。変えたカ所には付箋張ってある」
予算案はパソコンを使って計算式に当てはめた方が楽にできる。だから忍の作った資料に付箋を貼らず、自分で直したのだろう。
「助かる」
「どうせ今の役員仕事しないなら、桐生の生徒会長権限で、役員変えたら良い。僕だったら、とっくに変えてる」
去年度終わりに、忍が生徒会長になったので、八木崎はそのまま役員たちを変えずにいた。
でも、去年度後期に一緒に仕事をしていて、ずっと考えていたのだ。
「元から仕事しないから、戻って来たとしても仕事しないよ。会議にはでかい顔で出るくせにね」
忍はおにぎりを食べながら、八木崎の言葉を聞く。
ただ単に、自分を嫌っているだけならば、彼らに頭を下げに行くことも考えていた。
八木崎が仕事をしてくれているから、回っているのだ。だが、球技大会はそうはいかないだろう。
「そろそろ球技大会に向けて、風紀委員と保健委員との合同会議をしないといけないんだが」
今は役員入れ替えをしていられる時間が無い。
「会議来ても、アイツらは資料の中身知らないんだから、何にも出来ないだろうけど。まぁ、新規に役員決めても同じか。合同会議、アイツら呼ばなくて良いんじゃない?どうせ当日だって仕事しないよ」
当日は、風紀委員や保健委員がいれば何とかなるかもしれない。
だがそれが続くなら、生徒たちから不審に思われるだろう。
「こんな紙が投書箱に入っていた」
忍は八木崎に昨日見付けた紙を見せる。
「生徒会は機能しているか、ね。馬鹿じゃないの。パソコンの文字だから、特定はできないけど。役員の誰かじゃない?それか全員でやったとか。桐生一人で仕事してると思い込んでるんだよ。だから自分たちに頭下げに来いってことなんじゃない?どの道仕事しないんだから、行かなくて良いよ」
自分の方が良いなんて言いながら、彼らが仕事をしている姿をほとんど見ていない八木崎は、呆れたように言う。
「そう、だな。……ところで、七不思議の紙を投書箱から出したのは、八木崎か?」
八木崎に同意しながら、忍は疑問だった別のことを、八木崎にぶつける。
「あぁ、アレ。アレだけ解明されてない謎だったから、解明して欲しいってことかと思って置いといた。あの後、魔物現れたって?」
やはり八木崎が置いた物だったらしい。
「アレについては、教頭の先祖が魔物を呪縛して、ココに封印していたんだ。それが真相だろうな。どこから漏れて、あんな七不思議になったのかは知らないが。ついでに言えば、魔物はすでに呪縛を解かれて、私の式に下っている。魔に染まりはしたが、元は龍神だ」
忍はことの真相を簡潔に八木崎に話す。
「ふーん」
さして興味が有ったようでもなく、八木崎は答えた。
「真相が変に捩れて伝わらないようにだけ、しといた方が良いかもね。さてと、球技大会のことについて、二人だけでもう少し話し合っておくべきかな。面倒だけど。合同会議どうするか、考えといてよ」
忍はふと、柳の在り方を考えた。
「否、神としての本質は変わっておらぬが、すでに神ではない。だから私は式だろうな」
元は神だから、考え方は変わらないだろう。だが、彼は一度魔に落ちている。
だから式神とは言わない、と。
「そうなるのだな」
忍は頷いて答えながら、歩きを進める。
「しかし、珍しいな。昼は食堂という場所で食べるのではないのか?」
いつもなら、食堂に友人数人と行く。
けれど今日の忍は友人を断り、軽食を購入して移動している。
「真意を確かめるべきと言ったのは柳だろう。生徒会室に向かっている。副会長以外も居れば、別の場所にまた移動するさ。役員が私が居る時に来ないのは、私を嫌っているからだろうという推測が当てはまるだけだ」
モヤモヤしたままでは気が済まないのが忍だ。
ならばさっさと確かめたら良い。
移動するから、食堂でのお昼ご飯はあきらめたのだ。
人の多い場所でなければ、柳は普通に忍に話しかけてくる。たとえ普通に姿が見えるようにしていなかったとしても、忍は柳が居ることを、ハッキリと視認している。
「忍に害意が有るとなれば、私がどう動くかわからない。一度タガが外れているからな。場を移しておく。が、何か有れば必ず呼んで欲しい」
自分が今守るべきは忍だと、柳は認識しているから。その忍に何か有ったとしたら、自分がどうなってしまうかわからない。
なので柳は一度忍の傍から離れた。しかし、呼べばすぐに行くと言い置いて。
「一度タガが外れている……か。アレの心配もわかるが、私が止めるという選択肢を忘れているのか?」
――忘れてはいない。主の縛りの効力も強いことをわかっている。だが、忘れているのは忍の方だろう。前は主が気を失っていた。その時に止めに入った忍を殺して、主を殺した。それが私だ――
忍がポツリと零した独り言に、思念で柳からの返事が来る。
あぁそうか。忍は思い出しているのに、忘れていた。
柳を止められるべき主が、気を失っていたら止められはしないのだ。
「生徒会室で気を失うようなことは、起こらないと思うがな」
そうそう何か有ってたまるか、と忍は思う。
コンコンコン
カチャリ
やはり生徒会室の鍵は開いていた。
中に居たのは、副会長の八木崎亨だけだ。
「他の役員は居ないのか」
忍はポツリと呟く。
八木崎は入って来た忍を一瞥しただけで、後は書類に向き直っている。
