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第一章
第一章・序話
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暗い、暗い。冷たい海底のようで、けれどなぜか暖かみを感じる、不思議な空間に私はいた。前も後ろもわからず、ただそこに、呆然と立っている。
ふと、視界が開けた。頭上では繊細で神秘的な模様が生み出されていて、その編み目の隙間から陽光が差し込む。藍色に包まれた世界の中私が立っていたのは、光を吸い尽くした黒曜石の上だった。そして私の前には、白藍に輝く『何か』がいた。『何か』は私にむけて、まるで縋るような、そして物悲しげなヴァイオリンの音色を響かせた。
──エ──ス、マッテイ──ワタ──ズット──ッテイ──
ジリリリッ。けたたましくベルの音がなる。掛け布団の中で両耳を塞いでみるが、鼓膜を突き抜けて脳内で反響する音は、一向に減衰する気配がない。仕方なく掛け布団から這い出て、手を伸ばし、ベッドボードの上でやかましく騒ぐ元凶の頭に手のひらを振り下ろす。ガシャンッ──静寂が訪れた。
「……チッ、またあの夢……」
低血圧に抗いながら、私ことエルピスは上半身を起こした。ついでに腕を上げて背中を伸ばす。睡眠中に凝り固まった筋肉に血が巡る感覚に、少しばかり目が覚めてきた。壁に掛けられたカレンダーを確認する。今日は月曜日だ。
「……起きるしかないのか」
そばかす顔を忌々しげに歪めてベッドから這いずり出ると、窓際まで移動した。途中、ベッドボードの上のぶっ壊れた目覚まし時計の哀れな姿は見ないフリを決め込む。
私は上げ下げ窓を開いた。窓の向こうの世界では、住宅地や市街地の向こう側にある青い海が、陽光を反射して白く煌めいている。心が躍るような景色だ。夢見が悪く、気分は最悪だが。
潮の香りを乗せた風が、私の肩につくくらいの長さの髪を弄ぶ。乱れた髪をそのままに窓べりに両手をつく。
「さあて、今日も稼ぎますか」
少女にしては少し低めの声が、風に乗って羽ばたいた。
ふと、視界が開けた。頭上では繊細で神秘的な模様が生み出されていて、その編み目の隙間から陽光が差し込む。藍色に包まれた世界の中私が立っていたのは、光を吸い尽くした黒曜石の上だった。そして私の前には、白藍に輝く『何か』がいた。『何か』は私にむけて、まるで縋るような、そして物悲しげなヴァイオリンの音色を響かせた。
──エ──ス、マッテイ──ワタ──ズット──ッテイ──
ジリリリッ。けたたましくベルの音がなる。掛け布団の中で両耳を塞いでみるが、鼓膜を突き抜けて脳内で反響する音は、一向に減衰する気配がない。仕方なく掛け布団から這い出て、手を伸ばし、ベッドボードの上でやかましく騒ぐ元凶の頭に手のひらを振り下ろす。ガシャンッ──静寂が訪れた。
「……チッ、またあの夢……」
低血圧に抗いながら、私ことエルピスは上半身を起こした。ついでに腕を上げて背中を伸ばす。睡眠中に凝り固まった筋肉に血が巡る感覚に、少しばかり目が覚めてきた。壁に掛けられたカレンダーを確認する。今日は月曜日だ。
「……起きるしかないのか」
そばかす顔を忌々しげに歪めてベッドから這いずり出ると、窓際まで移動した。途中、ベッドボードの上のぶっ壊れた目覚まし時計の哀れな姿は見ないフリを決め込む。
私は上げ下げ窓を開いた。窓の向こうの世界では、住宅地や市街地の向こう側にある青い海が、陽光を反射して白く煌めいている。心が躍るような景色だ。夢見が悪く、気分は最悪だが。
潮の香りを乗せた風が、私の肩につくくらいの長さの髪を弄ぶ。乱れた髪をそのままに窓べりに両手をつく。
「さあて、今日も稼ぎますか」
少女にしては少し低めの声が、風に乗って羽ばたいた。
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