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騒動の始まり 入学式
①
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「……日常を壊す権利は、誰にもないと思います。だからこそ、私たちのような力を持った人間が、力無き人々を、魔や力あ有る人間が脅かす恐怖から、守る義務があると考えます。本校で、その力の使い方を学び、これから先に活かして行けたらと、私たち新入生は考え、この高校への道を選びました。諸先生方や、在校生の皆さん方を見習い、勉学と力を学ぶことに、全力を尽くしたいと思います。新入生代表、藤圭吾」
広い講堂。圭吾のあいさつが、響いていた。
未だに相方の決まらない新入生はいるけれど。それでも入学式は静かに、退屈な時間をつぶして行った。
入寮日から、一週間。やっと本格的に、学園生活の幕開けとなった。
入寮出来ている人間も、出来ていない人間も。
新入生は、これからの生活の不安からか、落ち着かない者も、多数いた。
(あまり良い環境では、ありませんわね)
人の心を読めてしまう、美南玲奈は思う。シャットアウトしていても、これだけ多くの人間が集まれば、かなり心に負担になるのだ。
「レイ、大丈夫?」
小声でこっそりと玲奈に問うたののは、寮の同室者となり、今は隣にいてくれている、リラ・川口・リュードリヒだ。
彼女は玲奈の、他人の心を読んでしまう能力を知っている。この人数の中、玲奈の顔色が悪くなるのを見て、声をかけたのだ。
「え、ええ。何とか。最後までやり過ごしますわ。大丈夫。心配しないで」
ありがとう、と玲奈はリラに呟いて、前を毅然と見据えた。そうしていないと、不安な心で充満している講堂だ。周りに感化されて、力が解放されそうになるのだ。
(解放されたら、どうなるの?)
自分でも不安な心をかかえている。引きずられそうな感覚に陥り、玲奈は身震いした。
隣で自分を気遣ってくれているリラに、心配をかけたくないと思う反面、この不安を払拭する為に、騒ぎ出してしまいたいと思う自分がいるのに、玲奈は気付いている。
けれど、と玲奈は自分を押さえることに、専念した。
先の新入生代表のあいさつも、今壇上で話しをしている生徒会長の言葉も、玲奈の頭には一切何も残らないけれども。
それでも、玲奈はそれぞれの言葉よりも、今は自分を押さえることが大切だ、と考えている。
「どうかしたのか?」
壇上から戻って来た藤圭吾に、隣になった泉恭史郎は尋ねる。何やら心配そうに、後ろを気にしていたからだ。
講堂での入学式は、特にクラスで席が決まっているわけではなかった。
だから恭は当然のように、圭吾の隣にいた。圭吾は新入生あいさつの為に、最前列一番左の席なのは、決まっていたので。
「ん、否、顔色悪い子がいたからさ。美人だったから目が行って、気になった」
圭吾は思ったことを、そのまま恭に伝えた。
「美人って、お前な。よくこの中で冷静でいられるな」
恭は、人の多さに辟易としていたのだ。
元々人混みは好きではない恭。だからこそ、入寮日に圭吾を捕まえて、無事に同室になれ、雑魚寝しなくて済んだことを、ホッとしていた。
「否、冷静っつーか、麻痺状態?壇上上がるのに緊張し過ぎたから、もう何でも良いや。みたいな。んで、美人な子見付けたら目が行くだろ?俺も男だ」
新入生の不安や期待やらで、飽和状態のこの講堂で、多分きっと、一番冷静でいられているのが、圭吾なのではなかろうか。
恭はため息をついて、頭を振ると、壇上を見据えた。
恭もまた、自分の力に抑えが利かなくなるのを、恐れているのだ。
入学式は、退屈だ。
美人だろうとなかろうと、そんなことは関係ない。
