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騒動の始まり 入学式
③
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「近付かないでよ!ヴァンピーア!」
甲高い声でラミュエールを牽制したのは、リラの小さな精霊リーンだった。
「またか……」
うんざりしたように、ラミュエールは言う。
無理もないが。
甲高い声でキンキン叫ばれたら、さすがに他人を顧みないラミュエールでも、嫌だと思うだろう。
しかもこの精霊とは、出会う度出合う度である。
「騒ぎが収まらないんだから、仕方ないよね。それに俺は、君の主には何もする気はないよ」
だからどけ、と言外に言い放つラミュエールに気圧されたように、リーンは主人の元まで少し下がる。
「でも……」
次に反論しようとしたのはリラだ。
「暴走を止めるだけだよ。後遺症なんか残りはしない。そんなことになるんだったら、彼が承諾するわけないって、気付いてるよね?この状況を終わらせることが目的だからね」
自分が動いている理由を、黒髪教師の承諾の元だと言い切りながら、どこか言い訳めいたように聞こえるのは、吸い取った生気を半分くらいを、自分の糧としてしまうからか。
「もう、もう大丈夫ですわ」
か細い声で言ったのは玲奈だ。
リラやリーンに気を遣わせたくないからだろう。青白い顔色でありながら、玲奈は気丈に振る舞ってみせた。
「否、君は力を爆発させないように、気を張って疲れている。ラミュエールは必要ないでしょうが、保健室は必要だね。歩けますか?」
柔らかく問いかけたのは黒髪教師。
玲奈の意を汲んで、彼女に必要なのは休憩だけだと判定する。
「はい、何とか」
歩けると玲奈は頷き、リラとリーンに付き添われて、保健室へと向かった。
「先生方、それから在校生の男子生徒。倒れている生徒を保健室又は、保健室隣の教室へ運びます。手伝ってください」
役に立たなくなっていたマイクが、ようやく本来の役を取り戻した。
黒髪教師の呼びかけに、力ある生徒と教師が動き出した。
「やっと終わりか?」
結界を解いて良二が言い、
「そうみたいだな」
ホッとしたように圭吾が言った。
「入学式の続きは?」
現実味のあることを恭が言うが、この状態では、どうにもならないだろう。
「とりあえず、先輩ら見習って、椅子片さん?」
良二の言うとおり、先輩たちはすでに椅子の片付けに入っている。
どこか手馴れているようにも見えるその姿を見て、恭も圭吾も良二も、同じように椅子の片付けに加わった。
「……なんつーか、入って早々講堂の大掃除が待っとるとか、思わんかったわ」
大方片付けた終わり、疲れたように良二が言う。
椅子は数が足りなくなったので、講堂の床に直に座っている三人。
「だよなぁ」
なかなか疲れる作業だった、と圭吾もため息をはく。
「椅子足りなくなった分、どうするんだろうな」
恭はいやに現実的なことを言っている。
「先生とかがどうにかするんちゃうの?嫌やで俺、そんなんまで考えたないわ。弁償とかやったら嫌やん」
「俺らは弁償しなくて良いんじゃないのか。壊してないし」
そういえば、俺は床を少しへこませた気がするけど。アレはどうとでも直せるだろうと、圭吾は思いながら良二に返している。
「否、良二は壊してた。結界で」
「……なぁ、恭が結界張らなかったのって、それが理由?」
「何やて?!ひどいやん!」
疲れを吹き飛ばしたかのような良二。
「結界を張ると言ってくれた良二に感謝してるぞ。俺は」
ニヤリと笑った恭は、凶悪に見えた。
「良二~」
どことなく気の抜けた声が、良二にかかった。
三人は同時に声のした方を見る。
「陸也やん。どこ行ってもうたんかと思ってたわ」
「僕じゃなくて~、良二が勝手にバババっていなくなったんだよ~」
気の抜けた声は、それでも良二に食って掛かっている。
誰?という視線は、恭と圭吾のものだ。
「あー、俺のルームメイト。日野陸也っての。お前がトロイんやろ?何にしても無事で良かったやん」
視線で問われた良二は、陸也を紹介する。陸也に対しては反論しているが。
「はい~。陸也ですぅ~。えぇーと~、藤君と~?」
良二からの反論はキッパリ無視して、陸也のスローテンポな声が二人にかかる。
「圭吾で良いよ」
「恭だ」
苦笑した圭吾と違い、明らかにこの手のタイプを毛嫌いしている恭は、手短に答えた。
「はい~。わかりましたー」
恭の態度など、気にも止めていないかのように、陸也は頷く。限りなくゆっくりな声と共に。
「すごいことになっちゃいましたねぇ~講堂がー」
のんびりと、場にそぐわない陸也の声は続いた。
「お前は感化されんかったんやから、ええやんか」
「僕、あぁいうのには、強いんだよねぇ~」
良二と陸也の会話のテンポの差が、激しい。
