稜蘭高校 ドタバタ日記

藤野 朔夜

文字の大きさ
上 下
16 / 40
騒動の始まり 入学式

しおりを挟む
「近付かないでよ!ヴァンピーア!」
  甲高い声でラミュエールを牽制したのは、リラの小さな精霊リーンだった。
「またか……」
  うんざりしたように、ラミュエールは言う。
  無理もないが。
  甲高い声でキンキン叫ばれたら、さすがに他人を顧みないラミュエールでも、嫌だと思うだろう。
  しかもこの精霊とは、出会う度出合う度である。
「騒ぎが収まらないんだから、仕方ないよね。それに俺は、君の主には何もする気はないよ」
  だからどけ、と言外に言い放つラミュエールに気圧されたように、リーンは主人の元まで少し下がる。
「でも……」
  次に反論しようとしたのはリラだ。
「暴走を止めるだけだよ。後遺症なんか残りはしない。そんなことになるんだったら、彼が承諾するわけないって、気付いてるよね?この状況を終わらせることが目的だからね」
  自分が動いている理由を、黒髪教師の承諾の元だと言い切りながら、どこか言い訳めいたように聞こえるのは、吸い取った生気を半分くらいを、自分の糧としてしまうからか。
「もう、もう大丈夫ですわ」
  か細い声で言ったのは玲奈だ。
  リラやリーンに気を遣わせたくないからだろう。青白い顔色でありながら、玲奈は気丈に振る舞ってみせた。
「否、君は力を爆発させないように、気を張って疲れている。ラミュエールは必要ないでしょうが、保健室は必要だね。歩けますか?」
  柔らかく問いかけたのは黒髪教師。
  玲奈の意を汲んで、彼女に必要なのは休憩だけだと判定する。
「はい、何とか」
  歩けると玲奈は頷き、リラとリーンに付き添われて、保健室へと向かった。
「先生方、それから在校生の男子生徒。倒れている生徒を保健室又は、保健室隣の教室へ運びます。手伝ってください」
  役に立たなくなっていたマイクが、ようやく本来の役を取り戻した。
  黒髪教師の呼びかけに、力ある生徒と教師が動き出した。


「やっと終わりか?」
  結界を解いて良二が言い、
「そうみたいだな」
  ホッとしたように圭吾が言った。
「入学式の続きは?」
  現実味のあることを恭が言うが、この状態では、どうにもならないだろう。
「とりあえず、先輩ら見習って、椅子片さん?」
  良二の言うとおり、先輩たちはすでに椅子の片付けに入っている。
  どこか手馴れているようにも見えるその姿を見て、恭も圭吾も良二も、同じように椅子の片付けに加わった。
「……なんつーか、入って早々講堂の大掃除が待っとるとか、思わんかったわ」
  大方片付けた終わり、疲れたように良二が言う。
  椅子は数が足りなくなったので、講堂の床に直に座っている三人。
「だよなぁ」
  なかなか疲れる作業だった、と圭吾もため息をはく。
「椅子足りなくなった分、どうするんだろうな」
  恭はいやに現実的なことを言っている。
「先生とかがどうにかするんちゃうの?嫌やで俺、そんなんまで考えたないわ。弁償とかやったら嫌やん」
「俺らは弁償しなくて良いんじゃないのか。壊してないし」
  そういえば、俺は床を少しへこませた気がするけど。アレはどうとでも直せるだろうと、圭吾は思いながら良二に返している。
「否、良二は壊してた。結界で」
「……なぁ、恭が結界張らなかったのって、それが理由?」
「何やて?!ひどいやん!」
  疲れを吹き飛ばしたかのような良二。
「結界を張ると言ってくれた良二に感謝してるぞ。俺は」
  ニヤリと笑った恭は、凶悪に見えた。
「良二~」
  どことなく気の抜けた声が、良二にかかった。
  三人は同時に声のした方を見る。
「陸也やん。どこ行ってもうたんかと思ってたわ」
「僕じゃなくて~、良二が勝手にバババっていなくなったんだよ~」
  気の抜けた声は、それでも良二に食って掛かっている。
  誰?という視線は、恭と圭吾のものだ。
「あー、俺のルームメイト。日野陸也ひのりくやっての。お前がトロイんやろ?何にしても無事で良かったやん」
  視線で問われた良二は、陸也を紹介する。陸也に対しては反論しているが。
「はい~。陸也ですぅ~。えぇーと~、藤君と~?」
  良二からの反論はキッパリ無視して、陸也のスローテンポな声が二人にかかる。
「圭吾で良いよ」
「恭だ」
  苦笑した圭吾と違い、明らかにこの手のタイプを毛嫌いしている恭は、手短に答えた。
「はい~。わかりましたー」
  恭の態度など、気にも止めていないかのように、陸也は頷く。限りなくゆっくりな声と共に。
「すごいことになっちゃいましたねぇ~講堂がー」
  のんびりと、場にそぐわない陸也の声は続いた。
「お前は感化されんかったんやから、ええやんか」
「僕、あぁいうのには、強いんだよねぇ~」
  良二と陸也の会話のテンポの差が、激しい。
「お前、このスローテンポ嫌にならないのか?というか、ルームメイトによく選んだな」
  呆れたような恭。
「こらこら。人それぞれだろ」
  いさめる圭吾。
「良いよぉ~。言われ慣れてるー。僕も、不思議なんだよねぇ。なんで良二が平気なのかがぁ~」
  本人が言うとおり、全く気にした様子のない陸也。
「や、だから圭吾が言うように、人それぞれやん?せかせかするより、のんびりまったりもええな、思てん。俺せかせかしとるから」
  正反対を選んだんだと、良二は言う。
  なるほどね、と恭と圭吾は納得した。