問題なのは、その圭吾の見付けた彼女や、自分自身が起爆剤にならないだろうか、ということだと恭は思う。
教師陣や在校生たちの落ち着きが、何とか爆発を抑えているフタになっているな、と恭は感じている。
ドンッ
弾けたのは、そんな時だった。
「うわあぁぁぁぁー……」
混乱したように叫んでいるのは、新入生の一人だった。彼はただ、この飽和状態に耐えきれなくなり、爆発したのだろう。
「っつ!!」
驚いたのは、恭と圭吾だ。
彼のすぐ前にいたのだから。
圭吾は恭を捕まえて、壇上の方へと、つまり前へと大きく跳んだ。
おかげで椅子が吹き飛ぶことでの怪我はしなかったが、床に大きなへこみを作ってしまったが。まぁ、そんなことを言ってられる状況でもないから、良いだろうと圭吾は自己完結した。
ただ、他の人たちが気の毒である。
咄嗟の判断ができなかったのか、凍りついたようにそこで動けなくなっている生徒もいるのだ。
「あぁぁぁぁぁ」
別の場所でも、騒ぎは起こった。
始めに爆発した生徒に感化され、抑えられなくなった生徒が続出して行く。
感化されていく超能力者の数は増える。
あちこちで、椅子が人を乗せたまま浮かび上がったり、誰も座っていない椅子が、壁に激突したり……。
そしてそれは、超能力者だけに済まなかった。
そう、霊能力者たちも、力を爆発させ始めてしまったのだ。
最初は、すぐに収まるだろうとかまえていた、教師陣や在校生。これは止めに入らなければならない、そういう事態になってしまったのだ。
「静まりなさい」
「落ち着きなさい」
マイクを通して言われる言葉は、恐慌状態に陥った生徒には、無意味でしかなかった。
何人かの冷静を保てている新入生は、壇上下に固まっていた。すぐ近くへと椅子が飛んできても、何とかかわしたりできる生徒たちだ。
そして、自分も感化されてしまわないように、結界を張る生徒もいれば、ただただ椅子を避けるのに必死なだけの生徒もいる。
「レイ、大丈夫だから。気を静めて。深呼吸して」
リラは、玲奈を必死に繋ぎ止めようと抱き締める。
何とかリラは、冷静でいられていた。
でも、玲奈をこうして抱き締めていないと、自分もすぐに感化されそうになっていることを、リラはわかっている。玲奈を落ち着かせる、その意思を強く持たないと、リラだって爆発しそうなのだ。
さっきから、彼女の精霊は感化されて騒いでしまっている。そちらに気を取られれば、リラも冷静ではいられなくなる。そう思いながら、玲奈に付き添い続けている。
玲奈の心が返って来るように、と願いながら。
自分の心がここに在り続けられるように、と願いながら。
彼女は毅然と、恐慌状態の講堂と向き合っていた。
広い講堂。圭吾のあいさつが、響いていた。
未だに相方の決まらない新入生はいるけれど。それでも入学式は静かに、退屈な時間をつぶして行った。
入寮日から、一週間。やっと本格的に、学園生活の幕開けとなった。
入寮出来ている人間も、出来ていない人間も。
新入生は、これからの生活の不安からか、落ち着かない者も、多数いた。
(あまり良い環境では、ありませんわね)
人の心を読めてしまう、美南玲奈は思う。シャットアウトしていても、これだけ多くの人間が集まれば、かなり心に負担になるのだ。
「レイ、大丈夫?」
小声でこっそりと玲奈に問うたののは、寮の同室者となり、今は隣にいてくれている、リラ・川口・リュードリヒだ。
彼女は玲奈の、他人の心を読んでしまう能力を知っている。この人数の中、玲奈の顔色が悪くなるのを見て、声をかけたのだ。
「え、ええ。何とか。最後までやり過ごしますわ。大丈夫。心配しないで」
ありがとう、と玲奈はリラに呟いて、前を毅然と見据えた。そうしていないと、不安な心で充満している講堂だ。周りに感化されて、力が解放されそうになるのだ。
(解放されたら、どうなるの?)
