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妻が悪女に変わる時5
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リーンリアナの夜会出席で離宮では翌日、騒ぎが起こった。
蠱惑的な魅力溢れるリーンリアナと会いたいという訪問者が離宮に押し寄せ、女騎士だけでは対応できなくなる始末だった。急遽、離宮の女騎士たちと厨房の者が寝泊まりする棟からの知らせを受けて近衛騎士が出動する騒動にまで発展した。
ユング・ホルボーンのおかげで近衛騎士たちが常駐するようになり、興味本位だった訪問者たちも月日が経つにつれて減っていき、リーンリアナの夜会出席の騒ぎはそれで収まったかのように思えた。
しかし、リーンリアナが訪問者たちと話をしていたせいで、訪問者の数は思ったほど減らなかった。
リーンセーラをはじめ、他のハルスタッド一族の女は夫や侍女たちとしか話さないというのに、リーンリアナは侍女の代わりに女騎士が身の回りの世話をしてくれたことから、女騎士とも話すようになっていた。その延長で訪問者たちとも話をしてしまったのだ。
それが如何に側妃としてふさわしくない行動なのか、リーンリアナにはわからなかったらしい。
他の側妃は自分や自分の王子王女の味方を作るべく貴族たちと会うこともある。それが王や正妃とは違う角度から貴族に国を支えさせる側妃の仕事の一つでもあるから、貴族と会うことは禁じられてはいない。
だが、そういった側妃の仕事を免除され、王家に保護されているハルスタッド一族出身であるリーンリアナは免除されているが故に貴族と会う必要はない。
貴族同士の婉曲的な話し方も、感情を笑顔の下に押し隠すことも、実家の権力を拡大させる為の情報収集も駆け引きも何もかも知らないリーンリアナ。言葉遣いと食事マナーなどの基本的な礼儀作法と読み書き、裁縫や刺繍くらいしかできない貴族らしくない伯爵令嬢。合同誕生会ではアルバートが誘わなかったので踊らなかったものの、貴族の嗜みの一つであるダンスすら教えられていない。
社交で必要でもない親族以外の男と交流を持つ意味も知らないリーンリアナ。
あまりにも貴族らしくなく、高位貴族の一員である伯爵家の令嬢とは思えない教育。
それが離宮という籠の中で生きることを宿命付けられたハルスタッド伯爵令嬢の教育方針だった。
あるがままを受け入れ、何も求めず、満足する無欲で王族に安らぎを与えられる存在として作り上げられた美しき魔物。それがハルスタッド伯爵令嬢の正体だ。
離宮の側妃が夜会に出席することも、ここ数十年は離宮の側妃が出席する者がいなかったにもかかわらず出席したリーンリアナ。
今回、妻が引き起こした諸々にアルバートは頭が痛かった。
それは父が積極的にリーンリアナを利用していることがわかっていても、変わらない。
そして――
「アルバート殿下。リーンリアナ様が・・・」
王太子の執務室に低姿勢で入室してきたアルバート付きの侍従がアルバートに耳打ちする。
リーンリアナが今度は何をしでかしたのか聞きたくないけれど、聞くしかないアルバートである。
ろくでもないことに決まっているのだが聞くしかない。
拒否権はない。
アルバートは溜め息を吐いて、心構えをすると聞いた。
「リーンリアナがどうかしたのか?」
「騎士と喧嘩いたしました」
侍従が静かな声で告げた内容にアルバートの声が裏返った。
「喧嘩?!」
何故、そうなった?!
