上 下
30 / 46
アライアス

オスカーは・・・大物です

しおりを挟む
 第三王子と出会ってしまって、ゲームの強制力を感じている私は更に信じられない出来事に遭遇する。
 それはオスカー。

「リーンネット。焼き菓子はいらないの? それなら、ケーキコーナーに行こう」

 第二王子の側近候補として見知っているはずの第三王子を無視している。正確には無視していた。見知らぬ人物扱いして、買い物をし始めていたのだ。
 そして今も無視している。
 それどころかわかっていて、距離を置くようにチョコレートコーナーから焼き菓子コーナーを挟んで奥にあるケーキコーナーに誘導している。

 オスカー!!! そんな真似していて大丈夫なの?!
 兄のことが本当に心配になって来た。私が寂しいと言ったらそれでシスコン化してしまうし、仕える王子の弟王子を気付かないふりをして無視するし、オスカーがこんなことをしてうちの一族は大丈夫なんだろうか?
 ミス・アーネットは王族に失礼な真似をすると、不敬だとか不忠だとか言われると言っていた。
 なんか、胃が痛くなってくる。

 ・・・。
 そうか。紹介されていないし、第三王子もオスカーのことに気付いた様子もないから、これでいいのか。
 第三王子がオスカーに気付いていないなら、第三王子もお忍びだからオスカーは挨拶をしなくてすむし、気付いた素振りさえ見せなければ不敬も何もないというところなんだろう。

 私もオスカーにならって無視することにした。

「あ。ちょっと待って。お土産にしたいから、焼き菓子を全種類買って」
「全種類? それは多すぎじゃないかな。みんなに配るの?」
「配らないけど、アイリーンやマリーンのお土産にしたいから」

 せっかく買ったお土産は暴れ馬騒動で置いてきたから、ここで買うしかない。二人と数日かけて食べるなら、焼き菓子を全種類制覇できる。

「それにしても、量が多いよ。パウンドケーキとシフォンケーキを全種類ホールで買って、一族みんなで分けたらいい。そうしたら、不公平じゃなくなるから」
「え~。そんなことしたら、食べる分が少なくなっちゃうよ」
「それが駄目なら、二人へのお土産は1つずつにしなさい」
「オスカーの意地悪っ」

 アイリーンとマリーンのお土産ってことで買えれば、多く食べられると思ったのに。
 私の欲望に塗れた計画はオスカーによって却下された。

 夢のような場所にいるのに、現実は厳しい。

「意地悪でも何でもいいけど、一族のみんなを平等に扱わないといけないんだよ、リーンネット」

 困ったような顔でオスカーが諭す。
 一族のみんなを平等に扱うというのは初めて耳にした。

「どうして?」
「僕らはみんな助け合っているから、誰かが誰かの犠牲の上で生きていることを忘れてはいけないんだ。だから、一族の間ではみんな平等にそれぞれの役目を担っている。お土産のお菓子にしても、本当はみんなの分を買って帰らないといけないけど、二人のおやつと同じ量ならそれをおやつの代わりにできる。それを考えて買うんだよ」

 尋ねたら、オスカーは教えてくれた。
 一族の間ではみんな平等。
 これは私に与えていい情報なんだろうか? それとも、オスカーがシスコンだから教えてくれた情報なんだろうか?

 私がアイリーンとマリーンだけのお土産にお菓子を選んだら、二人が食べるおやつがこのお土産のお菓子として考えられる。
 でも、一族みんなへのお土産にお菓子を選んだら、二人のおやつの量は減らない。
 それが一族の間ではみんな平等という考え方。

「でも、さっき買ったものは何の代わりになるの?」
「お前がさっき選んだもので高額な物はなかったから、誰も気にしないよ」

 市場はすごいにぎわいだったから教えてくれた店ばかり寄ったけど、どうやらオスカーは値段が高くない店を選んでいたらしい。

「高額じゃなければいいの?」
「そうだよ。僕らの服や持ち物は一族のみんなと同じものなのは知っているよね?」
「うん」

 私やオスカーの服も裁縫部屋で作られているから、布とかはみんなの服を作る時に使う共通の布だ。装飾品や日用品も一族の棟の一室に置かれている物で必要だと思ったものを持ち出している。

「それは一族の間ではみんな平等にするという考えからだ。外で仕事をする時はそれにふさわしいものを用意するけど、それ以外では本家もみんなと同じものを使うことになっているんだ」
「へえ、そうなんだ」

 同じところに置いてあるものを使っていることが、一族の間ではみんな平等という考え方からだなんて知らなかった。
 これが他の家で普通かどうかミス・アーネットが教えてくれていないから、わからない。
 でも、私は知っている。
 ウォルトやフレイの着ている服は私やオスカーが着ている服と質感やデザインが違う。私やオスカーの服は今日みたいに外出しても、そのまま街中に埋没してしまうような目立たないものだ。
 第三王子のほうを見ても、彼らは服からしてウォルトやフレイよりは落ちるものの、私たちのような質感のものじゃない。私やオスカーの服はお菓子屋の店員さんの服に近くて、第三王子たちはこの前、出かけた紳士用品店の店主の服のような質感をしている。

