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本編
彼の心が離れたと気付いたのはどうしてだろう?
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彼の心が離れたと気付いたのはどうしてだろう?
忙しいからと連絡が取れにくくなったから?
他の女の子と一緒にいることが増えたから?
私と友也は同じ中学だった。
いくつもの中学から生徒が進学してくる高校で、中学からの知り合いだからと友也と仲良くしているうちに付き合うようになった。前の学校の同級生が同じクラスにいなくても、他クラスに行けばほとんどいた中学とは違って、更に違う道を歩んでいく寂しさと心細さが私たちを結び付けていたと思う。
心寂しさと、もてあましている性の衝動。それに多少の彼氏彼女への憧れ。
これだけだったら、簡単な話だと思う。
テレビでゴールデンタイムに垂れ流しにされるラブシーン。ラブシーンの気恥ずかしさから赤くなったけど、見ていないふりをしながらチラチラと見てしまう。
ラブシーンに気付くとチャンネルを変えるか、違う話題を振ってくる親。それが大人料金を払わされるようになったのに子ども扱いされているような鬱屈感からの反抗心を煽った。
同じ時期に付き合い出したカップルとの競争や、先輩カップルたちの姿に憧れて、気が付いたら段階が次々と進んで行っていた。
テレビのゴールデンタイムのラブシーンではいつの間にか赤くならなくなっていた。
深夜のドラマでも平気になっていた。
放送倫理って大変なのね、と苦笑いしながら見ている自分がいた。
時にはAV紛いの番組もあって、よく放送できると感心するようになっていた。
全部、過去形。
付き合うようになって三年目、友也はテニス部の部長を務め、部員たちを弟のように可愛がっていたし、部員たちの彼女もその頃は自由に出入りしていて、友也はその相談事にものっていた。
みんなが友也を慕い、友也もみんなを可愛がっていて、テニス部は一つの家族のようだった。
私の知っているテニス部はいつも家族だった、この三年間。
ストレッチや基礎練習も終わり、試合形式での練習が始まるとコートの外で待つ者も出てくる。
テニスの実力よりも人柄で選ばれた友也は、才能のある後輩を育てることが好きだ。少しでも長く後輩たちが試合形式での練習ができるようにと譲っているから、部長になってから友也は試合形式での練習で選手としてコートに入ることはなくなった。
彼はそういう人だ。
私は最近、心あらずといった友也を心配して、話をしようとコートを囲むネットの外の見学者や部員たちの彼女を避けて部室に向かう彼を追う。
自分の才能をわかっている友也はそれまでの部長が副部長に任せていた書類仕事も自分で行っている。自分が参加しない試合形式での練習の時間はそれにあてているから、私もその時間に二人きりで話すのを選んだ。
本当は心あらずなんて状態だけじゃない。
友也は今年入学してきてレギュラーになった夏川くんの彼女と一緒にいることが多くなった。その彼女が友也に対して馴れ馴れしいと、私は他の部員たちやその彼女から苦情を言われている。
彼らからしてみれば友也の彼女は私であって、真理ちゃんではない。
ましてや、真理ちゃんは一年の部員の彼女だ。
友也がみんなの兄だと慕われているように、私は友也の彼女として姉のように慕われている。そんな私という人物がいるにもかかわらず、部長である友也の彼女のように振る舞い始めた真理ちゃんに反感を抱かないはずがない。
でも、話し合いなんか持とうなんて考えは甘かった。
友也に遅れて、テニス部の部室として使われている建物に着いた私は声をかける前に、中から聞こえてくる物音で動けなくなった。
知っている男女の声にリップ音と荒い息遣い。
「真理」
かつては私に向けて言われた懐かしい声が他の女の名を呼ぶ。
動けなくなった私の扉の向こうの神聖な部室でこともあろうに友也と真理ちゃんは始めてしまった。
どれくらい時間が経ったのか。
部室が静かになった頃、私はようやく動けるようになって、急いでその場を離れた。
彼氏の浮気現場を聞いてしなうなんて。
まだ遅くないどころか、もう遅すぎた。
会ってまだ二ヵ月もたっていない二人がこうなっているなんて、想像できなかった。
だって、二人とも別の恋人がいるのに。
どうして?
どうして、こうなったの?
そりゃあ、真理ちゃんのほうが私より可愛いし、可愛げもある。
何年も付き合ってきたせいか、私たちはお互いにわかりあって甘さが抜けた関係になってきたけど。
だけど、これはない。
私たちまだ付き合ってるんだよ?
ねえ、どうして?
どうして、私と別れてからじゃなかったの?
ねえ? ねえ?
私の中で答えは出ない。
浮気を知ったばかりの私に出るはずもない。
私は・・・その時まともじゃなかった。
まともじゃなかったとしか思えない。
だから、思いついたに違いない。
真理ちゃんの彼氏・夏川くんをNTってやろうと。
忙しいからと連絡が取れにくくなったから?
