魔王と勇者の珍道中

藤野 朔夜

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魔法を使う!

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 フワリと温かいものが、身体を巡った。
「これが魔力。ワタル、わかるかい?身体を巡ってるのが。覚えれる?」
「うん。すっごい温かい。わかる」
 フワリフワリと、身体を巡る力。そうか。これをしっかり覚えれば良いのか。
「うん。じゃあ手を離すからね。魔力を巡らせたままにしてみて」
 ええっと。むずい。イシュさんの手が離れたら、俺自身の魔力を辿るのだけでせいいっぱいだ。
 俺こんなんで、魔法使えるの?
「うん。そうそう。ゆっくりで良いよ。ゆっくりと、手に魔力を溜めてごらん」
 出来てるのかな。
 って、無理。そんなの、え。手に溜めるの?
 イシュさんが繋いでてくれた左手に、集中して温かいのを溜めようとするんだけど。他を辿る間に、手に溜めたはずの魔力も流れてしまって。
 うわー、これじゃ、俺全然魔法使えないんじゃない?
「ふふ。力を抜いてごらん。ワタルは魔力量が多いから、ほんの少し溜めるだけで良いんだよ。ゆっくりね」
 イシュさんの笑い声で、俺の身体をガチガチに固めてた力が抜けた。
「そうそう、ゆっくり溜めれてきたね。その調子」
 褒められると喜ぶ俺は、本当に子どもだけれど。
 初めて扱う魔力を、しっかり扱えたんだから、嬉しいのは当たり前だと思う。
「そのまま、ゆっくりと探したい薬草を、頭の中に思い浮かべて、出来るかな?」
 魔力に集中してしまってるから、そんな難しいこと、無理です!
 はっきりきっぱり言い切りたいけど、言葉を発するのさえ無理!
「おやおや。魔力を辿るだけでいっぱいかな。うん。じゃあここまでにしよう。ワタル、地の精霊にお願いしてごらん。薬草の種類と、枚数ね」
 うう、結局魔法じゃなくて、精霊頼りって、俺本当にダメダメじゃん。
「魔力を分けてお願いするんだよ。左手に溜めてた魔力をわけて……」
 魔力をわける?
 それは一応魔法の類に入るって認識して良いのかな。今までは、魔力をわけるなんてしてこなかったけど。あれ?
「ええーと。傷薬の薬草が四十枚欲しいんだ。えっと、魔力渡ってる?」
 目の前に現れた精霊の数、多数。数え切れません!
 っていうか、皆に持って来てもらったら、軽く四十以上になる。
 この中の地の精霊って、俺は区別出来ないんだけど。
「欲しいのは、四十枚だからね。それ以上はいらないから。そうだねぇ、ワタルの魔力量が多いのと、精霊の加護が有るから、集まるのは多かったけれど。大丈夫だよ。精霊は、必要以上は摘まないからね」
 イシュさんに言われて、ホッとする。それに、地の精霊自身が、俺の魔力持って行ってくれのだろう。
 でも、これ俺は魔法使えて無いよね。残念だ。
「一応精霊に頼むのも、精霊魔法になるんだよ。だからこれは、ワタルの初めての魔法だね。心配しなくてもゆっくりと覚えれば、精霊魔法以外の魔法も出来る様になるよ」
「精霊、魔法……なんだ」
 今までは魔力渡してなかったけれど。
 でも今だって、渡した様に感じない。普通は、魔力減ったって、わかるものなんじゃないの?あー、でもさんざん魔力量が多いと言われているから、気付かないくらいの少しの量しか渡せてないってこと?
 それだと、精霊動くの嫌がるんじゃ?加護が有るから、動いてくれるんだろうか?
「そうだよ。大丈夫。ワタルの魔力もらった精霊だけが、動いたからね。でもすぐに魔力を身体に巡らすことが出来た上に、精霊にしっかりと頼みごと出来るだけの魔力を溜めれたのは、すごいね。頑張ったよ、ワタル」
 褒められても、今一わかってない俺だけど。
 いつも一緒に居てくれる精霊さえも、うんうんと頷いているから、出来てるってことなんだよね。
 うん。いきなり大きな魔法がポーンと出来るわけが無いんだし。これはこれで、精霊にお願いの仕方がわかったから、良いんだ。精霊魔法覚えるのって、これから先も絶対に役に立つだろうし。だって、いつも俺にもイシュさんにも精霊は付いててくれるんだから。
