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弟視点
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僕には大好きな姉様がいる。優しくて大好きな姉様。
だけど、姉様は王子と結婚しなければいけなかった。
使用人たちは姉が浮気者の王子と結婚しなければいけないことを嘆く。
僕も嘆いた。どうして、姉様のように優しい女性を裏切って、浮気し続けるのか、わからない。幸せにする気はないのか、と。
母様が幼い頃に亡くなったので、姉様は僕にとって母親代わりだった。
その姉様が幸せになれない結婚なんて、許せない。
浮気は結婚するまでの遊びだろうと父様は言うが、それでも許せない。
王子の浮気は姉様と結婚してからも治まらなかった。
王子は愛妾を作り、姉様は王宮で軟禁された。
そうして、何年も、姉様は顧みられることはなかった。
王子の愛妾が何人も子どもを産み、病弱(・・)で役立たずな姉様に対する風当たりは強くなった。
王宮の使用人たちは好き勝手言う。姉様に会いに行った時、王子は愛妾にぞっこんで、姉様を嫌っている、と言っていた。
食事を粗末なものに変えたり、シーツも何週間も変えない、ベッドメイキングもしない、と自分たちがしている嫌がらせを自慢し合っていた。
だから、父様に言って我が家から使用人を出して、姉様の身の回りの世話をさせた。
警護の者も、我が家の息のかかった者に変えてもらった。
王子に蔑ろにされ、王宮の使用人たちに虐げられていた姉様。
許せなかった。
僕の婚約者の家も、王子の愛妾に媚を売り始めたので、婚約を解消した。あちらも王子に嫌われて役に立たない王子妃との繋がりなど、不要だったようだ。
許せない。
姉様は優しくて、王子の隣に相応しいようにあんなに頑張っていたのに、部屋に押し込められ、虐げられ、貶められ、軽んじられている。
何故、そんな目に遭わなければいけないのか。
怒りでおかしくなりそうだった。
姉様は着飾る機会も、称賛される機会も奪われ、栄誉も不当に奪われた。
我が家で守っていなければ、姉様が死んでいてもおかしくはない。そんな状況にいる。
姉様を守れるのは僕だけだ。父様は姉様より先に死ぬ。姉様より長く生きる僕が守るしかない。
姉様を守る為には王宮から出なければいけない。
病気療養を理由に外に出せば、あとは実家に引き取ることができる。何年も放置されていたのだ。それくらいはさせてもらわねば。
愛妾に笑顔を向ける王子を見る度に、王子が浮気相手と笑う度に殺意が膨れ上がってくる。
姉様は部屋から出ることを許されていないのに、華やかな夜会に出席する愛妾。
そこは姉様の場所だというのに、我が物顔で居座る女たち。
それを姉様から取り上げ、女たちに与えている王子。
僕は力を求めた。
白馬に乗った王子様が姉様を助けに来てくれることを願っていたのは成人するまでだった。
それ以降は、王子様でなくても、中年の騎士で良いから助けに来て欲しいと思った。
だが、社交界での姉様の評判は散々だった。
社交に出て来ない王子妃。
(出て来ないのではなく、部屋から出してもらえないのだ)
嫁して5年以上経っても、一度も妊娠しない王子妃。
(白い結婚なのだから、貞淑な姉様が妊娠するはずがない)
愛妾や使用人に当たり散らし、謹慎させられている王子妃。
(軟禁されているのに、まったくのでたらめだ)
苛立ちを抑えようと姉様に会いに行って、帰り際に気付いた。
いつの間にか目線は見上げるものではなく、見下げるものになっていた。
身長も、僕のほうが高くなっていた。
大きいと思っていた姉様が小さくなっていた。
母親のように思っていた姉様はこんなにも小さくて、非力で、可哀想な女性になっていた。
僕が守ってあげなくてはいけない人になっていた。
ああ。誰かに姉様を幸せにしてもらうのではなく、自分が幸せにしたらいいんだ、と思った。
可哀想な姉様。
若く美しい時代を軟禁されて過ごすしかなかった姉様。
助けてくれるような騎士に見初められることもなく、朽ちていく人生にされた姉様。
愛してあげる。
称賛してあげる。
あの男から解放させてあげる。
僕は、嫌がる姉様を犯した。
警護の者は僕が来たと同時に下がらせた。
侍女にも呼ぶまで来るなと言い含めた。
誰にも助けられず、絶望に打ちひしがれる姉様を犯した。
初めは嫌がっていた姉様も何度か抱くうちに受け入れるようになった。
僕の腕の中で啼く姉様。
「姉様。姉様」
とても気持ち良かった。
姉様の身体も喜んで僕を迎え入れていた。
可哀想な姉様。
姉様の身体はきっと知っていたんだ。あの男ではなく、僕を求めていることを。
そうでなければ、こんなふうに子種を求めるはずがない。
それを言うと、姉様は言った。
「そんなことは赦されてないわ」
「姉様が産んだ子どもを養子にして跡取りにするから安心して」
僕の婚約はとっくの昔に解消されている。
「お父様が許さないわ」
「父上なら煩かったから死んでもらった」
父様は姉様が考えたように、僕の計画を反対した。姉と弟で交わること自体、父様は止めるように言ってきた。
父様は姉様を王宮から助けようとしなかった。そのくせ、僕の計画の邪魔をする。
姉様はそれから反対することはなくなった。
妊娠を機に姉様を王宮から出して、我が家で療養させる。
そして、時機を見て死んだことにする。
姉様に興味を示さなかった王子も、それを咎めなかった国王夫妻も、姉様が生きてようが死んでようが構わないのだから。