あとで顔を出した時に聞き出さなくては、とアルバートは頭の片隅におぼえておくことにした。
夜会への出席でリーンリアナの生活は一変した。
翌日、いつものように女騎士たちとおしゃべりを楽しもうとリーンリアナは自室から椅子を持ち出した。フィリアたち侍女が小さなテーブルやブランケット、ショールなどを手にしてその後に従う。
中庭と外界を遮る門に近付くと、そこが騒がしいことに気付いた。その中に女騎士のエミリーの声があった。
リーンリアナは足を速めていつもの場所に椅子を置いて門越しに呼びかける。
「エミリー。どうしたの?!」
「リーンリアナ様! お帰り下さい!」
「リーンリアナ様?! そこにおられるのですか?! 是非、一目だけでも麗しいお姿をお見せくださいませ」
「お声だけでもお聞かせください、リーンリアナ様!」
「おい! この門を開けろ! リーンリアナ様に会えないじゃないか!」
エミリーだけなく、聞き慣れない男たちの声が聞こえてくる。それになんか興奮しきっているようにも聞こえ、騒ぎも起きくなっていた。
何が起こっているのか、リーンリアナにはさっぱりわからないが恐怖を感じた。
「側妃様! 来てはなりません! お戻りください!」
おぼえのない男の声でそう言われて、リーンリアナは更に混乱した。
「リーンリアナ様・・・! 今日のところは戻りましょう」
フィリアに促され、リーンリアナは椅子もそのままに自室に逃げ帰った。
食事を運んで来る時に侍女たちがあの騒ぎについてリーンリアナが女騎士たちから聞いた話では、昨夜の王女たちの合同誕生会で出席したリーンリアナを見た人物たちがお伺いを尋ねに出した従者などでは要領を得ないからと押しかけてきて、会わせてくれと女騎士たちと押し問答したらしい。
おかげで夜勤の女騎士たちも駆り出されて対応することになり、近衛騎士にも応援を頼まなければいけない事態だった。
リーンリアナは自分で対処できない事態が恐ろしくなった。
そこは近衛騎士団団長のユング・ホルボーンがしばらく近衛騎士たちも離宮の門を守ることに決めてくれた。他の場所の女騎士たちよりも騎士らしくない離宮の女騎士たちだけでは収められなかった騒ぎも、近衛騎士たちが数人いることで迷惑な来訪者たちも大人しくなって、秩序は回復した。
女騎士たちと話すように、リーンリアナは羊のように大人しくなった来訪者たちとも話すようになった。
よく考えれば、アルバートと顔を合わすことが怖かった時期も門越しに話をしていたのだ。アルバートは夫で、来訪者たちはそうではないからと拒否するのも、せっかく来てくれた相手に悪いと相手をするようになった。
アルバートはいい顔をしなかったが、異性との会話は侍女や女騎士たちとは違う意味で楽しかった。彼女たちが話さないようなことまで色々なことを知っている彼らの話は興味深かった。
侍女や女騎士たちの知る噂話も来訪者たちの話す噂話や事柄に関連することも多く、時には彼女たちよりも詳しいことや早く噂を耳にすることもある。勿論、面白くない話題もあったが、せっかく話してくれているのでリーンリアナはとりあえず耳を傾けた。
二度と顔を合わせることがないだろう相手と話すのも不思議だったが、それなりに楽しい日々だった。
女騎士たちとのおしゃべりは来訪者がいるのでできなくなったが、王族たちが離宮に足を運ぶのに来訪者が遭遇することもあって、それで来訪者が帰ってしまった後が女騎士たちと過ごす時間になった。
日が経つにつれ、来訪者は減って行った。
それと同時に、女騎士たちと過ごす時間が以前と同じように増えていく。
残った来訪者の中には父親が紹介してきたベッケンバウアー公爵とイオン卿もいて、リーンリアナはそのことを深く考えていなかった。
父親が彼らを紹介した理由はベッケンバウアー公爵の姉がリーンリアナに毒を盛ったことをリーンリアナ自身が許しているということを、ベッケンバウアー公爵に示す為だったと離宮の門を潜る前に教えられた。
加害者家族と被害者家族の間で禍根を残さないようにすること。加害者家族が罪悪感や贖罪で悩ませないようにするのが今回の目的だったそうだ。
門の扉越しに話しているうちに、リーンリアナはあまり話したがらない皮肉家のベッケンバウアー公爵とそれを宥めるように話すイオン卿の関係も知るようになった。
イオン卿はまだ少年だったベッケンバウアー公爵が爵位を継承する際に宰相によって付けられた教育係らしい。
それ以外にも、あの事件の詳しい背景が見えてきた。
リーンセーラが毒で倒れたあの時にベッケンバウアー公爵の姉はまだ女子が学校に通える16歳になっておらず、学校に通うアルバートと会う機会が減ってしまった。アルバートと同級生だったベッケンバウアー公爵が学校での様子を教えいたにもかかわらず、中々会えないところに寵愛する側妃の話を聞いて犯行に及んでしまったそうだ。
