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灯火の朱(あか) 暗闇の焔(ほむら)
①
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周りは暗いのか、明るいのか……それすらもわからなくなる空間。
一人の男の姿だけは、何故かはっきりと見ることができた。
――あれから、何年経ったのだ?そろそろ、現れてくれる頃だろうか。
この手で殺してしまった。愛しい人の産まれ変わりが……――
それは言葉として発せられたモノなのか、それともただの意識だけなのか。
――この空間にいるのも飽いた。探しに行こうか、彼の人を……――
その言葉は続く。
わかるのはその言葉が、この空間に唯一見える男のものだということだけ。
――そうだな。探しに出よう。もう一度、彼の人と在る為に……――
一人で納得すると、唐突に男の姿はこの空間から消え失せた。
後に残ったのは、静寂のみ。
何も無い空間。
ここは明るいのか、暗いのか……
※
『学校の七不思議』
この文字を見ながら生徒会会長、桐生忍は嘆息した。
この学校において、七不思議も十不思議も十四不思議もへったくれもない。
何かにつけて、妖怪だの使い魔だのという精霊がゴロゴロといる学校に、不思議も何もあったものではない。
自分自身精霊を連れて歩いている忍は、机の上に置かれていた意味不明の紙を放り出した。
(そう言えば、一つだけ信憑性のある七不思議が有ったな。七個だか十四個だか二十一個だか知らないけど)
忍はふと思い出した。
そういうモノに、縁が有りすぎる学校なので、すっかり忘れ去っていた。
三年になって、そろそろ進路も考えなければならない身である。
生徒会室には、他のメンバーはまだ来ていない。何かと生徒指導室に厄介になっている人間が、生徒会役員で良いのかと、一瞬ではなく毎回思う忍である。だがまぁ、良くも悪くも目立つ人間なことに変わりはない。人選した二・三年生の意向が、わかるようなわからないような……。
まぁ、とにかく色々と目立つ人間を率いて行くのが、桐生忍の役割である。
忍はもう一度嘆息し、自分の席で仕事を片付け始めた。
「だから~、……」
「陸也はちょい黙っとき。お前がしゃべると先に進まん。……んで、圭吾はどないしとってん?ガラス割ったの陸也やん?」
泉恭史郎と、藤圭吾の部屋。
そこに日野陸也を連れた小野田良二が乗り込んできたのは、夕食が済んでからの数時間の自由時間。
一年で、特に何の課題も出されなかった彼らは、俗に言うと暇人たちだ。
だからといって、恭と圭吾はボケッとしていたわけでもなく。恭は明日の授業に必要な物を確認していたし、圭吾は予習をしていたのだが。
「別に……板書してたし、音がするまで気付かなかったな、うん」
「圭吾君は~授業熱心だから~」
「何でガラスを割ったんだ?」
さっきから、陸也が話そうとするのに、被せる勢いで恭や良二が声を発している。そのことに、少しだけ圭吾は苦笑する。
恭と良二は霊能力者なので、超能力者の圭吾と陸也とはクラスが違う。
良二がガラスを割った犯人が陸也だと知ったのは、つい先ほど部屋で陸也自身が白状した為だ。
そこで、同教室にいた圭吾に、何か有ったかを聞きに来た訳である。
「何でって言われてもぉ~、よく覚えてないんだよねぇ~」
考えながら言う陸也の言葉は、いつもよりさらにスローになっている。
「授業が難しくて、オーバーヒート起こしたんちゃうか?」
失礼な事を言い出すのは、良二だ。
「特に難しい授業してたわけでもなかったけど」
と言う圭吾。
「お前ようこの学校入れたな」
良二は陸也に容赦なく失礼なことを連発している。
「良二~、ひどいこと言ってるの~、自覚してる~?」
陸也のテンポが、さらに遅くなる。
