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アライアス

お茶会に不憫系悪役令嬢たちを招待しよう

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 イオン卿が同じ年頃の令嬢を招いたお茶会に誰を呼ぶのか聞いてきたので、このチャンスに胡乱な目付きになってしまう些細なことは置いておくことにした。
 だって、てっきり、他の不憫系悪役令嬢とはウォルトに手紙を渡してもらって、どうにか知り合うしかないと思っていたんだよ。
 だから、直接会えるのは学校に通ってからだと思ったのに、イオン卿が招いてくれるというこの事態は好都合。

『かげろう狂詩曲(ラプソディー)~蝶は檻の中~』の悪役令嬢は6人。
 一人目は私、リーンネット・ハルスタッド。
 二人目はお兄様とキャッキャウフフのヒルデガルド・ローゼンバーグ侯爵令嬢。
 三人目は巨乳、垂れ目のおっとり担当ラモーナ。
 四人目は社交界の華であるグリゼルダ。
 五人目はじゃじゃ馬イモジェン。
 六人目は委員長な才女アグネス。

 この6人が揃うお茶会かあ。
 なんか面白そう。
 悪役令嬢と言っても陥れられる6人だから、悪だくみしているようには見えないだろうし。
 それに、ゲームだとそれぞれの攻略対象者のイベントでしか彼女たちは出て来ないから、この6人の交流はあるのかないのかわからない。
 でも、ゲームのリーンネットも学校に通うということで貴族教育を受けたのなら、他の不憫系悪役令嬢とお茶会で交流を持ってから学校に通ったかもしれない。

 ゲームで悪役令嬢たちは退場後ぐらいしか描かれていないから、このあたりは想像するしかないのがきつい。

 よし。ゲームでどうだったかわからないけど、他の不憫系悪役令嬢とお茶会してやる。
 仲良くなって、みんなで悪役令嬢にされるのを回避するんだ。
 私より才女アグネスのほうが偽シルヴィアに対抗できるだけの頭脳だってあるしね。

 そうと決まったら、みんなで悪役令嬢を回避しようの会を開く為にも、イオン卿に彼女たちを呼んで貰わないと。

「まずはヒルデガルド・ローゼンバーグ侯爵令嬢」
「それは無理ですね」

 一人目の名前を私が張り切って挙げたら、次の瞬間にはイオン卿に却下された。

「え?」

 駄目なの?

「ローゼンバーグ侯爵令嬢は高位貴族です。レディ・リーンネットも王子たちとの交流に呼ばれていれば、顔見知りということで来てくれたかもしれませんが、親しくもない相手で、ましてやまだまだマナーの指導を受けなければいけない令嬢からのお茶会に招くのは失礼です」
「・・・」

 王子たちとの交流って、この前の外出が初めての外出だったんですけど・・・。
 でも、第三王子の顔はゲーム以外でも知ってるし。
 お菓子屋で会ったのも、交流と言えば交流じゃないかな?

「オルコット王子に髪を引っ張られたのは・・・?」

 気を取り直して、私はお菓子屋での出来事を挙げてみる。
 お忍びだったけど、あれはオルコット王子に間違いなかったし。

「髪を引っ張られた? ハルスタッド伯爵家のあなたがどうしてオルコット王子と? 王子たちの妃候補として招かれるのは、ハルスタッド伯爵家以外の令嬢だけですが?」
「ええ? 妃候補として招かれないと駄目なんですか?」

 王子たちとの交流って、妃候補として招かれるってことなの?!

 ない、ない。
 悪役令嬢の階段一直線。偽シルヴィアに陥れるのを皿の上に乗って待っている状態になりかかるじゃない。

「妃候補にふさわしいマナーと教養を身に付けた令嬢以外に王子たちの貴重な時間を割いてまで会わせる価値のある令嬢は、他国の王族ぐらいです」
「・・・」

 無理。無理だから。今のマナー教育だけで私、無理だから。
 これを完璧にして、王子たちと交流できる令嬢たちが妃候補になるのもわかる。それくらい大変。
 他国の王族ぐらいじゃないとマナー違反は許されないって言うなら、私がローゼンバーグ侯爵令嬢を招けないのも納得できる。
 だって、今の私とローゼンバーグ侯爵令嬢じゃあ、比べものにならない。
 貴族のマナーの初心者と王子様の妃候補だよ?
 無理だ。
 ローゼンバーグ侯爵令嬢を呼べない。

「お茶会ではマナーがなっていない主催者が自分より身分が低ければ帰ってしまうことも許されていますし、逆に招かれたほうにマナーがなっていなければそちらが主催者に帰されることもあります。ですから、ローゼンバーグ侯爵令嬢は諦めてください」
「・・・」

 私がマナーを間違えてローゼンバーグ侯爵令嬢が帰っちゃうかもしれないってことを念押された。

 ローゼンバーグ侯爵令嬢は諦めるしかないのか。

 せっかく、お兄様とキャッキャウフフの秘訣を聞こうと思ったのに。
 オスカーがヤンデレになっちゃったから、それをどうにかシスコンに戻したかったのに。

「ところで、オルコット王子に髪を引っ張られたのは?」

 忘れてなかったか。
 物腰柔らかなのになんか怖いからイオン卿にはついつい答えてしまう。

「お菓子屋で偶然出会って、髪を引っ張られて、”カツラ”がとれちゃったんです」
「『とれてしまったんです』。それは交流とは言わないでしょう。ああ。だから、オルコット王子がオスカー・ハルスタッドを追いかけまわしていたんですか」

 一人納得するイオン卿。

「? オスカーがオルコット王子に追いかけまわされている?」

 どんな事態だ?

「ええ。ハルスタッド伯爵家の令嬢を目にしたのなら、仕方ありませんか」
「なんで仕方ないんですか?」
「オルコット王子が王女たち以外にハルスタッド伯爵家の特徴を持つ少女を見たのは初めてのようですから、気になったに違いないでしょう」

 王女がハルスタッド一族の特徴を持ってる?!

 その一言が気になった。

 姉たちの嫁ぎ先は知らないし、アイリーンたちも本家の娘の嫁ぎ先が一族以外だって言ってたけど、もしかしてその王女の母親って、私の姉の一人?
 それとも叔母?

「なんで、王女たちがハルスタッドの特徴を持っているんですか?」
「ハルスタッド伯爵家の令嬢は王族の側妃なんです。その側妃から生まれた王女もハルスタッドの特徴を持っていてもおかしくないでしょう?」

 里帰りしてきた姉は嫁に行った先のことを教えてくれなかったけど、王族の側妃?!

「もしかして、ローズマリーは王女様?!」
「ええ。そうです」
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