聞けば聞くほど、ベッケンバウアー公爵の姉はリーンリアナにとって他人だとは思えなくなった。
多少時期はずれても、ほぼ同じ時に同じようにアルバートに感じていた公爵令嬢は自分の合わせ鏡のような存在だと思った。
そんな彼女を犯行に駆り立てたアルバートと自分。実際はアルバートとリーンセーラ。
だが、自分もリーンセーラもそんな気はなかった。自分は愛されていなくても妻で、リーンセーラは一方的に惚れられているだけ。
それでも、自分たちの存在でベッケンバウアー公爵の姉は傷付いたのだ。かつての自分のように。
因縁があるにもかかわらず、話をしにやって来るベッケンバウアー公爵の真意はリーンリアナにはわからない。
わからないなりにも、話をしに来たのだろうと他の来訪者と同じように受け入れる。彼の姉と似た自分ができるのはそれくらいだったから。
だが、ベッケンバウアー公爵がリーンリアナのところに訪れることを快く思っていなかった人物がいた。
それがベッケンバウアー公爵の友人のダグラス・ベルガーだった。
その日、ベッケンバウアー公爵とイオン卿はまだ現れていなかった。この二人はいつも一緒で、一人では来ない。
他の訪問者もいなかったので、リーンリアナは女騎士たちとおしゃべりを楽しんでいた。近衛騎士もいたが、彼らは側妃であるリーンリアナが相手なので分をわきまえて女同士の会話には入らず、職務を全うしている。
女騎士たちとリーンリアナが心置きなく話していたら、あの夜会に参加する前と変わらないような気すらしてくる。
しかし、門の外側には近衛騎士もいて、彼らが声を出さなければリーンリアナは気にならないが、女騎士たちは彼らの姿が見えるので控え気味だ。
「ここに来る人たちもようやく落ち着いたわね」
「そうね。やっとみんなと普通に話せるようになるわ」
リーンリアナがそう言ったら、ユーニスは首を横に振って言った。
「そうはいかないわよ。訪問者になんか文官の人が増えてきたじゃない?」
「文官って、家庭教師みたいに色々なことをよく知っているあの人たち?」
ユーニスとメリッサはクスクスと笑う。
「リーンリアナ様ったら、もう」
「ええ。ずーっと、よくわからないことを語ってる人たち。リーンリアナ様ったら、よくあの人たちの話を聞いてあげているけど、そのせいで数が増えているような気がする」
「増えているの? そうだったかしら?」
訪問者たちは話しかける最初に名前を名乗ってくれるが、夜会の時に会った人間が多すぎてリーンリアナには顔と名前が一致するどころか、誰と会ったのかさえ記憶があやふやだ。因縁のあるベッケンバウアー公爵はおぼえていても、顔どころか髪の色や目の色すらおぼえていない。一緒にいたイオン卿のことは名前すら忘れていて、ベッケンバウアー公爵と一緒にいた人ぐらいの認識しかない。
そんな訪問者たちも最初は多すぎて、やはり誰が誰なのかリーンリアナはおぼえてもいなければ、姿を目にすることもないのでその数もわからない。
わかっているのは、近衛騎士が常駐して一週間は大勢が集まっていて騒がしいと思ったくらいだ。
「増えているわよ。始めのほうはいなかったけど、始めのほうの人が減ったと思ったら、自分の世界に籠もってる感じの文官が増えてきて、自分の好きなことばかり話していくんだもん。気がつくでしょ?」
それを聞いていた近衛騎士たちの目は思い出して声もなく笑っていたが、話している相手を見られないリーンリアナには思い当たらない。
だから、夜会に参加していなかった文官たちが夜会に参加していた同僚から専門のことを嫌がらずに聞いてくれる女性がいると聞いて、次々とやって来るようになったことなどリーンリアナが気付く筈もなかった。
リーンリアナとしては文官たちの話す内容が目新しくて聞いていたのと、侍女や女騎士たちの話を聞いているように聞いていただけなのだが、能力はあっても対人能力に難があったり、異性の好む会話がわかっていない内向的な文官たちからしたら、顔も合わせずにすむおかげで安心して話せ、今まで同僚くらいにしか興味を持ってもらえなかった話の内容を喜んでもらえるので彼らは喜んで何度も足を運ぶようになっていた。
「そうなの? 気付かなかったわ」
「もう。リーンリアナ様ったら、暢気なんだから」
「笑い事じゃないわよ、メリッサ」
訪問者を侍女や女騎士たちと同じようにしか考えていない様子にメリッサは苦笑する。
そんな同僚をユーニスは諫めた。
ユーニスは敬語やマナーの実践は苦手だった。どうしても、それがうまくいかなくて、騎士科に行く羽目になったのであって、マナーの知識や貴族の常識は普通科で卒業できるくらいはある。