「お前、このスローテンポ嫌にならないのか?というか、ルームメイトによく選んだな」
呆れたような恭。
「こらこら。人それぞれだろ」
いさめる圭吾。
「良いよぉ~。言われ慣れてるー。僕も、不思議なんだよねぇ。なんで良二が平気なのかがぁ~」
本人が言うとおり、全く気にした様子のない陸也。
「や、だから圭吾が言うように、人それぞれやん?せかせかするより、のんびりまったりもええな、思てん。俺せかせかしとるから」
正反対を選んだんだと、良二は言う。
なるほどね、と恭と圭吾は納得した。
「大丈夫ですよ。楽にして、ゆっくり休んでくださいね」
そう言って、黒髪教師は玲奈をゆっくりとベッドに寝かせた。
付き添って来たリラは、すでに椅子をすすめられて座っていた。
「気分が悪くなったら、すぐに言うんですよ?」
そう言って、カーテンを閉めて教師は他の生徒を見に外へと出た。
「どんな状態です?」
保健室は、休むだけで大丈夫な生徒だけで、一杯一杯になっている。
廊下に出て、隣の教室に入ると、黒髪教師はすぐにラミュエールへと問いかけた。
「一時休んだら大丈夫だろうね。気にかけなきゃいけない生徒もいないよ」
保健室に自力で来た生徒を黒髪教師が、隣の教室に運ばれた生徒をラミュエールが診ていた。
眠っている生徒たちを気にかけてか、ラミュエールは静かに答える。いつもより、口数も少ない。
「君も役に立つんですね」
「どういう意味かな?」
教室を後にしつつ、二人の教師は小突き合う。
「そのままの意味ですよ。さて、講堂はどうなっているでしょうね」
「はぁ、まったく……」
今回は自分がやると言い出したことなので、ラミュエールは黒髪教師に対抗する術がなかった。
ため息をつきながら、黒髪教師の隣に並んで、ラミュエールも講堂へと戻って行く。
講堂は、何とか整頓されていた。
壊れた椅子は、全て燃えないゴミとして外に出された後だった。倒れた生徒がいるとしても、椅子は足りていないらしく、床にそのまま座っている生徒や、立ったままの生徒もいる。
へこんだ壁や床は、直せる部分は教師と生徒で直したらしく、少しは騒動前の講堂に戻っていると言えるかもしれない。
だが誰も、このまま入学式の続きをしようなどと、思わないだろう。
故に、
「今日はこれで解散とします。クラスに一端戻り、明日からの準備と連絡事項を受けてください。新入生は、クラス担任を今から発表しますので、発表後にクラス担任に付いて、教室へと向かってください」
と言った生徒会長を、どの先生も止めなかった。
波乱万丈の幕開けをした、稜蘭高校の学生生活は、明日から始まる。
甲高い声でラミュエールを牽制したのは、リラの小さな精霊リーンだった。
「またか……」
うんざりしたように、ラミュエールは言う。
無理もないが。
甲高い声でキンキン叫ばれたら、さすがに他人を顧みないラミュエールでも、嫌だと思うだろう。
しかもこの精霊とは、出会う度出合う度である。
「騒ぎが収まらないんだから、仕方ないよね。それに俺は、君の主には何もする気はないよ」
だからどけ、と言外に言い放つラミュエールに気圧されたように、リーンは主人の元まで少し下がる。
「でも……」
次に反論しようとしたのはリラだ。
「暴走を止めるだけだよ。後遺症なんか残りはしない。そんなことになるんだったら、彼が承諾するわけないって、気付いてるよね?この状況を終わらせることが目的だからね」
自分が動いている理由を、黒髪教師の承諾の元だと言い切りながら、どこか言い訳めいたように聞こえるのは、吸い取った生気を半分くらいを、自分の糧としてしまうからか。
「もう、もう大丈夫ですわ」
か細い声で言ったのは玲奈だ。
リラやリーンに気を遣わせたくないからだろう。青白い顔色でありながら、玲奈は気丈に振る舞ってみせた。
「否、君は力を爆発させないように、気を張って疲れている。ラミュエールは必要ないでしょうが、保健室は必要だね。歩けますか?」
柔らかく問いかけたのは黒髪教師。
玲奈の意を汲んで、彼女に必要なのは休憩だけだと判定する。
「はい、何とか」
歩けると玲奈は頷き、リラとリーンに付き添われて、保健室へと向かった。
「先生方、それから在校生の男子生徒。倒れている生徒を保健室又は、保健室隣の教室へ運びます。手伝ってください」
役に立たなくなっていたマイクが、ようやく本来の役を取り戻した。
黒髪教師の呼びかけに、力ある生徒と教師が動き出した。
「やっと終わりか?」
結界を解いて良二が言い、
「そうみたいだな」
ホッとしたように圭吾が言った。
「入学式の続きは?」
現実味のあることを恭が言うが、この状態では、どうにもならないだろう。
「とりあえず、先輩ら見習って、椅子片さん?」
良二の言うとおり、先輩たちはすでに椅子の片付けに入っている。
どこか手馴れているようにも見えるその姿を見て、恭も圭吾も良二も、同じように椅子の片付けに加わった。
