FULLMOON 番外編

藤野 朔夜

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アイリスとアジスタ

始まりの時

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「ねぇ、今、人を殺したの?」
  幼い少女の声だ。
  特に周りを気にしてはいなかった男は、少女へと振り返る。
  面倒ならば、この声の主も殺してしまえばいいのだ。
「あなたの力、みたいなの、知りたいの」
  少女は怯えてなどいなかった。
  怯えるどころか、知りたいと少女は男に言い出した。
  騒がれないなら、かまわないか、男はそう考える。
「女、名前は何と言う?」
  気付けば、男はそう声を発していた。
「アイリスと言うの。あなたが持っている力みたいなのを知りたいのよ」
  少女は名を答えて、さきほどもした質問を一息で再度言う。
  目的はそこなのだ、と。男に殺される可能性を、少女は考えていないようで。
  ただ男は面白そうに、片眉を上げてみせた。
「面白いな。退屈しのぎには良いかもしれん」
  そう言って、男は少女へと歩み寄る。
  殺す気は最初に騒がれなかった分、起きなかった。
  それよりも、面白いことを言う女だと、退屈しのぎにしてやろう、と。
「私の家族、見てくれる?」
  自分よりだいぶ背の高い男を見上げて、少女は問う。
  連れて行けと言うように、男は少女を促した。
「私は父がいらないの。弟を捨てようとしてるから」
  家への道を歩きながら、少女は時折男を見上げながら話す。
  男は意外なことに、少女の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてくれている。
  人間を殺していたけれど、そんなに悪い人じゃないのかしら。少女はそう考える。
  無口な男は、特に何も言わない。
「あそこが家よ」
  結構大きな家だ。
  その門から、一人の男が出て来た。
「あれが父。仕事もしないで、いつも家にいて。それで弟を捨てようとするの」
  少女が父と言った男は、酒の瓶を持って通りを歩いて行く。
「あれがいらない人間か」
  男は一言そう言って、次の瞬間には少女が父と言った人間の首が吹き飛んでいた。
  いらないのだから、いなくなれば良いのだろう、と男は考えて行動した。
「簡単に死んでしまうのね」
  少女は父の亡骸を見ても、そう言っただけで、哀しみの感情は浮かべていない。
「弟はね、離れにいるの。まだ小さいのに、母もあの子を嫌うのよ」
  そう言って、家の敷地内へと、少女は男を連れて行く。
  離れはこっち、と歩く少女の後を、男はゆっくりと歩いて行く。
  小さな少年が、庭の片隅にいた。
「あの子が弟なの。私には見えないモノが見えるみたい。それで母はあの子を嫌うのよ」
  今も少年は、片隅に座って何かとしゃべっているようにも見える。
  その少年が、男にはとても眩しい者に見えた。
  少年と話しているモノが、男には見えたけれど、特に気にしなかった。
「あれは、光だな。どこにいても、どんな時でも、光だ」
  男は少女に教える。
  少ない言葉だけれど、少女にはわかっただろうか。
「そう、あの子は光なのね。なら、大切にしなきゃ」
  少女はそう言って、男をまた見上げた。
「あなたは、光なの?それとも違うの?」
  少女は男にも興味を抱いたようだった。
  男は少し考える。
  少女の家族はとても面白そうだ。退屈しのぎには丁度良いだろう。
  何よりも、少女がここにいることで、自分が動きやすくなりそうではある。
「俺は光とは無縁のモノだ。人間でもない。それでも、俺を利用するか?」
  男は少女に問いかけた。
「違うわ。あなたを利用するんじゃないの。あなたが私を、利用したら良いの」
  少女は間髪入れずに答えた。
  これは面白い。男はますます楽しくなる。
  少女は利用されて良いのだと答えたのだ。自分は人間ではないと、言ったのに。
「ならば、私の気が変わらないうちに、契約をしよう」
  男はそう言って、小さな少女を抱き上げた。
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