「納得できたならわかるよね。リーンネットは何を買う?」
「瓶詰のキャンディーはお土産にできる?」

 一つくらい瓶詰のチョコレートにしたかったけど、第三王子たちのほうには行きたくない。

 自分が悪役令嬢に仕立て上げられるゲームじゃなかったら第三王子を見かけても、金を溶かしたような豪華な金の髪に緑色のアーモンド形の目とその下の泣きボクロが色っぽくて、ゲームより幼い12歳でもその整った顔立ちをしている彼に見惚れていられた。
 だけど、あと6年もすれば騙されたとはいえ、自分を陥れる連中の一員である第三王子に積極的に関わり合いたいとは指の先ほども思わない。

 これから先もずっと縁がありませんように。
 ゲームの期間が終わっても、その後も関わりがありませんように。
 一生、関わりがありませんように。
 簡単にヒロインに騙されるような奴で王族という特権階級と関わり合うってことは、また陥れられる危険が増えるということだ。
 誰が好き好んで関わり合いになるか。

 他の攻略対象は王族じゃない分だけマシだ。
 関わり合ったとしても、一方的にハルスタッド家が陥れられる危険性は少ない。
 宰相になるかもしれないウォルトにしても、ウォルトとオスカーは仲が良いからオスカーがなんとかしてくれるかもしれない。フレイもオスカーと何年も親しくしているし、攻略対象のうちの二人はなんとかなる。
 あとは逆ハーや腹黒ルートでない限り、腹黒(ギリアム)がウォルトの裏をかこうとしてこないだろうし、他の攻略対象だって逆ハーでない限り、陥れようとする理由がない。

 偽シルヴィアがゲームの期間を終えた後も攻略を続けない限り、陥れられる危険は非常に少ない。
 ウォルトの家のように何度も宰相を任せられる家とか、フレイの家のように武門の名家とか、そんな両家の跡取りと仲の良いオスカーが家を継ぐのだ。陥れようとすれば、その二家も敵に回す覚悟が必要になる。

「ああ。それくらいならお土産にできそうだね」
「じゃあ、私と二人のお土産に瓶詰キャンディーを3つ。みんなのお土産にパウンドケーキとシフォンケーキを全種類ホール。それでいい?」

 よくできましたとばかりにオスカーは私の頭を撫でる。
 オスカーは私の頭を撫でるのが好きなんだろうか? ことあるごとに良く撫でている。
 シスコンの考えることはよくわからない。まあ、私がシスコンじゃないからわからなくても仕方がないか。

 焼き菓子コーナーに置いてあった手提げの籠をオスカーは手に取って私に差し出す。
 籠には底より一回り小さな木皿が敷かれている。その木皿はお菓子が籠に直につかないようにしている物なんだろう。

「買うものをカウンターに持って行くから、リーンネットはこれにシフォンケーキを全種類入れて。パウンドケーキと瓶詰のキャンディーは僕が持って行くから任せて」
「うん」

 籠はシフォンケーキのホールが二つ入るくらいの大きさだった。この籠一つだけではシフォンケーキの全種類(プレーンと茶葉とココア)は入らない。

「オスカー。この籠だけじゃ、入りきらないよ」

 オスカーのほうを見て、私は言葉に詰まった。
 籠の中から生えるいくつものパウンドケーキ(縦)と瓶詰キャンディー。オスカーはトングでパウンドケーキを縦にして詰め込んでいたのだ。

「とりあえず、それをカウンターに持って行って」
「オスカー・・・」

 食べる人の気持ちを考えて、入れてよ・・・。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

サブキャラな私は、神竜王陛下を幸せにしたい。

神城葵
恋愛
気づいたら、やり込んだ乙女ゲームのサブキャラに転生していました。 体調不良を治そうとしてくれた神様の手違いだそうです。迷惑です。 でも、スチル一枚サブキャラのまま終わりたくないので、最萌えだった神竜王を攻略させていただきます。 ※ヒロインは親友に溺愛されます。GLではないですが、お嫌いな方はご注意下さい。 ※完結しました。ありがとうございました! ※改題しましたが、改稿はしていません。誤字は気づいたら直します。 表紙イラストはのの様に依頼しました。

悪役令嬢はやめて、侯爵子息になります

立風花
恋愛
第八回 アイリス恋愛ファンタジー大賞 一次選考通過作品に入りました!  完結しました。ありがとうございます  シナリオが進む事のなくなった世界。誰も知らないゲーム後の世界が動き出す。  大崩落、王城陥落。聖女と祈り。シナリオ分岐の真実。 激動する王国で、想い合うノエルとアレックス王子。  大切な人の迷いと大きな決断を迫られる最終章! ーあらすじー  8歳のお誕生日を前に、秘密の場所で小さな出逢いを迎えたキャロル。秘密を約束して別れた直後、頭部に怪我をしてしまう。  巡る記憶は遠い遠い過去。生まれる前の自分。  そして、知る自分がゲームの悪役令嬢であること。  戸惑いの中、最悪の結末を回避するために、今度こそ後悔なく幸せになる道を探しはじめる。  子息になった悪役令嬢の成長と繋がる絆、戸惑う恋。 侯爵子息になって、ゲームのシナリオ通りにはさせません!<序章 侯爵子息になります!編> 子息になったキャロルの前に現れる攻略対象。育つ友情、恋に揺れる気持<二章 大切な人!社交デビュー編> 学園入学でゲームの世界へ。ヒロイン登場。シナリオの変化。絆は波乱を迎える「転」章<三章 恋する学園編> ※複数投稿サイト、またはブログに同じ作品を掲載しております

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

処理中です...