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歯車は廻り出す
④
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「……まさか、同室になるとは」
「仕方ない。あの門抜けるのに、同室になっても良い人間と二人で、っていう文句が貼り付けて有ったんだから。しかも、あの門抜けるのに、霊能力者と超能力者、二人そろっていたら簡単に抜けれるだと?!わかってたら、あの時試したのに!!」
割り当てられた部屋に着いて、ぼんやりと言った俺に、恭がまくしたてるように一気に答えた。
恭の言うあの時とは、俺と会った一週間前のことだろう。
知らなかったことを今更言っても、それこそ仕方ないことなんだが。
恭とは、門前で再会した。
挨拶もそこそこに問答無用とばかりに、俺は訳のわからないまま恭に連れて行かれた。
恭曰く、
「寮が二人部屋だとわかった瞬間、お前以外なんぞ論外だった」
らしい。
相変わらずお前と呼んでくる恭に、俺はもう何も言う気はなくなっている。
言うだけ無駄。というか、気が向いた時にでも名前を呼んでくれたらそれでいい、そう思うからだ。今二人しかいないから、恭の呼ぶ『お前』が誰を差しているのかはっきりわかる、というのも理由になるのかもしれない。
こう思っている時点で、恭に対して俺は我慢をしていることになるのだろうか?
俺は特別我慢しているとは思わないから、それで良いと思うことにする。
名前と言うのは、個人を特定するのにとても大切な物だとは思っているけど。だからって、自分の考えを押し付けるのも、何か違う。
で、寮の部屋なんだが。二人部屋だ。なおかつ、霊能力者と超能力者の組み合わせで。という変な規則は、ここに来るまでの間に、恭に教わった。
そんでもって、相方は自分で探せ、というとんでもない物だった。
卒業後、霊能力者と超能力者が組んで仕事をすることは、多いらしい。特殊能力を使った犯罪が、どちらか片方だけならば良いのだが、そうでないことが圧倒的に多いからだ。今のうちに組んで、相手との考え方の違いだったり、どんな力の使い方が有るのかをお互いに覚えて、対処法を知って行く。そういう狙いらしい。
相方が決まれば、自動的に門から中に入れる。入ってしまえば登録ができ、今後はそんな面倒なことはしなくていいらしい。門を抜ける為に、霊能力者と常に一緒にいなくても良いということだ。恭の場合で言えば、門を抜けるのに常に超能力者と一緒でなくて良くなる、そういうことだ。
寮の部屋は、空いている部屋の中から、良い部屋を取ることができるから、早くに決まった俺たちは、結構良い位置の部屋だ。そして、さっさと荷物が片付けられるのも、良いことだと思う。
入寮日から入学式までの間が、二週間も有った理由が、よくわかった。
一日で寮に入れなかった者は、夜になると仮入校が許される。男子は体育館、女子は武道館で雑魚寝になるのだが。
荷物もそれぞれ、体育館や武道館に置かれているらしい。俺は本当に早くに決まったからか、寮監の人が荷物を持って来てくれたから、知らない。まだまだ決まる人は少ないから、と言ってた寮監さんは、優しそうな人だった。二人分の荷物を持って来てくれてしまうのだから、実際に優しいのだろうが。
荷解きも出来ず、全く知らない人間と雑魚寝。恭は絶対に嫌がるだろうと、簡単に予想出来る。
寮の部屋変えは、自由らしい。お互いの相方が許せば、簡単に変わることが出来る。三年間同室のまま、という者たちは、今の所いないらしい。
そりゃそうだ。規則に則り、寮に入るだけの為に決めた相手と、相性が簡単に合うとは思えない。
まったく、特殊学校って、能力だけじゃなくて、色々と特殊なんじゃなかろうか。
そんな訳で、恭は俺を門の前で待っていてくれ、俺に選択権は与えず、さっさと二人で寮に入ったのである。待ち伏せされてたんだな、うん。
恭の性格は、やっぱり相方が我慢するしかない、かもしれない。
恭の相手を、我慢してるとか思わずに出来るのは、俺くらいなんだろうな、なんて思ってみたりする。
