魔王と勇者の珍道中

藤野 朔夜

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ギルドからの依頼

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「さて、と。旅をしながら、ワタルには魔力の扱い方を覚えてもらおうかな。あんまり王都に近い街に居続けるのは、避けたいからね」
「おう、そうだな。っと、これが外套の買取額な。財布に出来る袋がこれで三つになっただろうから、銅貨と銀貨と金貨で分けて入れときな。あんまり金貨は使うなよ。金持ちだと思った馬鹿な奴らに狙われかねねぇからな」
 銅貨十枚で銀貨、銀貨十枚で金貨。だから、そんなに出回らないというわけでは無いと、俺は思っていたけれど。
「あのね、だいたいの街では、一食分が銅貨五枚で足りるんだよ。だから、金貨を持ってる人は、あんまり居ないかな。あぁ、そうだ。ワタルの口座をギルドに作ってしまおう。金貨は預けておけば良い。どこのギルドでも預けた分は渡してもらえるから。そうだね。必要になったら、銅貨や銀貨でもらえば良いかな」
 お金を分けてた俺は驚いて、イシュさんを見た。
 どおりで、道具屋さんも、このギルドでもほとんどが銅貨や銀貨でくれたわけだ。
 金貨も有ったけど。
「そうだな。それが良いかもしれん。そうするなら、なるべく少ない通貨を入れとく財布を作ったら良いだろうな。銅貨だろうが、ジャラジャラ出してりゃ、狙われるな」
 ね、狙われるのは、今の俺じゃイシュさんに迷惑かけるだけだから、遠慮したい。
「冒険者登録の銀貨三枚って、高いんだね」
 そうなるよね。イシュさん誰でもなれるって言ってたけど。
 ある程度、お金貯めないとなれないよなぁ。
「あぁ、それか。それはギルドが建て替えもするからなぁ。しばらくはギルド内で働いてもらったりして。で、独り立ちするって奴らも多い。で、だ。ギルドに預けるように口座作るにゃ、また登録料がかかっちまうんだが。まぁ、その制度はだいたい冒険者として稼げるようになった奴を対象にしてるからな。銀貨一枚と、金貨を預かるぞ。あと、冒険者証も、預かるからな」
 そう言って、サッと手に取ったギルドマスターさんは、俺が冒険者証を渡したら、再度部屋から離れて行った。
 冒険者証は、銀行のカードみたいな活用法も有るってことになるのかな。ギルドが銀行って思えば、そういうことだよな。
 それはそうと、財布に入れる金額を考えてしまう。
 銀貨は一枚くらいは入れとこう。そんで、銅貨は十枚。
 残りの銅貨と銀貨はそれぞれ別の袋に入れて、アイテムボックスの奥に。手前には少ない分の財布。
 これで良いかな?とイシュさんを見たら。
「ワタルはさすが、知力AAだね。言われなくても、色々と考えられるのは、すごいことだよ」
 こんな些細なことでも、褒められれば嬉しいもので。
 俺は現金なことにニコニコしてしまう。
「登録済んだぞー。ついでにFランクの冒険者用の仕事、受けねぇか?簡単な魔法なら、覚えれるし、魔力操作も出来る様になるだろ」
 早々と戻って来たギルドマスターさんは、一枚の依頼書を持っていた。
「王都の街から、早めに遠くへ行きたい俺たちに、そんな依頼書を持って来るとは」
「まぁまぁ。イシュバールのお願いこっちは聞いたんだ。多少はこっちの願いも聞けよ。簡単な薬草採取だ。すぐ終わるだろ。それにワタルもいつまでも精霊任せにしとけないだろ。魔力量」
 ええ?と思ってたら、イシュさんは難色を示した。
 そうだよね。王都に近い街に居続けるのは避けたいってさっき言ってたし。俺はギルドマスターさんは、それには同意してたと思ったんだけど。
「冒険者ランク最上級のお前が一緒なんだ。魔法初心者のワタルでも、一時間もかからんだろ。すぐそこで採取だからな」
 意外とギルドマスターさんは、強引だった。
「そういう依頼なら、誰でも受けるでしょ?わざわざ俺たちに持って来たのは、他に何か有るんじゃあないのかな?」
 イシュさんは真剣な目をしていた。
