稜蘭高校 ドタバタ日記

藤野 朔夜

文字の大きさ
上 下
6 / 40
歯車は廻り出す

しおりを挟む
「……まさか、同室になるとは」
「仕方ない。あの門抜けるのに、同室になっても良い人間と二人で、っていう文句が貼り付けて有ったんだから。しかも、あの門抜けるのに、霊能力者と超能力者、二人そろっていたら簡単に抜けれるだと?!わかってたら、あの時試したのに!!」
  割り当てられた部屋に着いて、ぼんやりと言った俺に、恭がまくしたてるように一気に答えた。
  恭の言うあの時とは、俺と会った一週間前のことだろう。
  知らなかったことを今更言っても、それこそ仕方ないことなんだが。
  恭とは、門前で再会した。
  挨拶もそこそこに問答無用とばかりに、俺は訳のわからないまま恭に連れて行かれた。
  恭曰く、
「寮が二人部屋だとわかった瞬間、お前以外なんぞ論外だった」
  らしい。
  相変わらずお前と呼んでくる恭に、俺はもう何も言う気はなくなっている。
  言うだけ無駄。というか、気が向いた時にでも名前を呼んでくれたらそれでいい、そう思うからだ。今二人しかいないから、恭の呼ぶ『お前』が誰を差しているのかはっきりわかる、というのも理由になるのかもしれない。
  こう思っている時点で、恭に対して俺は我慢をしていることになるのだろうか?
  俺は特別我慢しているとは思わないから、それで良いと思うことにする。
  名前と言うのは、個人を特定するのにとても大切な物だとは思っているけど。だからって、自分の考えを押し付けるのも、何か違う。
  で、寮の部屋なんだが。二人部屋だ。なおかつ、霊能力者と超能力者の組み合わせで。という変な規則は、ここに来るまでの間に、恭に教わった。
  そんでもって、相方は自分で探せ、というとんでもない物だった。
  卒業後、霊能力者と超能力者が組んで仕事をすることは、多いらしい。特殊能力を使った犯罪が、どちらか片方だけならば良いのだが、そうでないことが圧倒的に多いからだ。今のうちに組んで、相手との考え方の違いだったり、どんな力の使い方が有るのかをお互いに覚えて、対処法を知って行く。そういう狙いらしい。
  相方が決まれば、自動的に門から中に入れる。入ってしまえば登録ができ、今後はそんな面倒なことはしなくていいらしい。門を抜ける為に、霊能力者と常に一緒にいなくても良いということだ。恭の場合で言えば、門を抜けるのに常に超能力者と一緒でなくて良くなる、そういうことだ。
  寮の部屋は、空いている部屋の中から、良い部屋を取ることができるから、早くに決まった俺たちは、結構良い位置の部屋だ。そして、さっさと荷物が片付けられるのも、良いことだと思う。
  入寮日から入学式までの間が、二週間も有った理由が、よくわかった。
  一日で寮に入れなかった者は、夜になると仮入校が許される。男子は体育館、女子は武道館で雑魚寝になるのだが。
  荷物もそれぞれ、体育館や武道館に置かれているらしい。俺は本当に早くに決まったからか、寮監の人が荷物を持って来てくれたから、知らない。まだまだ決まる人は少ないから、と言ってた寮監さんは、優しそうな人だった。二人分の荷物を持って来てくれてしまうのだから、実際に優しいのだろうが。
  荷解きも出来ず、全く知らない人間と雑魚寝。恭は絶対に嫌がるだろうと、簡単に予想出来る。
  寮の部屋変えは、自由らしい。お互いの相方が許せば、簡単に変わることが出来る。三年間同室のまま、という者たちは、今の所いないらしい。
  そりゃそうだ。規則に則り、寮に入るだけの為に決めた相手と、相性が簡単に合うとは思えない。
  まったく、特殊学校って、能力だけじゃなくて、色々と特殊なんじゃなかろうか。
  そんな訳で、恭は俺を門の前で待っていてくれ、俺に選択権は与えず、さっさと二人で寮に入ったのである。待ち伏せされてたんだな、うん。
  恭の性格は、やっぱり相方が我慢するしかない、かもしれない。