気軽に話してはいるがリーンリアナは側妃なのだ。
文官たちの対人能力の向上に役立ってはいても、本来なら彼らと接する公務や機会もなければ、話をすること自体が異例な離宮の住人である。意地の悪い見方をすれば、離宮の中で親族の女性や侍女たちとだけ接して生きている筈の側妃が男を侍らして楽しんでいるようにも見えるのだ。
一夫一婦制を重んじる中流階級と政略結婚が主となる上流階級の結婚と恋愛の概念は異なる。中流階級ならともかく、上流階級は結婚相手とは跡継ぎを残すためのもの。その後の退屈な人生に色を添えてくれるのが恋愛という概念で、中流階級のように伴侶に誠実である必要はない。
夜会で知り合った人々に失礼だからとリーンリアナが彼らと話してしまうのは、リーンリアナが中流階級の受ける教育を受けてきたからだ。
時間がなかったので夜会に出る為の最低限のことは教えても、このことは必要がないと教える暇がなかった。
教える必要ができた今は近衛騎士がいるので、彼らの前でそれを窘めることはリーンリアナの面目を潰すことになるのでできない。それくらいの分別はユーニスも持っている。
「王太子の側妃のくせにどうしようもない女だな」
男の声に女騎士たちは振り返って声の主を見た。
近衛騎士たちは変わりない様子だが、男が離宮に近付いてきた時から警戒をしていた。同じ制服を着ていても、その男は離宮の警護を割り振られてはいない。
一瞬、リーンリアナは何を言われたのかわからなかった。
「リーンリアナ様になんてことを言うの?!」
「あなた、リーンリアナ様にこんなこと言うなんて、何様よ?!」
女騎士たちは毛を逆立てた猫のように、近衛騎士であることを表わす白い騎士の服を着た男に食って掛かる。
彼女たちの声で、リーンリアナも正気に返った。
姿も見えないのに名乗ろうともしない相手から批難されるような真似をリーンリアナはしたおぼえもないので、自然と眉間に皺が寄った。
「ダグラス・ベルガー! 誰に向かって口をきいているのか、わかっているのか!」
近衛騎士であろう声が訪問者を詰問する。
「リーンリアナ様が側妃らしくないことを窘めている」
同僚にはまともに返事をするようだ。
あの王家の催しに出る付け焼刃な教育で、リーンリアナは側妃なのに完全に舐められていることに気付いた。
ここは側妃らしく振る舞って、敬意を引き出さなければならない。と、女の戦いの為の教えられた知識を思い出す。
リーンリアナは貴族として武装することにした。
貴族とは相手に弱みを見せず、たとえ後ろが断崖絶壁であろうが我が家の居間でもあるかのように振る舞う。完璧に似合う服装をするのも相手に攻撃する隙を与えない為のものだ。
そう、姿が見えないなら声と言葉遣いで相手に自分の格を見せなければいけない。
これは夜会に出席する為にユーニスに教えられたことだ。
せっかく、奏上する機会があっても、その前後で貴族に侮られてしまえば効果が見込めないことすらある。
離宮を出ない姉や叔母たちの安全、奏上する機会のない侍女や女騎士たちの分の代わりにも、リーンリアナは一人で戦わなければいけなかった。
国王や父という味方はいても、彼らは場を用意し、奏上する機会を与えてくれただけだ。奏上者の人格などはリーンリアナ本人が責任を負わなければ、貴族たちはリーンリアナの告発をまともには取り合ってくれないから。
「どなたなの、ユーニス?」
訪問者の姿を見ることのできないリーンリアナは気分を害した声のまま女騎士に尋ねることしかできない。
「お前に名乗る名はない。わかっているのか? 側妃ってのは誑かしていい男は夫だけだなんだぞ? 貴族の奥方みたいに好きに振る舞える立場じゃない。不貞の現場でも抑えられたら良くて幽閉、悪くて死罪。下手をすれば不貞の噂だけで幽閉されるってのに暢気なもんだ」
名乗らなくても近衛騎士が呼んでいたのでわかるが、不貞を疑うその言葉にリーンリアナはカッとなった。
自分を愛そうともしない夫を誑かせることは姉であるリーンセーラのふりをしなければできないし、リーンリアナが他の男を誑かしたおぼえなどない。
「何をおっしゃってるのかしら。私はそのように見えることは何もいたしておりません。周りに人がいるところで話していただけで、疑われるなんて心外ですわ」
いくら貴族の考え方や社交に疎いからといって、リーンリアナのしていることは門の扉越しの会話であって、それは不貞行為と見なされるほどのものでもない。未婚女性でも親族や婚約者以外の男性と二人きりで同じ部屋にいる場合は扉を開けておくのが礼儀ぐらいだ。にもかかわらず、直接、顔も合わせずに浮気しているなどというのは、言っているほうがおかしい。
