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ウォルト
不憫系悪役令嬢のゲームについて
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ある日、自分が乙女ゲームの不憫系悪役令嬢だと気付いた。
頭をぶつけたわけでもなく、攻略対象の婚約者と対面したわけでもなく、幼児というには大きすぎる10歳の私はいきなり前世の知識を思い出して、自分が悪役令嬢であることを知った。
私が自分を不憫系悪役令嬢と呼ぶのは、実家没落や国外追放、処刑、殺害されるからではない。
それは私が悪役令嬢となるゲーム自体に問題があるからだ。
ストーリーは幼い時から両親と離れて田舎で病気療養していた男爵令嬢シルヴィアが、貴族の子女が通う学校に入学するため、王都にやって来るところから始まる。
ゲームの舞台はこの学校だ。
だが、ヒロインはシルヴィアではない。
病弱なシルヴィアは侍女によって娼館に売り飛ばされ、シルヴィアの名を語って学校に通う侍女がヒロインなのだ。
なんて最低最悪なヒロイン!
前世で私もそう思った。
私は不遇なヒロイン(この場合、病弱で貴族の中で一番身分が低い)が学校生活を送りながら恋愛をする、よくある乙女ゲームだと思って買ったのだ。
ところが、ヒロインはゲスだった。
そこでやめようかと思ったが、残念ながら無料で遊べるソーシャルゲームではなく、パッケージ販売されていたゲームだった。
だからお金を溝に捨てるのはもったいなくて、ゲームを続けた。エンディングを一つでも見れば売ろうと決心して。
きっと、シルヴィアはヒロインにとって仇の家に生まれた復讐対象だったのだと、変な設定をつけて自分を誤魔化した。
結論から言えば、シルヴィアもシルヴィアの両親も何ら悪いところはない。悪いのはヒロインだった。
成り上がり思考の強いヒロインはシルヴィアと入れ替わっただけでなく、攻略対象者の周囲にいる令嬢や婚約者、校内でも尊敬を集めている令嬢――所謂ライバルキャラ――を陥れ、自分がさも虐められたかのように装って、相手の評判を落としつつ攻略対象者の関心を引くのだ。
つまり、ヒロイン以外の令嬢は悪役令嬢であり、何をしても構わないとゲーム制作会社が開き直ったゲームなのだ。
おい、コラ!!と言いたいが、悪役令嬢に仕立てあげるのは確かに斬新なアイデアだ。
その悪役に仕立てあげられる不憫系悪役令嬢が私(その他多数)なのだ。
自分がその仕立てあげられるほうに生まれていなければ、悪趣味だと言いながらも褒めていられた。
悪役令嬢転生して、ヒロイン転生した電波少女に一度はされるテンプレだが・・・本当に何故、これをゲームにした?!
悪役令嬢当人に転生した本人としては、ゲーム開発陣を小一時間ほど問い詰めたい。
そんな悪辣ヒロインのゲームに需要はあったのかというと、意外にあった。ニッチな需要に答えたらしく、予約限定販売のファングッズ(20万円也)が完売したのはネットのニュースに載ったくらいだ。コアなファンのおかげでその後もファングッズは作られ、ゲーム自体の収入よりもそちらのほうがメインではないかと思う。
ネットではファングッズもそうだが、ゲームのストーリーや内容だけでなく、イラストや声優でもかなり話題となった作品だった。
有名イラストレーター(本職は超人気漫画家)と豪華声優陣を採用しているだけあって、ヒロインがゲスかろうが、公式のグッドエンディングは逆ハーレムだろうが、ユーザーの文句は少なかった。
「文句があるなら、ゲームをしなくていい!」とゲーム制作会社の広報は言い切った。
この!(エクスクラメーションマーク)はゲーム制作会社のホームページ上でも使われているから、その心意気や天晴。
何故、こんなゲームにその心意気を大盤振る舞いして、無駄遣いしているのかはわからないが・・・。
と、まあ、こんな感じで、ゲスい乙女ゲーム『かげろう狂詩曲(ラプソディー)~蝶は檻の中~』の話はこのくらいに。
私はこのゲームの攻略対象者の婚約者という、ハイ、悪役確定!! なポジションの令嬢リーンネット・ハルスタッドに生まれてきてしまったわけで・・・
とりあえず、まだ婚約していないので婚約を回避する方向で、動こうと思う。
頭をぶつけたわけでもなく、攻略対象の婚約者と対面したわけでもなく、幼児というには大きすぎる10歳の私はいきなり前世の知識を思い出して、自分が悪役令嬢であることを知った。
私が自分を不憫系悪役令嬢と呼ぶのは、実家没落や国外追放、処刑、殺害されるからではない。
それは私が悪役令嬢となるゲーム自体に問題があるからだ。
ストーリーは幼い時から両親と離れて田舎で病気療養していた男爵令嬢シルヴィアが、貴族の子女が通う学校に入学するため、王都にやって来るところから始まる。
ゲームの舞台はこの学校だ。
だが、ヒロインはシルヴィアではない。
病弱なシルヴィアは侍女によって娼館に売り飛ばされ、シルヴィアの名を語って学校に通う侍女がヒロインなのだ。
なんて最低最悪なヒロイン!