他の女の子と一緒にいることが増えたから?
私と友也は同じ中学だった。
いくつもの中学から生徒が進学してくる高校で、中学からの知り合いだからと友也と仲良くしているうちに付き合うようになった。前の学校の同級生が同じクラスにいなくても、他クラスに行けばほとんどいた中学とは違って、更に違う道を歩んでいく寂しさと心細さが私たちを結び付けていたと思う。
心寂しさと、もてあましている性の衝動。それに多少の彼氏彼女への憧れ。
これだけだったら、簡単な話だと思う。
テレビでゴールデンタイムに垂れ流しにされるラブシーン。ラブシーンの気恥ずかしさから赤くなったけど、見ていないふりをしながらチラチラと見てしまう。
ラブシーンに気付くとチャンネルを変えるか、違う話題を振ってくる親。それが大人料金を払わされるようになったのに子ども扱いされているような鬱屈感からの反抗心を煽った。
同じ時期に付き合い出したカップルとの競争や、先輩カップルたちの姿に憧れて、気が付いたら段階が次々と進んで行っていた。
テレビのゴールデンタイムのラブシーンではいつの間にか赤くならなくなっていた。
深夜のドラマでも平気になっていた。
放送倫理って大変なのね、と苦笑いしながら見ている自分がいた。
時にはAV紛いの番組もあって、よく放送できると感心するようになっていた。
全部、過去形。
付き合うようになって三年目、友也はテニス部の部長を務め、部員たちを弟のように可愛がっていたし、部員たちの彼女もその頃は自由に出入りしていて、友也はその相談事にものっていた。
みんなが友也を慕い、友也もみんなを可愛がっていて、テニス部は一つの家族のようだった。
私の知っているテニス部はいつも家族だった、この三年間。
ストレッチや基礎練習も終わり、試合形式での練習が始まるとコートの外で待つ者も出てくる。
テニスの実力よりも人柄で選ばれた友也は、才能のある後輩を育てることが好きだ。少しでも長く後輩たちが試合形式での練習ができるようにと譲っているから、部長になってから友也は試合形式での練習で選手としてコートに入ることはなくなった。
彼はそういう人だ。
私は最近、心あらずといった友也を心配して、話をしようとコートを囲むネットの外の見学者や部員たちの彼女を避けて部室に向かう彼を追う。
自分の才能をわかっている友也はそれまでの部長が副部長に任せていた書類仕事も自分で行っている。自分が参加しない試合形式での練習の時間はそれにあてているから、私もその時間に二人きりで話すのを選んだ。
本当は心あらずなんて状態だけじゃない。
友也は今年入学してきてレギュラーになった夏川くんの彼女と一緒にいることが多くなった。その彼女が友也に対して馴れ馴れしいと、私は他の部員たちやその彼女から苦情を言われている。
彼らからしてみれば友也の彼女は私であって、真理ちゃんではない。
ましてや、真理ちゃんは一年の部員の彼女だ。
友也がみんなの兄だと慕われているように、私は友也の彼女として姉のように慕われている。そんな私という人物がいるにもかかわらず、部長である友也の彼女のように振る舞い始めた真理ちゃんに反感を抱かないはずがない。
でも、話し合いなんか持とうなんて考えは甘かった。
友也に遅れて、テニス部の部室として使われている建物に着いた私は声をかける前に、中から聞こえてくる物音で動けなくなった。
知っている男女の声にリップ音と荒い息遣い。
「真理」
かつては私に向けて言われた懐かしい声が他の女の名を呼ぶ。
動けなくなった私の扉の向こうの神聖な部室でこともあろうに友也と真理ちゃんは始めてしまった。
どれくらい時間が経ったのか。
部室が静かになった頃、私はようやく動けるようになって、急いでその場を離れた。
彼氏の浮気現場を聞いてしなうなんて。
まだ遅くないどころか、もう遅すぎた。
会ってまだ二ヵ月もたっていない二人がこうなっているなんて、想像できなかった。
だって、二人とも別の恋人がいるのに。
どうして?
どうして、こうなったの?
そりゃあ、真理ちゃんのほうが私より可愛いし、可愛げもある。
何年も付き合ってきたせいか、私たちはお互いにわかりあって甘さが抜けた関係になってきたけど。
だけど、これはない。
私たちまだ付き合ってるんだよ?
ねえ、どうして?
どうして、私と別れてからじゃなかったの?
ねえ? ねえ?
私の中で答えは出ない。
浮気を知ったばかりの私に出るはずもない。
私は・・・その時まともじゃなかった。
まともじゃなかったとしか思えない。
だから、思いついたに違いない。
真理ちゃんの彼氏・夏川くんをNTってやろうと。
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