「事務方を日参させて悦に浸っているじゃないか」
文官たちのことを持ち出されても、彼らが勝手来るのであって、リーンリアナ本人が招いたおぼえはない。
それどころか、訪問者たち自体がリーンリアナの意向など聞かずに押し寄せて来ているのである。
無害そうな話をしてくれる文官すら自ら招いてこさせているわけではないので、そんなことを言われる筋合いはない。
頭に来たリーンリアナはやり返すことにした。
「文官の方々の物珍しいお話で無聊を慰めているだけだというのに、人を楽しませることの一つもない人間はおかしなことをおっしゃいますのね」
訪問者たちには二種類の人間がいる。リーンリアナを褒め称える者と文官たちのように思考の散歩で世界を広げてくれる話をしてくれる者。
この男が言うように日参してもらってリーンリアナが嬉しいと思うとすれば、文官たちの話だ。
アルバートに愛されないことを悟ったとはいえ、リーンリアナは誰かに崇拝して欲しいとは思わない。姉や叔母たちは優しいし、侍女や女騎士たちも良い話し相手になってくれる。
おかげで今以上のものを求める気は起きない。
暗に楽しませようともしないことでリーンリアナは訪問者を攻撃する。
「側妃様のおっしゃる通りだ。話に来たのなら、相手を楽しませる話をするくらいの礼儀を身に付けてから来るんだな」
女騎士と共に門を守っている先程の近衛騎士が言う。
「毒婦の肩を持つつもりか、ケネス・カッスルボーン!」
「礼儀を弁えていない人物は狼藉者として排除するが構わないのか、ダグ」
「クッ!」
蠱惑的な魅力溢れるリーンリアナと会いたいという訪問者が離宮に押し寄せ、女騎士だけでは対応できなくなる始末だった。急遽、離宮の女騎士たちと厨房の者が寝泊まりする棟からの知らせを受けて近衛騎士が出動する騒動にまで発展した。
ユング・ホルボーンのおかげで近衛騎士たちが常駐するようになり、興味本位だった訪問者たちも月日が経つにつれて減っていき、リーンリアナの夜会出席の騒ぎはそれで収まったかのように思えた。
しかし、リーンリアナが訪問者たちと話をしていたせいで、訪問者の数は思ったほど減らなかった。
リーンセーラをはじめ、他のハルスタッド一族の女は夫や侍女たちとしか話さないというのに、リーンリアナは侍女の代わりに女騎士が身の回りの世話をしてくれたことから、女騎士とも話すようになっていた。その延長で訪問者たちとも話をしてしまったのだ。
それが如何に側妃としてふさわしくない行動なのか、リーンリアナにはわからなかったらしい。
他の側妃は自分や自分の王子王女の味方を作るべく貴族たちと会うこともある。それが王や正妃とは違う角度から貴族に国を支えさせる側妃の仕事の一つでもあるから、貴族と会うことは禁じられてはいない。
だが、そういった側妃の仕事を免除され、王家に保護されているハルスタッド一族出身であるリーンリアナは免除されているが故に貴族と会う必要はない。
貴族同士の婉曲的な話し方も、感情を笑顔の下に押し隠すことも、実家の権力を拡大させる為の情報収集も駆け引きも何もかも知らないリーンリアナ。言葉遣いと食事マナーなどの基本的な礼儀作法と読み書き、裁縫や刺繍くらいしかできない貴族らしくない伯爵令嬢。合同誕生会ではアルバートが誘わなかったので踊らなかったものの、貴族の嗜みの一つであるダンスすら教えられていない。
社交で必要でもない親族以外の男と交流を持つ意味も知らないリーンリアナ。
あまりにも貴族らしくなく、高位貴族の一員である伯爵家の令嬢とは思えない教育。
それが離宮という籠の中で生きることを宿命付けられたハルスタッド伯爵令嬢の教育方針だった。
あるがままを受け入れ、何も求めず、満足する無欲で王族に安らぎを与えられる存在として作り上げられた美しき魔物。それがハルスタッド伯爵令嬢の正体だ。
離宮の側妃が夜会に出席することも、ここ数十年は離宮の側妃が出席する者がいなかったにもかかわらず出席したリーンリアナ。
今回、妻が引き起こした諸々にアルバートは頭が痛かった。
それは父が積極的にリーンリアナを利用していることがわかっていても、変わらない。
そして――
「アルバート殿下。リーンリアナ様が・・・」
王太子の執務室に低姿勢で入室してきたアルバート付きの侍従がアルバートに耳打ちする。
リーンリアナが今度は何をしでかしたのか聞きたくないけれど、聞くしかないアルバートである。
ろくでもないことに決まっているのだが聞くしかない。
拒否権はない。
アルバートは溜め息を吐いて、心構えをすると聞いた。
「リーンリアナがどうかしたのか?」
「騎士と喧嘩いたしました」
侍従が静かな声で告げた内容にアルバートの声が裏返った。
「喧嘩?!」
何故、そうなった?!