これは、本人には言ったら駄目なことだけど。
あれ、でも……「お前以外は論外」っていうのは、実は恭自身がわかってることなのか?周りが離れていくって言ってたし。
そうは言っても、恭は相手のことを考えて行動する、っていうのは苦手そうだし。
まぁ、だから「お前以外は論外」なんだろうな。
俺は我慢してるとか、思ってないし。
「何を考えているのか知らないが、片付けをした方が良いんじゃないか?」
恭に指摘され、ハッとなる。
恭はすでに段ボールを数個開けている。
たしかに、鞄やら段ボールやら、整理しないと生活が出来ない。
二人部屋だし、片方の荷物が残ってる状態は、相手に申し訳ないものだ。
「あぁ、ごめん。早く部屋、決まって良かったな」
しみじみと、そう思う。
部屋が決まらず、荷解き出来ないままというのは、やっぱり嫌だ。
早かったおかげで、位置も良いし。楽に食堂等に行ける場所というのは、本当にありがたい場所だと思う。
一応自炊も出来るようにはなってるけど。俺は今のとこ、お茶を淹れるしか出来ないが。
調理器具なんかは、寮にスーパー的なのが有って売ってるとか。やる気は今のとこないけど。やかんくらいは買いに行くかもしれない。
「まぁな。ゆっくり眠れるのが、一番良い」
やっぱり恭は、雑魚寝が嫌だったんだな、と笑ってしまった。
「長く続くと思うか?」
問われ、
「二人で生活して行くしかないからな。今のとこ、恭以外を知らないから、何とも言えないな」
と答えた。
何と言っても、入寮したてなのだ。どんな奴がいたかも、知らない。何せ恭に再会した瞬間に、連れて来られているし。
「そうか」
静かな返事。
片付け中の部屋に、嫌に響いた。
恭自身、周りが離れて行くということを、気にしているのかもしれない。
「最初から三年間同室。っていう伝説を残すのも、悪くはないな」
笑いながら、軽い調子で言ってみる。
恭に忍耐を強いられ過ぎない限り……今のとこは感じてないけど。それか、恭が俺と同室が嫌だと言い出さない限り。きっと変わらずに、二人でこの部屋で過ごしている気がする。
「伝説?まぁ、今まで誰も出来なかったことを成し遂げれば、成り得るか」
苦笑を浮かべている恭。
恭自身が気にすることはない、俺はそう思う。
だって俺は、恭と話しをしていて、楽しいと思うのだから。
周りが離れて行ったとしても、俺は多分恭と一緒にいることを選ぶだろう。そう思える。
俺は、恭の性格を全てわかっているわけではないのだけれど。
それでも傍にいて、嫌な気分にはなったりしない。多少ムカッとしたりするかもしれないけど。それは、隠さず言えば、恭なりに直すだろうとも思えてる。
傍にいて、嫌じゃない。
それならば、伝説は成し得る。
何はともあれ、同室者に俺を選んでくれたことを、喜んで良いのだろう。きっと……。
そんな形で、俺と恭史郎の特殊高校生活は、始まるのだった。
「仕方ない。あの門抜けるのに、同室になっても良い人間と二人で、っていう文句が貼り付けて有ったんだから。しかも、あの門抜けるのに、霊能力者と超能力者、二人そろっていたら簡単に抜けれるだと?!わかってたら、あの時試したのに!!」
割り当てられた部屋に着いて、ぼんやりと言った俺に、恭がまくしたてるように一気に答えた。
恭の言うあの時とは、俺と会った一週間前のことだろう。
知らなかったことを今更言っても、それこそ仕方ないことなんだが。
恭とは、門前で再会した。
挨拶もそこそこに問答無用とばかりに、俺は訳のわからないまま恭に連れて行かれた。
恭曰く、
「寮が二人部屋だとわかった瞬間、お前以外なんぞ論外だった」
らしい。
相変わらずお前と呼んでくる恭に、俺はもう何も言う気はなくなっている。
言うだけ無駄。というか、気が向いた時にでも名前を呼んでくれたらそれでいい、そう思うからだ。今二人しかいないから、恭の呼ぶ『お前』が誰を差しているのかはっきりわかる、というのも理由になるのかもしれない。
こう思っている時点で、恭に対して俺は我慢をしていることになるのだろうか?