 なんか、いつも一緒に居てくれる精霊、俺はお願いに魔力渡したことなんか無かったけど。あれ?イシュさんがやってた?
 そこんとこも、わかんないんだよね。
 イシュさんとさっき手を繋ぐまで、イシュさんの魔力を感知してなかったんだ、と気付いたのは今だ。
 俺こんなんで、大丈夫なわけ?
『普通なら、精霊に頼むのもそれなりの言葉が要るのだがな。ワタルは我らを観ることができているから、気にしなや。人族の多い場では出来んがの』
 ふ、普通に出来ない魔法じゃ、駄目だと思う。
 いや、でもそんな魔法を必要とすることも無いのかな?あれ?これまで魔法を必要として来て無いよな?ん?あれ?
「普段なら、その辺にいる精霊に、心で強く願えば叶えてもらえるよ。心配しなくても、ワタルは魔法使える様になるから、大丈夫」
『そうね、そうね。ワタルの傍に居るだけでも、心地良いから、大丈夫、大丈夫』
 えと、それは、これから先も精霊に頼り切った状態で、大丈夫ってこと?
 それ駄目なんじゃ……。
「焦っても、駄目だよな。うん。大丈夫。これからも、面倒かけまくると思うけど」
「気にしなくて良いんだよ。ワタルは、ゆっくりこの世界に慣れてくれれば良いのだから。魔法も同じ様に、ゆっくり使える様にしていこうね」
 うんと、頷くけど。
 ゆっくり、か。とも思う。
 俺、自分が魔法使えるんなら、自力で元の世界に戻れるんじゃないかなーとか、思ってた。まぁ、時間がかかっても、使えるんなら使える様に、頑張るしかないよな。
『ワタル、ワタル』
『四十枚、数えて』
 採りに行ってくれた精霊が戻って来て、俺に薬草を渡してくれる。
 大きな葉を、探してくれたのか。すべてが色つや良く、綺麗な葉っぱだった。しばらく採取できなかったし、うまく育ったのかな。
「四十枚有るけど、こんなにしっかり育ったのもらって良いの?」
『大きい葉っぱ、これ以上育たない。小さい葉っぱは、まだ育つの』
『私たち、葉っぱ、要らない。育つ、力、欲しい』
「育つ力はこの森の生命になるんだよ。それはこの森に生まれた生命の木の源にもなるっていうこと。だから、育ち切った葉っぱを、冒険者も採取するんだよね。だから、それくらいの葉っぱが普通だね」
 精霊たちと、イシュさんに説明される。精霊は、薬草を必要としないから、葉っぱは要らないんだろうな。
 なるほど。生きる力っていうのが、今のこの森には必要なものなんだ。
「ありがとう。それじゃあ、ギルドに戻って、ちゃんと報告するよ」
 報告はしっかりと、だよな。
 生命の木が有るからってのと、薬草をもらう時の精霊との約束。
 ギルドマスターさんなら、しっかりした冒険者とか知っていそうだし。ちゃんと対処してもらえるよね。
「さぁ、帰ろうか」
 俺がしっかりと精霊にお礼を言った後、イシュさんはまた俺と手を繋ぐ。
 子どもじゃないんだけど……でも、たしかにあの人通りの多い場所は、困るかも。
 慌てて薬草をしまおうとして、さっき精霊にもらったのと、一緒になってしまうと気付く。気付いたイシュさんが、俺の持つ依頼分の薬草が入る袋をアイテムボックスから出してくれた。
「これから、依頼とか受けること有るなら、俺もこういう袋買うべき?」
「ふふ。必要ないよ。俺が何個もに持っているからね。ギルドで依頼受けるのも、ワタルがここに居るって知らせそうだから、あまり王都に近い場所では受けない様にしたいんだよね。今回は、面倒なことが起こっていそうだったし、仕方ないかなぁと思って受けたけれど」
 そっか、しばらくはこうして依頼を受けたりしないんだ。
「でも俺、王都で名前も聞かれて無かったから、バレないと思う」
 名前を聞いてくれたのは、イシュさんが初めてだったんだ。
 この世界で俺の名前を知っているのは、イシュさんと一緒に居てくれる精霊と、それからこの街のギルドマスターだけだ。
「ワタルの名前の響きがね。この世界では珍しいから。危ないと思うことはしない様にしないと」
 あぁ、そうか。
 俺この国の王様に、殺されそうになってるんだった。
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