「真意でも、聞きに来たの?」
書類に向きながら、八木崎は声を発した。
忍がここにくる理由など、それしかないとわかっているようだった。
「そうだな。何故放課後でなく、今動いているんだ?」
忍は自身がいつも使っている机に座り、八木崎を見る。八木崎は顔を上げない。
「他の役員は仕事ボイコットだってさ。そんで、僕にもボイコットしようって言って来た。他の役員は前から仕事してないから、変わらないよ。むしろ桐生がしてるから、僕の仕事は本当に少ない」
以前は役員全員分の仕事をやっていたようなものだった。
けれど忍が仕事をしているから、八木崎の仕事は忍の作った書類に訂正を入れることが主だ。
「それは私を嫌っているからか?」
ボイコットの理由はそれしかないだろう。だが八木崎は仕事をしている。それについての回答はないのだが、追究はゆっくりで良い。
「桐生はご飯食べたら?持って来たんでしょ。役員は僕の方が生徒会長に良いってさ。でも僕は面倒なことが嫌い。仕事をしない役員が嫌い。桐生はいきなり生徒会長になって、引き継ぎもロクに出来てないのに、去年度の資料見てちゃんと仕事してる。だから手伝いはする。僕は自分の仕事を放棄するのは嫌い」
八木崎は生徒会室に入って生きた忍が、購入して来ただろう食事の袋を見ている。
やっと顔を上げて、八木崎は早口で忍に言った。
「他の役員の目が有るから、放課後には来れない、か?」
仕事をしていない役員たちよりも、仕事をしている忍の方が、八木崎には好印象だと言っているのだろう。そう忍は受け止めた。
「そう。僕が生徒会室に行ってるってわかると、面倒。面倒は嫌い。でも桐生一人じゃ難しい。それにさっきも言ったけど、僕は仕事を放棄するのが嫌い」
仕事を放棄したくはない。だが、他の役員の目が面倒。
なるほど。八木崎は自分の考えに従って動いているだけだろう。
「昼休みにここへ来るのは大丈夫なのか?」
ご飯を食べだした八木崎と同じように、忍も買って来たおにぎりの袋を開ける。
「静かな場所でご飯食べるっていうのは、一年の頃から変わってない。僕が一人でいたいからって言えば、昼休憩は自由。ただ、放課後は自由が無い。これ球技大会の資料内の予算案。変えたカ所には付箋張ってある」
予算案はパソコンを使って計算式に当てはめた方が楽にできる。だから忍の作った資料に付箋を貼らず、自分で直したのだろう。
「助かる」
「どうせ今の役員仕事しないなら、桐生の生徒会長権限で、役員変えたら良い。僕だったら、とっくに変えてる」
去年度終わりに、忍が生徒会長になったので、八木崎はそのまま役員たちを変えずにいた。
でも、去年度後期に一緒に仕事をしていて、ずっと考えていたのだ。
「元から仕事しないから、戻って来たとしても仕事しないよ。会議にはでかい顔で出るくせにね」
忍はおにぎりを食べながら、八木崎の言葉を聞く。
ただ単に、自分を嫌っているだけならば、彼らに頭を下げに行くことも考えていた。
八木崎が仕事をしてくれているから、回っているのだ。だが、球技大会はそうはいかないだろう。
「そろそろ球技大会に向けて、風紀委員と保健委員との合同会議をしないといけないんだが」
今は役員入れ替えをしていられる時間が無い。
「会議来ても、アイツらは資料の中身知らないんだから、何にも出来ないだろうけど。まぁ、新規に役員決めても同じか。合同会議、アイツら呼ばなくて良いんじゃない?どうせ当日だって仕事しないよ」
当日は、風紀委員や保健委員がいれば何とかなるかもしれない。
だがそれが続くなら、生徒たちから不審に思われるだろう。
「こんな紙が投書箱に入っていた」
忍は八木崎に昨日見付けた紙を見せる。
「生徒会は機能しているか、ね。馬鹿じゃないの。パソコンの文字だから、特定はできないけど。役員の誰かじゃない?それか全員でやったとか。桐生一人で仕事してると思い込んでるんだよ。だから自分たちに頭下げに来いってことなんじゃない?どの道仕事しないんだから、行かなくて良いよ」
自分の方が良いなんて言いながら、彼らが仕事をしている姿をほとんど見ていない八木崎は、呆れたように言う。
「そう、だな。……ところで、七不思議の紙を投書箱から出したのは、八木崎か?」
八木崎に同意しながら、忍は疑問だった別のことを、八木崎にぶつける。
「あぁ、アレ。アレだけ解明されてない謎だったから、解明して欲しいってことかと思って置いといた。あの後、魔物現れたって?」
やはり八木崎が置いた物だったらしい。
「アレについては、教頭の先祖が魔物を呪縛して、ココに封印していたんだ。それが真相だろうな。どこから漏れて、あんな七不思議になったのかは知らないが。ついでに言えば、魔物はすでに呪縛を解かれて、私の式に下っている。魔に染まりはしたが、元は龍神だ」
忍はことの真相を簡潔に八木崎に話す。
「ふーん」
さして興味が有ったようでもなく、八木崎は答えた。
「真相が変に捩れて伝わらないようにだけ、しといた方が良いかもね。さてと、球技大会のことについて、二人だけでもう少し話し合っておくべきかな。面倒だけど。合同会議どうするか、考えといてよ」
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