「わからんで言っとらんで、どないせいっちゅうんじゃ」
良二は陸也に遠慮というものをしないらしい。
「お前ら漫才するなら、自分たちの部屋でやれ」
あきらかに煙たがっているのは、恭である。
わざわざ窓ガラス全壊の謎を、知る気もないらしい。
「漫才しに~来た訳じゃ~ないんです~」
陸也の返事に、恭が溜息をついた。口を挟んでも、このスローテンポにイライラしかしなさそうで、恭は黙ることにした。
そんな恭を見て、圭吾の苦笑いが増す。が、二人してわざわざここに来た理由も知らないままに、彼らを帰すのもどうかと圭吾は考える。
「何しに来たんだ?」
「だから。何で同じ教室の奴らが、陸也の仕業やって知らんのかと思って。マジ謎やん?」
何人かにすでに聞いたらしい、良二の返事。
たしかに、あの事件が起こった時、同じ教室にいたにも関わらず、圭吾はまったく真相を知らないままだ。
誰がとか、何が引き金とか。……そういえば沖野先生が来てから、中条先生が陸也を少し見ていた気もする。中条先生は誰が起こしたのかは、わかっていたのだろうか。
「何人に聞いたんだ?」
「えぇ~っとぉ~」
「十人くらいや。そんくらい聞いた上で、圭吾やで?何か皆で隠しとるんやないかと、思ってまうくらいやろ?」
考えて答えを出そうとする陸也を遮って、良二がさっさと答えを出す。
「否、何で隠すんだよ。隠してないし。本当に俺は今犯人知った。中条先生も驚いてたから、引き金はわからないんじゃないかな。沖野先生と話した後に、陸也のこと見てたから、犯人はわかってたかもしれないけど」
圭吾は自分のわかる範囲で回答する。
「ええ~っとねぇ、あれがねぇ~」
「「「どれだよ?」」」
陸也が何かを考えて、答えを出そうとした瞬間に、三人から息のあった突っ込みをくらう。
「だから~、よくわからないんですけどぉ~。変な感じでぇ~」
今度は全員しっかりと、陸也が何かを言うのを待った。
のだが、要領を得ない答え。
「なんやそれ」
「さらにわからなくなってるんだが」
良二は冷たく返している。
恭は返答を待ったのに、まったくわからない陸也の言葉に、眉間に皺が寄る。
「だから~言うの、嫌だったんですよ~ね~」
自分でもよくわからにないことなのだろう。それでも、要領を得ない言葉を発している自覚のある陸也は、少し落ち込んでいる。
「結局、何かようわからんまんまやな」
周りに聞いてもわからない。当人の陸也に聞いても、要領を得ない。
お手上げだと、良二は呟いた。
別に理由がしっかり知りたいわけでもなかったが。何の理由もなく、陸也が窓ガラス全壊をやるとも考えられなかっただけなのだ。
「本人がわかってないものを、他人がわかるわけでもないし。俺はその陸也の言う変な感じってのは、一切無かったし」
圭吾が取り纏めるように言う。
「にぶいんじゃないのか?」
恭が圭吾に向けて言う。
「ひどくないか、恭」
どうやら恭も良二も、相方にはひどい扱いをするらしい。
「本当のことだろ」
笑って言う恭は、ただ単にからかっているだけだとわかるのだが。
引き金のわからない事件。そう考えると、得体の知れない何かを想像してしまうので、それを避けたいのかもしれない。
「そないなことあらへんて。陸也のがおかしいんかもしれへんし」
「なんで~僕がおかしいの~!」
良二の言葉に陸也が不満を言う。
「実際に陸也だけだったんだろ?その変な感じってのを感じ取ったのは」
恭が改めて、陸也に向き直る。恭にまで言われてしまい、さらに陸也がへこんでいる。
「うーん。そうなるんだろうなぁ」
恭の言葉に頷いた圭吾。
「うわぁ~、圭吾君まで、ひどい~です~」
「あぁ、ごめん。陸也がおかしいってことじゃなくて、だな。あの時は本当俺は何もわかんなかったけど、もしかしたら、聞いてない奴が何か感じてるかもしれないだろ?また明日クラスの奴に聞いてみようぜ」