そう思っていたのに、姉様は死んでしまった。自ら命を絶って。
だけど、姉様は王子と結婚しなければいけなかった。
使用人たちは姉が浮気者の王子と結婚しなければいけないことを嘆く。
僕も嘆いた。どうして、姉様のように優しい女性を裏切って、浮気し続けるのか、わからない。幸せにする気はないのか、と。
母様が幼い頃に亡くなったので、姉様は僕にとって母親代わりだった。
その姉様が幸せになれない結婚なんて、許せない。
浮気は結婚するまでの遊びだろうと父様は言うが、それでも許せない。
王子の浮気は姉様と結婚してからも治まらなかった。
王子は愛妾を作り、姉様は王宮で軟禁された。
そうして、何年も、姉様は顧みられることはなかった。
王子の愛妾が何人も子どもを産み、病弱(・・)で役立たずな姉様に対する風当たりは強くなった。
王宮の使用人たちは好き勝手言う。姉様に会いに行った時、王子は愛妾にぞっこんで、姉様を嫌っている、と言っていた。
食事を粗末なものに変えたり、シーツも何週間も変えない、ベッドメイキングもしない、と自分たちがしている嫌がらせを自慢し合っていた。
だから、父様に言って我が家から使用人を出して、姉様の身の回りの世話をさせた。
警護の者も、我が家の息のかかった者に変えてもらった。
王子に蔑ろにされ、王宮の使用人たちに虐げられていた姉様。
許せなかった。
僕の婚約者の家も、王子の愛妾に媚を売り始めたので、婚約を解消した。あちらも王子に嫌われて役に立たない王子妃との繋がりなど、不要だったようだ。
許せない。
姉様は優しくて、王子の隣に相応しいようにあんなに頑張っていたのに、部屋に押し込められ、虐げられ、貶められ、軽んじられている。
何故、そんな目に遭わなければいけないのか。
怒りでおかしくなりそうだった。
姉様は着飾る機会も、称賛される機会も奪われ、栄誉も不当に奪われた。
我が家で守っていなければ、姉様が死んでいてもおかしくはない。そんな状況にいる。
姉様を守れるのは僕だけだ。父様は姉様より先に死ぬ。姉様より長く生きる僕が守るしかない。
姉様を守る為には王宮から出なければいけない。
病気療養を理由に外に出せば、あとは実家に引き取ることができる。何年も放置されていたのだ。それくらいはさせてもらわねば。
愛妾に笑顔を向ける王子を見る度に、王子が浮気相手と笑う度に殺意が膨れ上がってくる。
姉様は部屋から出ることを許されていないのに、華やかな夜会に出席する愛妾。
そこは姉様の場所だというのに、我が物顔で居座る女たち。
それを姉様から取り上げ、女たちに与えている王子。
僕は力を求めた。
白馬に乗った王子様が姉様を助けに来てくれることを願っていたのは成人するまでだった。
それ以降は、王子様でなくても、中年の騎士で良いから助けに来て欲しいと思った。
だが、社交界での姉様の評判は散々だった。
社交に出て来ない王子妃。
(出て来ないのではなく、部屋から出してもらえないのだ)
嫁して5年以上経っても、一度も妊娠しない王子妃。
(白い結婚なのだから、貞淑な姉様が妊娠するはずがない)
愛妾や使用人に当たり散らし、謹慎させられている王子妃。
(軟禁されているのに、まったくのでたらめだ)
苛立ちを抑えようと姉様に会いに行って、帰り際に気付いた。
いつの間にか目線は見上げるものではなく、見下げるものになっていた。
身長も、僕のほうが高くなっていた。
大きいと思っていた姉様が小さくなっていた。
母親のように思っていた姉様はこんなにも小さくて、非力で、可哀想な女性になっていた。
僕が守ってあげなくてはいけない人になっていた。
ああ。誰かに姉様を幸せにしてもらうのではなく、自分が幸せにしたらいいんだ、と思った。
可哀想な姉様。
若く美しい時代を軟禁されて過ごすしかなかった姉様。
助けてくれるような騎士に見初められることもなく、朽ちていく人生にされた姉様。
愛してあげる。
称賛してあげる。
あの男から解放させてあげる。
僕は、嫌がる姉様を犯した。
警護の者は僕が来たと同時に下がらせた。
侍女にも呼ぶまで来るなと言い含めた。
誰にも助けられず、絶望に打ちひしがれる姉様を犯した。
初めは嫌がっていた姉様も何度か抱くうちに受け入れるようになった。
僕の腕の中で啼く姉様。
「姉様。姉様」
とても気持ち良かった。
姉様の身体も喜んで僕を迎え入れていた。
可哀想な姉様。
姉様の身体はきっと知っていたんだ。あの男ではなく、僕を求めていることを。
そうでなければ、こんなふうに子種を求めるはずがない。
それを言うと、姉様は言った。
「そんなことは赦されてないわ」
「姉様が産んだ子どもを養子にして跡取りにするから安心して」
僕の婚約はとっくの昔に解消されている。
「お父様が許さないわ」
「父上なら煩かったから死んでもらった」
父様は姉様が考えたように、僕の計画を反対した。姉と弟で交わること自体、父様は止めるように言ってきた。
父様は姉様を王宮から助けようとしなかった。そのくせ、僕の計画の邪魔をする。
姉様はそれから反対することはなくなった。
妊娠を機に姉様を王宮から出して、我が家で療養させる。
そして、時機を見て死んだことにする。
姉様に興味を示さなかった王子も、それを咎めなかった国王夫妻も、姉様が生きてようが死んでようが構わないのだから。
そう思っていたのに、姉様は死んでしまった。自ら命を絶って。
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