  恭の相手を、我慢してるとか思わずに出来るのは、俺くらいなんだろうな、なんて思ってみたりする。
  これは、本人には言ったら駄目なことだけど。
  あれ、でも……「お前以外は論外」っていうのは、実は恭自身がわかってることなのか?周りが離れていくって言ってたし。
  そうは言っても、恭は相手のことを考えて行動する、っていうのは苦手そうだし。
  まぁ、だから「お前以外は論外」なんだろうな。
  俺は我慢してるとか、思ってないし。
「何を考えているのか知らないが、片付けをした方が良いんじゃないか?」
  恭に指摘され、ハッとなる。
  恭はすでに段ボールを数個開けている。
  たしかに、鞄やら段ボールやら、整理しないと生活が出来ない。
  二人部屋だし、片方の荷物が残ってる状態は、相手に申し訳ないものだ。
「あぁ、ごめん。早く部屋、決まって良かったな」
  しみじみと、そう思う。
  部屋が決まらず、荷解き出来ないままというのは、やっぱり嫌だ。
  早かったおかげで、位置も良いし。楽に食堂等に行ける場所というのは、本当にありがたい場所だと思う。
  一応自炊も出来るようにはなってるけど。俺は今のとこ、お茶を淹れるしか出来ないが。
  調理器具なんかは、寮にスーパー的なのが有って売ってるとか。やる気は今のとこないけど。やかんくらいは買いに行くかもしれない。
「まぁな。ゆっくり眠れるのが、一番良い」
  やっぱり恭は、雑魚寝が嫌だったんだな、と笑ってしまった。
「長く続くと思うか?」
  問われ、
「二人で生活して行くしかないからな。今のとこ、恭以外を知らないから、何とも言えないな」
  と答えた。
  何と言っても、入寮したてなのだ。どんな奴がいたかも、知らない。何せ恭に再会した瞬間に、連れて来られているし。
「そうか」
  静かな返事。
  片付け中の部屋に、嫌に響いた。
  恭自身、周りが離れて行くということを、気にしているのかもしれない。
「最初から三年間同室。っていう伝説を残すのも、悪くはないな」
  笑いながら、軽い調子で言ってみる。
  恭に忍耐を強いられ過ぎない限り……今のとこは感じてないけど。それか、恭が俺と同室が嫌だと言い出さない限り。きっと変わらずに、二人でこの部屋で過ごしている気がする。
「伝説?まぁ、今まで誰も出来なかったことを成し遂げれば、成り得るか」
  苦笑を浮かべている恭。
  恭自身が気にすることはない、俺はそう思う。
  だって俺は、恭と話しをしていて、楽しいと思うのだから。
  周りが離れて行ったとしても、俺は多分恭と一緒にいることを選ぶだろう。そう思える。
  俺は、恭の性格を全てわかっているわけではないのだけれど。
  それでも傍にいて、嫌な気分にはなったりしない。多少ムカッとしたりするかもしれないけど。それは、隠さず言えば、恭なりに直すだろうとも思えてる。
  傍にいて、嫌じゃない。
  それならば、伝説は成し得る。


  何はともあれ、同室者に俺を選んでくれたことを、喜んで良いのだろう。きっと……。


  そんな形で、俺と恭史郎の特殊高校生活は、始まるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

牛獣人はお世話係にモウモウ夢中!俺の極上ミルクは美味しいでしょ?

ミクリ21 (新)
BL
貴族に飼われている牛獣人アルベドは、良質な極上ミルクを出すためにお世話係は厳選されている。 アルベドのお世話係になったラーミアは、牛のお世話はしたことあっても牛獣人のお世話は初めてだった。 「僕は可愛い牛のお世話がしたかったのに、色気の溢れるイケメン牛獣人なんて求めてません!」 「まぁそう言わずに、一杯俺のミルク飲んでみなよ」 「な…なんて美味しいミルクなんだ!?」

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ダメですお義父さん! 妻が起きてしまいます……

周防
BL
居候は肩身が狭い

処理中です...