盛大に落ち込んだ陸也に、慌てた圭吾が落ち着かせようと言葉を選びながら言う。
まぁ、そんなわけで。今日も生徒たちは平和だった。
多分……。
一人の男の姿だけは、何故かはっきりと見ることができた。
――あれから、何年経ったのだ?そろそろ、現れてくれる頃だろうか。
この手で殺してしまった。愛しい人の産まれ変わりが……――
それは言葉として発せられたモノなのか、それともただの意識だけなのか。
――この空間にいるのも飽いた。探しに行こうか、彼の人を……――
その言葉は続く。
わかるのはその言葉が、この空間に唯一見える男のものだということだけ。
――そうだな。探しに出よう。もう一度、彼の人と在る為に……――
一人で納得すると、唐突に男の姿はこの空間から消え失せた。
後に残ったのは、静寂のみ。
何も無い空間。
ここは明るいのか、暗いのか……
※
『学校の七不思議』
この文字を見ながら生徒会会長、桐生忍は嘆息した。
この学校において、七不思議も十不思議も十四不思議もへったくれもない。
何かにつけて、妖怪だの使い魔だのという精霊がゴロゴロといる学校に、不思議も何もあったものではない。
自分自身精霊を連れて歩いている忍は、机の上に置かれていた意味不明の紙を放り出した。
(そう言えば、一つだけ信憑性のある七不思議が有ったな。七個だか十四個だか二十一個だか知らないけど)
忍はふと思い出した。
そういうモノに、縁が有りすぎる学校なので、すっかり忘れ去っていた。
三年になって、そろそろ進路も考えなければならない身である。
生徒会室には、他のメンバーはまだ来ていない。何かと生徒指導室に厄介になっている人間が、生徒会役員で良いのかと、一瞬ではなく毎回思う忍である。だがまぁ、良くも悪くも目立つ人間なことに変わりはない。人選した二・三年生の意向が、わかるようなわからないような……。
まぁ、とにかく色々と目立つ人間を率いて行くのが、桐生忍の役割である。
忍はもう一度嘆息し、自分の席で仕事を片付け始めた。
「だから~、……」
「陸也はちょい黙っとき。お前がしゃべると先に進まん。……んで、圭吾はどないしとってん?ガラス割ったの陸也やん?」
泉恭史郎と、藤圭吾の部屋。
そこに日野陸也を連れた小野田良二が乗り込んできたのは、夕食が済んでからの数時間の自由時間。
一年で、特に何の課題も出されなかった彼らは、俗に言うと暇人たちだ。
だからといって、恭と圭吾はボケッとしていたわけでもなく。恭は明日の授業に必要な物を確認していたし、圭吾は予習をしていたのだが。
「別に……板書してたし、音がするまで気付かなかったな、うん」
「圭吾君は~授業熱心だから~」
「何でガラスを割ったんだ?」
さっきから、陸也が話そうとするのに、被せる勢いで恭や良二が声を発している。そのことに、少しだけ圭吾は苦笑する。
恭と良二は霊能力者なので、超能力者の圭吾と陸也とはクラスが違う。
良二がガラスを割った犯人が陸也だと知ったのは、つい先ほど部屋で陸也自身が白状した為だ。
そこで、同教室にいた圭吾に、何か有ったかを聞きに来た訳である。
「何でって言われてもぉ~、よく覚えてないんだよねぇ~」
考えながら言う陸也の言葉は、いつもよりさらにスローになっている。
「授業が難しくて、オーバーヒート起こしたんちゃうか?」
失礼な事を言い出すのは、良二だ。
「特に難しい授業してたわけでもなかったけど」
と言う圭吾。
「お前ようこの学校入れたな」
良二は陸也に容赦なく失礼なことを連発している。
「良二~、ひどいこと言ってるの~、自覚してる~?」
陸也のテンポが、さらに遅くなる。
「わからんで言っとらんで、どないせいっちゅうんじゃ」
良二は陸也に遠慮というものをしないらしい。
「お前ら漫才するなら、自分たちの部屋でやれ」
あきらかに煙たがっているのは、恭である。
わざわざ窓ガラス全壊の謎を、知る気もないらしい。