「大丈夫ですよ。楽にして、ゆっくり休んでくださいね」
  そう言って、黒髪教師は玲奈をゆっくりとベッドに寝かせた。
  付き添って来たリラは、すでに椅子をすすめられて座っていた。
「気分が悪くなったら、すぐに言うんですよ?」
  そう言って、カーテンを閉めて教師は他の生徒を見に外へと出た。
「どんな状態です?」
  保健室は、休むだけで大丈夫な生徒だけで、一杯一杯になっている。
  廊下に出て、隣の教室に入ると、黒髪教師はすぐにラミュエールへと問いかけた。
「一時休んだら大丈夫だろうね。気にかけなきゃいけない生徒もいないよ」
  保健室に自力で来た生徒を黒髪教師が、隣の教室に運ばれた生徒をラミュエールが診ていた。
  眠っている生徒たちを気にかけてか、ラミュエールは静かに答える。いつもより、口数も少ない。
「君も役に立つんですね」
「どういう意味かな?」
  教室を後にしつつ、二人の教師は小突き合う。
「そのままの意味ですよ。さて、講堂はどうなっているでしょうね」
「はぁ、まったく……」
  今回は自分がやると言い出したことなので、ラミュエールは黒髪教師に対抗する術がなかった。
  ため息をつきながら、黒髪教師の隣に並んで、ラミュエールも講堂へと戻って行く。


  講堂は、何とか整頓されていた。
  壊れた椅子は、全て燃えないゴミとして外に出された後だった。倒れた生徒がいるとしても、椅子は足りていないらしく、床にそのまま座っている生徒や、立ったままの生徒もいる。
  へこんだ壁や床は、直せる部分は教師と生徒で直したらしく、少しは騒動前の講堂に戻っていると言えるかもしれない。
  だが誰も、このまま入学式の続きをしようなどと、思わないだろう。
  故に、
「今日はこれで解散とします。クラスに一端戻り、明日からの準備と連絡事項を受けてください。新入生は、クラス担任を今から発表しますので、発表後にクラス担任に付いて、教室へと向かってください」
  と言った生徒会長を、どの先生も止めなかった。


  波乱万丈の幕開けをした、稜蘭高校の学生生活は、明日から始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

牛獣人はお世話係にモウモウ夢中!俺の極上ミルクは美味しいでしょ?

ミクリ21 (新)
BL
貴族に飼われている牛獣人アルベドは、良質な極上ミルクを出すためにお世話係は厳選されている。 アルベドのお世話係になったラーミアは、牛のお世話はしたことあっても牛獣人のお世話は初めてだった。 「僕は可愛い牛のお世話がしたかったのに、色気の溢れるイケメン牛獣人なんて求めてません!」 「まぁそう言わずに、一杯俺のミルク飲んでみなよ」 「な…なんて美味しいミルクなんだ!?」

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ダメですお義父さん! 妻が起きてしまいます……

周防
BL
居候は肩身が狭い

処理中です...