あとで顔を出した時に聞き出さなくては、とアルバートは頭の片隅におぼえておくことにした。
夜会への出席でリーンリアナの生活は一変した。
翌日、いつものように女騎士たちとおしゃべりを楽しもうとリーンリアナは自室から椅子を持ち出した。フィリアたち侍女が小さなテーブルやブランケット、ショールなどを手にしてその後に従う。
中庭と外界を遮る門に近付くと、そこが騒がしいことに気付いた。その中に女騎士のエミリーの声があった。
リーンリアナは足を速めていつもの場所に椅子を置いて門越しに呼びかける。
「エミリー。どうしたの?!」
「リーンリアナ様! お帰り下さい!」
「リーンリアナ様?! そこにおられるのですか?! 是非、一目だけでも麗しいお姿をお見せくださいませ」
「お声だけでもお聞かせください、リーンリアナ様!」
「おい! この門を開けろ! リーンリアナ様に会えないじゃないか!」
エミリーだけなく、聞き慣れない男たちの声が聞こえてくる。それになんか興奮しきっているようにも聞こえ、騒ぎも起きくなっていた。
何が起こっているのか、リーンリアナにはさっぱりわからないが恐怖を感じた。
「側妃様! 来てはなりません! お戻りください!」
おぼえのない男の声でそう言われて、リーンリアナは更に混乱した。
「リーンリアナ様・・・! 今日のところは戻りましょう」
フィリアに促され、リーンリアナは椅子もそのままに自室に逃げ帰った。
食事を運んで来る時に侍女たちがあの騒ぎについてリーンリアナが女騎士たちから聞いた話では、昨夜の王女たちの合同誕生会で出席したリーンリアナを見た人物たちがお伺いを尋ねに出した従者などでは要領を得ないからと押しかけてきて、会わせてくれと女騎士たちと押し問答したらしい。
おかげで夜勤の女騎士たちも駆り出されて対応することになり、近衛騎士にも応援を頼まなければいけない事態だった。
リーンリアナは自分で対処できない事態が恐ろしくなった。
そこは近衛騎士団団長のユング・ホルボーンがしばらく近衛騎士たちも離宮の門を守ることに決めてくれた。他の場所の女騎士たちよりも騎士らしくない離宮の女騎士たちだけでは収められなかった騒ぎも、近衛騎士たちが数人いることで迷惑な来訪者たちも大人しくなって、秩序は回復した。
女騎士たちと話すように、リーンリアナは羊のように大人しくなった来訪者たちとも話すようになった。
よく考えれば、アルバートと顔を合わすことが怖かった時期も門越しに話をしていたのだ。アルバートは夫で、来訪者たちはそうではないからと拒否するのも、せっかく来てくれた相手に悪いと相手をするようになった。
アルバートはいい顔をしなかったが、異性との会話は侍女や女騎士たちとは違う意味で楽しかった。彼女たちが話さないようなことまで色々なことを知っている彼らの話は興味深かった。
侍女や女騎士たちの知る噂話も来訪者たちの話す噂話や事柄に関連することも多く、時には彼女たちよりも詳しいことや早く噂を耳にすることもある。勿論、面白くない話題もあったが、せっかく話してくれているのでリーンリアナはとりあえず耳を傾けた。
二度と顔を合わせることがないだろう相手と話すのも不思議だったが、それなりに楽しい日々だった。
女騎士たちとのおしゃべりは来訪者がいるのでできなくなったが、王族たちが離宮に足を運ぶのに来訪者が遭遇することもあって、それで来訪者が帰ってしまった後が女騎士たちと過ごす時間になった。
日が経つにつれ、来訪者は減って行った。
それと同時に、女騎士たちと過ごす時間が以前と同じように増えていく。
残った来訪者の中には父親が紹介してきたベッケンバウアー公爵とイオン卿もいて、リーンリアナはそのことを深く考えていなかった。
父親が彼らを紹介した理由はベッケンバウアー公爵の姉がリーンリアナに毒を盛ったことをリーンリアナ自身が許しているということを、ベッケンバウアー公爵に示す為だったと離宮の門を潜る前に教えられた。