「……なんつーか、入って早々講堂の大掃除が待っとるとか、思わんかったわ」
大方片付けた終わり、疲れたように良二が言う。
椅子は数が足りなくなったので、講堂の床に直に座っている三人。
「だよなぁ」
なかなか疲れる作業だった、と圭吾もため息をはく。
「椅子足りなくなった分、どうするんだろうな」
恭はいやに現実的なことを言っている。
「先生とかがどうにかするんちゃうの?嫌やで俺、そんなんまで考えたないわ。弁償とかやったら嫌やん」
「俺らは弁償しなくて良いんじゃないのか。壊してないし」
そういえば、俺は床を少しへこませた気がするけど。アレはどうとでも直せるだろうと、圭吾は思いながら良二に返している。
「否、良二は壊してた。結界で」
「……なぁ、恭が結界張らなかったのって、それが理由?」
「何やて?!ひどいやん!」
疲れを吹き飛ばしたかのような良二。
「結界を張ると言ってくれた良二に感謝してるぞ。俺は」
ニヤリと笑った恭は、凶悪に見えた。
「良二~」
どことなく気の抜けた声が、良二にかかった。
三人は同時に声のした方を見る。
「陸也やん。どこ行ってもうたんかと思ってたわ」
「僕じゃなくて~、良二が勝手にバババっていなくなったんだよ~」
気の抜けた声は、それでも良二に食って掛かっている。
誰?という視線は、恭と圭吾のものだ。
「あー、俺のルームメイト。日野陸也っての。お前がトロイんやろ?何にしても無事で良かったやん」
視線で問われた良二は、陸也を紹介する。陸也に対しては反論しているが。
「はい~。陸也ですぅ~。えぇーと~、藤君と~?」
良二からの反論はキッパリ無視して、陸也のスローテンポな声が二人にかかる。
「圭吾で良いよ」
「恭だ」
苦笑した圭吾と違い、明らかにこの手のタイプを毛嫌いしている恭は、手短に答えた。
「はい~。わかりましたー」
恭の態度など、気にも止めていないかのように、陸也は頷く。限りなくゆっくりな声と共に。
「すごいことになっちゃいましたねぇ~講堂がー」
のんびりと、場にそぐわない陸也の声は続いた。
「お前は感化されんかったんやから、ええやんか」
「僕、あぁいうのには、強いんだよねぇ~」
良二と陸也の会話のテンポの差が、激しい。
「お前、このスローテンポ嫌にならないのか?というか、ルームメイトによく選んだな」
呆れたような恭。
「こらこら。人それぞれだろ」
いさめる圭吾。
「良いよぉ~。言われ慣れてるー。僕も、不思議なんだよねぇ。なんで良二が平気なのかがぁ~」
本人が言うとおり、全く気にした様子のない陸也。
「や、だから圭吾が言うように、人それぞれやん?せかせかするより、のんびりまったりもええな、思てん。俺せかせかしとるから」
正反対を選んだんだと、良二は言う。
なるほどね、と恭と圭吾は納得した。
「大丈夫ですよ。楽にして、ゆっくり休んでくださいね」
そう言って、黒髪教師は玲奈をゆっくりとベッドに寝かせた。
付き添って来たリラは、すでに椅子をすすめられて座っていた。
「気分が悪くなったら、すぐに言うんですよ?」
そう言って、カーテンを閉めて教師は他の生徒を見に外へと出た。
「どんな状態です?」
保健室は、休むだけで大丈夫な生徒だけで、一杯一杯になっている。
廊下に出て、隣の教室に入ると、黒髪教師はすぐにラミュエールへと問いかけた。
「一時休んだら大丈夫だろうね。気にかけなきゃいけない生徒もいないよ」
保健室に自力で来た生徒を黒髪教師が、隣の教室に運ばれた生徒をラミュエールが診ていた。
眠っている生徒たちを気にかけてか、ラミュエールは静かに答える。いつもより、口数も少ない。
「君も役に立つんですね」
「どういう意味かな?」
教室を後にしつつ、二人の教師は小突き合う。
「そのままの意味ですよ。さて、講堂はどうなっているでしょうね」
「はぁ、まったく……」
今回は自分がやると言い出したことなので、ラミュエールは黒髪教師に対抗する術がなかった。
ため息をつきながら、黒髪教師の隣に並んで、ラミュエールも講堂へと戻って行く。
講堂は、何とか整頓されていた。
壊れた椅子は、全て燃えないゴミとして外に出された後だった。倒れた生徒がいるとしても、椅子は足りていないらしく、床にそのまま座っている生徒や、立ったままの生徒もいる。
へこんだ壁や床は、直せる部分は教師と生徒で直したらしく、少しは騒動前の講堂に戻っていると言えるかもしれない。
だが誰も、このまま入学式の続きをしようなどと、思わないだろう。
故に、
「今日はこれで解散とします。クラスに一端戻り、明日からの準備と連絡事項を受けてください。新入生は、クラス担任を今から発表しますので、発表後にクラス担任に付いて、教室へと向かってください」
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