 え、何か有るって、怖いんだけど。
「あー、まぁ、な。この薬草、前までは普通に見付かってたんだが、最近見付けにくくてな。ランクFじゃ無理なんじゃねぇか、って話が出るほどだ。でもこれは傷薬にかなり使う薬草でな。定期的に採取依頼をギルドが出すんだが。……ここんとこ、見付けにくいってんで、ランクが上の冒険者も受けてくれやしねぇんだ。けど、薬が無くなるのはこっちも困るからな。ランクがFでこの報酬じゃ駄目だってことなら、見直さなきゃならんのだが、俺も書類やらなんやらの仕事のせいで見に行けねぇんだわ」
 だから、頼まれてくれないか、とギルドマスターさんに頭を下げられてしまう。
 イシュさんは、深ーいため息を一つ。
「面倒なことを。まぁ、色々俺にこの国の王都の話を持って来たりしてくれてるからね。仕方がないなぁ。この薬草採取依頼は、ワタルが受けるってことで、ギルドの処理をしておいてくれるかな。ワタル、少しだけ寄り道をすることになるけれど、良いかな?」
 ギルドマスターさんが、イシュさんに王都の話をしてくれたから、俺はイシュさんに出会えたのかな?そう思ったら、その依頼を断ることは出来ないと俺も思ったから。
「良いよ。大丈夫。俺も魔法、少しは出来るようになるんなら、その方が嬉しいし」
 さっき、ギルドマスターさんが、簡単な魔法なら覚えれるって言ってたから、俺はそれが気になってたんだ。イシュさんが旅しながら教えてくれるんだろうけど。少しでもレベルアップしたいじゃん。
 魔力量だけ最強でも、意味が無い。扱えて初めて意味が有るよな、うん。
「助かる!本当に、Fランクで駄目な依頼になってんなら、報酬は上乗せする」
 そう言うギルドマスターさんに見送られて、ギルドの建物を俺とイシュさんは後にした。
 ちゃんと俺もイシュさんも、フードを目深に被ってる。
 そうしないと、目立つっていうのは、よくわかる。
 さっきまでは、そんな余裕無かったくせに、イシュさんが隣に居るだけで、俺は周りを見る余裕が出来てる。普通なのは、茶色の色みたい。この国の王様みたいな金も居ないことはないけど。黒髪は、本当に居ない。
『こっち、こっち』
 優しい精霊が、薬草の有る場所まで案内してくれるみたい。
 イシュさんも場所はわかってるんだろうけど。
「ふふ、ワタルとはぐれても、すぐに精霊に居場所を教えてもらえそうだ。だけど、心配だから」
 人混みの多い場所で繋がれた手。
 フードで顔は見えないだろうけど、体格で男とわかるだろう二人が手を繋いでるのも……。とか思ったけど。イシュさんの優しい手を、振り払うなんて出来るわけがない。
「あぁ、見えてきたね」
 人混みが無くなっても、手はそのままに。
 森林が見えて来た。
「あの森で、薬草を探すの?」
 森の中なんだ。なかなか見付からなくても、それは仕方がない気がする。
「そうだよ。あの森にはあまり魔物も居ないから。だからランクFの冒険者は、修行場にもしてるくらいの森なんだよ」
「それって、俺も修行にピッタリってことじゃん」
 俺もなりたて、ランクFだもんね。
「ワタルは、今は魔力量を精霊に抑えてもらってるけれどね。魔力が操れる様になったら、少しずつ解放して行こうね」
 コクコク頷いて、俺は森へ入って行くイシュさんに続く。
「うわー。森の中すごい綺麗」
 キラキラと輝いているのは、精霊がたくさん居るからだ。
「おやまぁ。これは。前に来た時より、精霊が多いね。何か変わったことでも有ったかな?」
 精霊にツンツンと外套を引っ張られる。
「こっち?何か有るの?」
 連れて行かれるまま、行っても良いかと、イシュさんを見上げる。
「何か有るなら、行ってみようか」
 そうイシュさんがが言ったので、俺は精霊に連れられるまま、歩くことにした。
 あれ、俺魔力操作をしてみようって来たはず、だったんだけど。
 精霊が連れて行きたい場所へ行った後でも、それは出来るから良いか。
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