加害者家族と被害者家族の間で禍根を残さないようにすること。加害者家族が罪悪感や贖罪で悩ませないようにするのが今回の目的だったそうだ。
門の扉越しに話しているうちに、リーンリアナはあまり話したがらない皮肉家のベッケンバウアー公爵とそれを宥めるように話すイオン卿の関係も知るようになった。
イオン卿はまだ少年だったベッケンバウアー公爵が爵位を継承する際に宰相によって付けられた教育係らしい。
それ以外にも、あの事件の詳しい背景が見えてきた。
リーンセーラが毒で倒れたあの時にベッケンバウアー公爵の姉はまだ女子が学校に通える16歳になっておらず、学校に通うアルバートと会う機会が減ってしまった。アルバートと同級生だったベッケンバウアー公爵が学校での様子を教えいたにもかかわらず、中々会えないところに寵愛する側妃の話を聞いて犯行に及んでしまったそうだ。
聞けば聞くほど、ベッケンバウアー公爵の姉はリーンリアナにとって他人だとは思えなくなった。
多少時期はずれても、ほぼ同じ時に同じようにアルバートに感じていた公爵令嬢は自分の合わせ鏡のような存在だと思った。
そんな彼女を犯行に駆り立てたアルバートと自分。実際はアルバートとリーンセーラ。
だが、自分もリーンセーラもそんな気はなかった。自分は愛されていなくても妻で、リーンセーラは一方的に惚れられているだけ。
それでも、自分たちの存在でベッケンバウアー公爵の姉は傷付いたのだ。かつての自分のように。
因縁があるにもかかわらず、話をしにやって来るベッケンバウアー公爵の真意はリーンリアナにはわからない。
わからないなりにも、話をしに来たのだろうと他の来訪者と同じように受け入れる。彼の姉と似た自分ができるのはそれくらいだったから。
だが、ベッケンバウアー公爵がリーンリアナのところに訪れることを快く思っていなかった人物がいた。
それがベッケンバウアー公爵の友人のダグラス・ベルガーだった。
その日、ベッケンバウアー公爵とイオン卿はまだ現れていなかった。この二人はいつも一緒で、一人では来ない。
他の訪問者もいなかったので、リーンリアナは女騎士たちとおしゃべりを楽しんでいた。近衛騎士もいたが、彼らは側妃であるリーンリアナが相手なので分をわきまえて女同士の会話には入らず、職務を全うしている。
女騎士たちとリーンリアナが心置きなく話していたら、あの夜会に参加する前と変わらないような気すらしてくる。
しかし、門の外側には近衛騎士もいて、彼らが声を出さなければリーンリアナは気にならないが、女騎士たちは彼らの姿が見えるので控え気味だ。
「ここに来る人たちもようやく落ち着いたわね」
「そうね。やっとみんなと普通に話せるようになるわ」
リーンリアナがそう言ったら、ユーニスは首を横に振って言った。
「そうはいかないわよ。訪問者になんか文官の人が増えてきたじゃない?」
「文官って、家庭教師みたいに色々なことをよく知っているあの人たち?」
ユーニスとメリッサはクスクスと笑う。
「リーンリアナ様ったら、もう」
「ええ。ずーっと、よくわからないことを語ってる人たち。リーンリアナ様ったら、よくあの人たちの話を聞いてあげているけど、そのせいで数が増えているような気がする」
「増えているの? そうだったかしら?」
訪問者たちは話しかける最初に名前を名乗ってくれるが、夜会の時に会った人間が多すぎてリーンリアナには顔と名前が一致するどころか、誰と会ったのかさえ記憶があやふやだ。因縁のあるベッケンバウアー公爵はおぼえていても、顔どころか髪の色や目の色すらおぼえていない。一緒にいたイオン卿のことは名前すら忘れていて、ベッケンバウアー公爵と一緒にいた人ぐらいの認識しかない。