前世で私もそう思った。
私は不遇なヒロイン(この場合、病弱で貴族の中で一番身分が低い)が学校生活を送りながら恋愛をする、よくある乙女ゲームだと思って買ったのだ。
ところが、ヒロインはゲスだった。
そこでやめようかと思ったが、残念ながら無料で遊べるソーシャルゲームではなく、パッケージ販売されていたゲームだった。
だからお金を溝に捨てるのはもったいなくて、ゲームを続けた。エンディングを一つでも見れば売ろうと決心して。
きっと、シルヴィアはヒロインにとって仇の家に生まれた復讐対象だったのだと、変な設定をつけて自分を誤魔化した。
結論から言えば、シルヴィアもシルヴィアの両親も何ら悪いところはない。悪いのはヒロインだった。
成り上がり思考の強いヒロインはシルヴィアと入れ替わっただけでなく、攻略対象者の周囲にいる令嬢や婚約者、校内でも尊敬を集めている令嬢――所謂ライバルキャラ――を陥れ、自分がさも虐められたかのように装って、相手の評判を落としつつ攻略対象者の関心を引くのだ。
つまり、ヒロイン以外の令嬢は悪役令嬢であり、何をしても構わないとゲーム制作会社が開き直ったゲームなのだ。
おい、コラ!!と言いたいが、悪役令嬢に仕立てあげるのは確かに斬新なアイデアだ。
その悪役に仕立てあげられる不憫系悪役令嬢が私(その他多数)なのだ。
自分がその仕立てあげられるほうに生まれていなければ、悪趣味だと言いながらも褒めていられた。
悪役令嬢転生して、ヒロイン転生した電波少女に一度はされるテンプレだが・・・本当に何故、これをゲームにした?!
悪役令嬢当人に転生した本人としては、ゲーム開発陣を小一時間ほど問い詰めたい。
そんな悪辣ヒロインのゲームに需要はあったのかというと、意外にあった。ニッチな需要に答えたらしく、予約限定販売のファングッズ(20万円也)が完売したのはネットのニュースに載ったくらいだ。コアなファンのおかげでその後もファングッズは作られ、ゲーム自体の収入よりもそちらのほうがメインではないかと思う。
ネットではファングッズもそうだが、ゲームのストーリーや内容だけでなく、イラストや声優でもかなり話題となった作品だった。
有名イラストレーター(本職は超人気漫画家)と豪華声優陣を採用しているだけあって、ヒロインがゲスかろうが、公式のグッドエンディングは逆ハーレムだろうが、ユーザーの文句は少なかった。
「文句があるなら、ゲームをしなくていい!」とゲーム制作会社の広報は言い切った。
この!(エクスクラメーションマーク)はゲーム制作会社のホームページ上でも使われているから、その心意気や天晴。
何故、こんなゲームにその心意気を大盤振る舞いして、無駄遣いしているのかはわからないが・・・。
と、まあ、こんな感じで、ゲスい乙女ゲーム『かげろう狂詩曲(ラプソディー)~蝶は檻の中~』の話はこのくらいに。
私はこのゲームの攻略対象者の婚約者という、ハイ、悪役確定!! なポジションの令嬢リーンネット・ハルスタッドに生まれてきてしまったわけで・・・
とりあえず、まだ婚約していないので婚約を回避する方向で、動こうと思う。
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