「漫才しに~来た訳じゃ~ないんです~」
陸也の返事に、恭が溜息をついた。口を挟んでも、このスローテンポにイライラしかしなさそうで、恭は黙ることにした。
そんな恭を見て、圭吾の苦笑いが増す。が、二人してわざわざここに来た理由も知らないままに、彼らを帰すのもどうかと圭吾は考える。
「何しに来たんだ?」
「だから。何で同じ教室の奴らが、陸也の仕業やって知らんのかと思って。マジ謎やん?」
何人かにすでに聞いたらしい、良二の返事。
たしかに、あの事件が起こった時、同じ教室にいたにも関わらず、圭吾はまったく真相を知らないままだ。
誰がとか、何が引き金とか。……そういえば沖野先生が来てから、中条先生が陸也を少し見ていた気もする。中条先生は誰が起こしたのかは、わかっていたのだろうか。
「何人に聞いたんだ?」
「えぇ~っとぉ~」
「十人くらいや。そんくらい聞いた上で、圭吾やで?何か皆で隠しとるんやないかと、思ってまうくらいやろ?」
考えて答えを出そうとする陸也を遮って、良二がさっさと答えを出す。
「否、何で隠すんだよ。隠してないし。本当に俺は今犯人知った。中条先生も驚いてたから、引き金はわからないんじゃないかな。沖野先生と話した後に、陸也のこと見てたから、犯人はわかってたかもしれないけど」
圭吾は自分のわかる範囲で回答する。
「ええ~っとねぇ、あれがねぇ~」
「「「どれだよ?」」」
陸也が何かを考えて、答えを出そうとした瞬間に、三人から息のあった突っ込みをくらう。
「だから~、よくわからないんですけどぉ~。変な感じでぇ~」
今度は全員しっかりと、陸也が何かを言うのを待った。
のだが、要領を得ない答え。
「なんやそれ」
「さらにわからなくなってるんだが」
良二は冷たく返している。
恭は返答を待ったのに、まったくわからない陸也の言葉に、眉間に皺が寄る。
「だから~言うの、嫌だったんですよ~ね~」
自分でもよくわからにないことなのだろう。それでも、要領を得ない言葉を発している自覚のある陸也は、少し落ち込んでいる。
「結局、何かようわからんまんまやな」
周りに聞いてもわからない。当人の陸也に聞いても、要領を得ない。
お手上げだと、良二は呟いた。
別に理由がしっかり知りたいわけでもなかったが。何の理由もなく、陸也が窓ガラス全壊をやるとも考えられなかっただけなのだ。
「本人がわかってないものを、他人がわかるわけでもないし。俺はその陸也の言う変な感じってのは、一切無かったし」
圭吾が取り纏めるように言う。
「にぶいんじゃないのか?」
恭が圭吾に向けて言う。
「ひどくないか、恭」
どうやら恭も良二も、相方にはひどい扱いをするらしい。
「本当のことだろ」
笑って言う恭は、ただ単にからかっているだけだとわかるのだが。
引き金のわからない事件。そう考えると、得体の知れない何かを想像してしまうので、それを避けたいのかもしれない。
「そないなことあらへんて。陸也のがおかしいんかもしれへんし」
「なんで~僕がおかしいの~!」
良二の言葉に陸也が不満を言う。
「実際に陸也だけだったんだろ?その変な感じってのを感じ取ったのは」
恭が改めて、陸也に向き直る。恭にまで言われてしまい、さらに陸也がへこんでいる。
「うーん。そうなるんだろうなぁ」
恭の言葉に頷いた圭吾。
「うわぁ~、圭吾君まで、ひどい~です~」
「あぁ、ごめん。陸也がおかしいってことじゃなくて、だな。あの時は本当俺は何もわかんなかったけど、もしかしたら、聞いてない奴が何か感じてるかもしれないだろ?また明日クラスの奴に聞いてみようぜ」
盛大に落ち込んだ陸也に、慌てた圭吾が落ち着かせようと言葉を選びながら言う。
まぁ、そんなわけで。今日も生徒たちは平和だった。
多分……。
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