自分でも不安な心をかかえている。引きずられそうな感覚に陥り、玲奈は身震いした。
隣で自分を気遣ってくれているリラに、心配をかけたくないと思う反面、この不安を払拭する為に、騒ぎ出してしまいたいと思う自分がいるのに、玲奈は気付いている。
けれど、と玲奈は自分を押さえることに、専念した。
先の新入生代表のあいさつも、今壇上で話しをしている生徒会長の言葉も、玲奈の頭には一切何も残らないけれども。
それでも、玲奈はそれぞれの言葉よりも、今は自分を押さえることが大切だ、と考えている。
「どうかしたのか?」
壇上から戻って来た藤圭吾に、隣になった泉恭史郎は尋ねる。何やら心配そうに、後ろを気にしていたからだ。
講堂での入学式は、特にクラスで席が決まっているわけではなかった。
だから恭は当然のように、圭吾の隣にいた。圭吾は新入生あいさつの為に、最前列一番左の席なのは、決まっていたので。
「ん、否、顔色悪い子がいたからさ。美人だったから目が行って、気になった」
圭吾は思ったことを、そのまま恭に伝えた。
「美人って、お前な。よくこの中で冷静でいられるな」
恭は、人の多さに辟易としていたのだ。
元々人混みは好きではない恭。だからこそ、入寮日に圭吾を捕まえて、無事に同室になれ、雑魚寝しなくて済んだことを、ホッとしていた。
「否、冷静っつーか、麻痺状態?壇上上がるのに緊張し過ぎたから、もう何でも良いや。みたいな。んで、美人な子見付けたら目が行くだろ?俺も男だ」
新入生の不安や期待やらで、飽和状態のこの講堂で、多分きっと、一番冷静でいられているのが、圭吾なのではなかろうか。
恭はため息をついて、頭を振ると、壇上を見据えた。
恭もまた、自分の力に抑えが利かなくなるのを、恐れているのだ。
入学式は、退屈だ。
美人だろうとなかろうと、そんなことは関係ない。
問題なのは、その圭吾の見付けた彼女や、自分自身が起爆剤にならないだろうか、ということだと恭は思う。
教師陣や在校生たちの落ち着きが、何とか爆発を抑えているフタになっているな、と恭は感じている。
ドンッ
弾けたのは、そんな時だった。
「うわあぁぁぁぁー……」
混乱したように叫んでいるのは、新入生の一人だった。彼はただ、この飽和状態に耐えきれなくなり、爆発したのだろう。
「っつ!!」
驚いたのは、恭と圭吾だ。
彼のすぐ前にいたのだから。
圭吾は恭を捕まえて、壇上の方へと、つまり前へと大きく跳んだ。
おかげで椅子が吹き飛ぶことでの怪我はしなかったが、床に大きなへこみを作ってしまったが。まぁ、そんなことを言ってられる状況でもないから、良いだろうと圭吾は自己完結した。
ただ、他の人たちが気の毒である。
咄嗟の判断ができなかったのか、凍りついたようにそこで動けなくなっている生徒もいるのだ。
「あぁぁぁぁぁ」
別の場所でも、騒ぎは起こった。
始めに爆発した生徒に感化され、抑えられなくなった生徒が続出して行く。
感化されていく超能力者の数は増える。
あちこちで、椅子が人を乗せたまま浮かび上がったり、誰も座っていない椅子が、壁に激突したり……。
そしてそれは、超能力者だけに済まなかった。
そう、霊能力者たちも、力を爆発させ始めてしまったのだ。
最初は、すぐに収まるだろうとかまえていた、教師陣や在校生。これは止めに入らなければならない、そういう事態になってしまったのだ。
「静まりなさい」
「落ち着きなさい」
マイクを通して言われる言葉は、恐慌状態に陥った生徒には、無意味でしかなかった。
何人かの冷静を保てている新入生は、壇上下に固まっていた。すぐ近くへと椅子が飛んできても、何とかかわしたりできる生徒たちだ。
そして、自分も感化されてしまわないように、結界を張る生徒もいれば、ただただ椅子を避けるのに必死なだけの生徒もいる。
「レイ、大丈夫だから。気を静めて。深呼吸して」
リラは、玲奈を必死に繋ぎ止めようと抱き締める。
何とかリラは、冷静でいられていた。
でも、玲奈をこうして抱き締めていないと、自分もすぐに感化されそうになっていることを、リラはわかっている。玲奈を落ち着かせる、その意思を強く持たないと、リラだって爆発しそうなのだ。
さっきから、彼女の精霊は感化されて騒いでしまっている。そちらに気を取られれば、リラも冷静ではいられなくなる。そう思いながら、玲奈に付き添い続けている。
玲奈の心が返って来るように、と願いながら。
自分の心がここに在り続けられるように、と願いながら。
彼女は毅然と、恐慌状態の講堂と向き合っていた。
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