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私とチェスター様

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 三人目は私と同じまだ17歳という若さで諸国の外遊を任せられているチェスター様。私の窮状を耳にし、急いで交渉をまとめられて戻って来られたそうです。
 どうやって、その報せを耳にして、一月以内に戻って来られたのかはわかりませんが、この娼館で働いている女性から「あの方を選んだほうがいいわ。笑顔で無茶を通す恐ろしい方のようだから、選ばないと大変なことになるわよ」と言われました。護衛だけという最小限の随行だけで帰国されたそうで、残された方々は一気に数ヶ国と締結されたものの後処理に追われているらしいです。
 流石、外交で名高い家の当主です。そうとだけ言っておきます。

 私の知るチェスター様は歳下から呼び捨てにされてもお気になさらない方です。(その呼び捨てをしているのはお恥ずかしいことながら私の弟アイザックですが。)穏やかな気性で、外交にもその誠実で温和な性格から信頼を寄せられると思います。

「もうしばらくだけ、この不便な生活に我慢させてしまうのを許してくれ、ライラ。すべて、私のせいだ」

 そう言って、チェスター様は頭を下げてくださいました。

「いいえ、チェスター様のせいではありませんわ。小父様があのように早くなくなるなんて、誰も予想していなかったのだから」

 私とチェスター様は母親同士が仲が良い従姉妹同士で幼馴染でした。ですから、チェスター様のお父様のことも小父様と呼んでいました。
 お父様を亡くしたチェスター様は11歳で当主になり、宰相様のもとで仕事をするようになりました。その為に宰相様のご子息からひどく嫌われたそうです。
 宰相様のご子息はそれ故に嫉妬されていたことでしょう。シルベン王子の婚約者だった私にも身におぼえがあります。
 しかし、それを歳下で、一日でも早く家の役割を継ぐ必要のあったチェスター様にあたるなど、あまりにも身勝手すぎです。だから、シルベン王子の愛人の取り巻きなどになってしまったのでしょう。
 チェスター様とは協力し合わなければいけないというのに、私情を優先なさる方ですから、元々宰相様の後を継ぐ資質はなかったのかもしれません。今回のことでそれが表沙汰になって、揉み消せなくなっただけのこと。

「ありがとう、ライラ。ディアナ様もお前のことを心配していた。もうしばらくだけ待っていて欲しい。ディアナ様もようやくシルベン王子を立てる気がなくなりそうだ」

「ディアナ様が? まさかそんなことになるなんて・・・」

 ディアナ様は今の王妃様です。亡くなった前の王妃様に義理立てなさって、前の王妃様の息子であるシルベン王子が王位に就けるよう、産み分けまでなさっているとか。
 ですが、そこまでなさっていたディアナ様ですら、今回の横暴には耐えられなかったようです。
 家同士のバランスや王家の力を無視し、根拠もなく安易に人を裁くなど到底許されることではありません。力と恐怖で国を治めたいのならそれでいいでしょう。しかし、それが通用するのは国内だけ。外国はそうはいきません。
 更に大きな力で迫られた場合はどうするのでしょうか?
 それに対処するのがチェスター様の家が担ってきた外交です。
 シルベン王子たちは気付かれておりませんが、それを実践して彼らを意のままに操っているのがシルベン王子の愛人です。それがわかっていて何故放置していたのか? それはここまで見事に操られているとは誰も考えていなかったからです。本来なら、このような事態に陥る筈がなかったのです。
 私たち淑女の役目は高貴な人々の周りに礼儀や作法を心得ようとしない慮外者を排除すること。誰もが心地良いと感じる時間と場所を作ることを求められています。ですが、私たちの努力も虚しく、あの女はシルベン王子の愛人となり、私を追い払ったのです。

「こうなるのは当たり前だ。揃いも揃ってこの状況になるとは、ギデオン様もクロードも役目を果たしていない証拠。私が戻って来たからにはすぐにここから出してあげるよ、ライラ」

 チェスター様の言葉に安心感よりも寒気がしました。よく知っているはずの幼馴染なのに、何故なんでしょうか?
 ギデオン様・・・? ああ、宰相様のご子息ですね。彼と兄のクロードはシルベン王子の側近でした。二人ともシルベン王子の傍にいて、手足となってその周辺に危険を寄せ付けない役目を持っていました。

「チェスター様にそう言っていただけると心強いです」

 表情が引きつらないように努力しました。

「せっかく、ライラを解放してくれたんだ。そのお礼をしないとね」

 私の幼馴染はどうなってしまったのでしょう?
 目の前の濃い金髪の人物が私の知る幼馴染に見えません。チェスター様はのんびりとした方です。のんびりしすぎて、アイザックの悪戯に何度も引っかかるような抜けているところもある方でした。
 宰相様、私の幼馴染に何をなさったのですか。チェスター様が黒過ぎて怖いです。

 私は遠い目をして柔らかく笑うチェスター様を見るしかありませんでした。
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