俺は特別我慢しているとは思わないから、それで良いと思うことにする。
名前と言うのは、個人を特定するのにとても大切な物だとは思っているけど。だからって、自分の考えを押し付けるのも、何か違う。
で、寮の部屋なんだが。二人部屋だ。なおかつ、霊能力者と超能力者の組み合わせで。という変な規則は、ここに来るまでの間に、恭に教わった。
そんでもって、相方は自分で探せ、というとんでもない物だった。
卒業後、霊能力者と超能力者が組んで仕事をすることは、多いらしい。特殊能力を使った犯罪が、どちらか片方だけならば良いのだが、そうでないことが圧倒的に多いからだ。今のうちに組んで、相手との考え方の違いだったり、どんな力の使い方が有るのかをお互いに覚えて、対処法を知って行く。そういう狙いらしい。
相方が決まれば、自動的に門から中に入れる。入ってしまえば登録ができ、今後はそんな面倒なことはしなくていいらしい。門を抜ける為に、霊能力者と常に一緒にいなくても良いということだ。恭の場合で言えば、門を抜けるのに常に超能力者と一緒でなくて良くなる、そういうことだ。
寮の部屋は、空いている部屋の中から、良い部屋を取ることができるから、早くに決まった俺たちは、結構良い位置の部屋だ。そして、さっさと荷物が片付けられるのも、良いことだと思う。
入寮日から入学式までの間が、二週間も有った理由が、よくわかった。
一日で寮に入れなかった者は、夜になると仮入校が許される。男子は体育館、女子は武道館で雑魚寝になるのだが。
荷物もそれぞれ、体育館や武道館に置かれているらしい。俺は本当に早くに決まったからか、寮監の人が荷物を持って来てくれたから、知らない。まだまだ決まる人は少ないから、と言ってた寮監さんは、優しそうな人だった。二人分の荷物を持って来てくれてしまうのだから、実際に優しいのだろうが。
荷解きも出来ず、全く知らない人間と雑魚寝。恭は絶対に嫌がるだろうと、簡単に予想出来る。
寮の部屋変えは、自由らしい。お互いの相方が許せば、簡単に変わることが出来る。三年間同室のまま、という者たちは、今の所いないらしい。
そりゃそうだ。規則に則り、寮に入るだけの為に決めた相手と、相性が簡単に合うとは思えない。
まったく、特殊学校って、能力だけじゃなくて、色々と特殊なんじゃなかろうか。
そんな訳で、恭は俺を門の前で待っていてくれ、俺に選択権は与えず、さっさと二人で寮に入ったのである。待ち伏せされてたんだな、うん。
恭の性格は、やっぱり相方が我慢するしかない、かもしれない。
恭の相手を、我慢してるとか思わずに出来るのは、俺くらいなんだろうな、なんて思ってみたりする。
これは、本人には言ったら駄目なことだけど。
あれ、でも……「お前以外は論外」っていうのは、実は恭自身がわかってることなのか?周りが離れていくって言ってたし。
そうは言っても、恭は相手のことを考えて行動する、っていうのは苦手そうだし。
まぁ、だから「お前以外は論外」なんだろうな。
俺は我慢してるとか、思ってないし。
「何を考えているのか知らないが、片付けをした方が良いんじゃないか?」
恭に指摘され、ハッとなる。
恭はすでに段ボールを数個開けている。
たしかに、鞄やら段ボールやら、整理しないと生活が出来ない。
二人部屋だし、片方の荷物が残ってる状態は、相手に申し訳ないものだ。
「あぁ、ごめん。早く部屋、決まって良かったな」
しみじみと、そう思う。
部屋が決まらず、荷解き出来ないままというのは、やっぱり嫌だ。
早かったおかげで、位置も良いし。楽に食堂等に行ける場所というのは、本当にありがたい場所だと思う。
一応自炊も出来るようにはなってるけど。俺は今のとこ、お茶を淹れるしか出来ないが。
調理器具なんかは、寮にスーパー的なのが有って売ってるとか。やる気は今のとこないけど。やかんくらいは買いに行くかもしれない。
「まぁな。ゆっくり眠れるのが、一番良い」
やっぱり恭は、雑魚寝が嫌だったんだな、と笑ってしまった。
「長く続くと思うか?」
問われ、
「二人で生活して行くしかないからな。今のとこ、恭以外を知らないから、何とも言えないな」
と答えた。
何と言っても、入寮したてなのだ。どんな奴がいたかも、知らない。何せ恭に再会した瞬間に、連れて来られているし。
「そうか」
静かな返事。
片付け中の部屋に、嫌に響いた。
恭自身、周りが離れて行くということを、気にしているのかもしれない。
「最初から三年間同室。っていう伝説を残すのも、悪くはないな」
笑いながら、軽い調子で言ってみる。
恭に忍耐を強いられ過ぎない限り……今のとこは感じてないけど。それか、恭が俺と同室が嫌だと言い出さない限り。きっと変わらずに、二人でこの部屋で過ごしている気がする。
「伝説?まぁ、今まで誰も出来なかったことを成し遂げれば、成り得るか」
苦笑を浮かべている恭。
恭自身が気にすることはない、俺はそう思う。
だって俺は、恭と話しをしていて、楽しいと思うのだから。
周りが離れて行ったとしても、俺は多分恭と一緒にいることを選ぶだろう。そう思える。
俺は、恭の性格を全てわかっているわけではないのだけれど。
それでも傍にいて、嫌な気分にはなったりしない。多少ムカッとしたりするかもしれないけど。それは、隠さず言えば、恭なりに直すだろうとも思えてる。
傍にいて、嫌じゃない。
それならば、伝説は成し得る。
何はともあれ、同室者に俺を選んでくれたことを、喜んで良いのだろう。きっと……。
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