そんな訪問者たちも最初は多すぎて、やはり誰が誰なのかリーンリアナはおぼえてもいなければ、姿を目にすることもないのでその数もわからない。
わかっているのは、近衛騎士が常駐して一週間は大勢が集まっていて騒がしいと思ったくらいだ。
「増えているわよ。始めのほうはいなかったけど、始めのほうの人が減ったと思ったら、自分の世界に籠もってる感じの文官が増えてきて、自分の好きなことばかり話していくんだもん。気がつくでしょ?」
それを聞いていた近衛騎士たちの目は思い出して声もなく笑っていたが、話している相手を見られないリーンリアナには思い当たらない。
だから、夜会に参加していなかった文官たちが夜会に参加していた同僚から専門のことを嫌がらずに聞いてくれる女性がいると聞いて、次々とやって来るようになったことなどリーンリアナが気付く筈もなかった。
リーンリアナとしては文官たちの話す内容が目新しくて聞いていたのと、侍女や女騎士たちの話を聞いているように聞いていただけなのだが、能力はあっても対人能力に難があったり、異性の好む会話がわかっていない内向的な文官たちからしたら、顔も合わせずにすむおかげで安心して話せ、今まで同僚くらいにしか興味を持ってもらえなかった話の内容を喜んでもらえるので彼らは喜んで何度も足を運ぶようになっていた。
「そうなの? 気付かなかったわ」
「もう。リーンリアナ様ったら、暢気なんだから」
「笑い事じゃないわよ、メリッサ」
訪問者を侍女や女騎士たちと同じようにしか考えていない様子にメリッサは苦笑する。
そんな同僚をユーニスは諫めた。
ユーニスは敬語やマナーの実践は苦手だった。どうしても、それがうまくいかなくて、騎士科に行く羽目になったのであって、マナーの知識や貴族の常識は普通科で卒業できるくらいはある。
気軽に話してはいるがリーンリアナは側妃なのだ。
文官たちの対人能力の向上に役立ってはいても、本来なら彼らと接する公務や機会もなければ、話をすること自体が異例な離宮の住人である。意地の悪い見方をすれば、離宮の中で親族の女性や侍女たちとだけ接して生きている筈の側妃が男を侍らして楽しんでいるようにも見えるのだ。
一夫一婦制を重んじる中流階級と政略結婚が主となる上流階級の結婚と恋愛の概念は異なる。中流階級ならともかく、上流階級は結婚相手とは跡継ぎを残すためのもの。その後の退屈な人生に色を添えてくれるのが恋愛という概念で、中流階級のように伴侶に誠実である必要はない。
夜会で知り合った人々に失礼だからとリーンリアナが彼らと話してしまうのは、リーンリアナが中流階級の受ける教育を受けてきたからだ。
時間がなかったので夜会に出る為の最低限のことは教えても、このことは必要がないと教える暇がなかった。
教える必要ができた今は近衛騎士がいるので、彼らの前でそれを窘めることはリーンリアナの面目を潰すことになるのでできない。それくらいの分別はユーニスも持っている。
「王太子の側妃のくせにどうしようもない女だな」
男の声に女騎士たちは振り返って声の主を見た。
近衛騎士たちは変わりない様子だが、男が離宮に近付いてきた時から警戒をしていた。同じ制服を着ていても、その男は離宮の警護を割り振られてはいない。
一瞬、リーンリアナは何を言われたのかわからなかった。
「リーンリアナ様になんてことを言うの?!」
「あなた、リーンリアナ様にこんなこと言うなんて、何様よ?!」
女騎士たちは毛を逆立てた猫のように、近衛騎士であることを表わす白い騎士の服を着た男に食って掛かる。
彼女たちの声で、リーンリアナも正気に返った。
姿も見えないのに名乗ろうともしない相手から批難されるような真似をリーンリアナはしたおぼえもないので、自然と眉間に皺が寄った。
「ダグラス・ベルガー! 誰に向かって口をきいているのか、わかっているのか!」
近衛騎士であろう声が訪問者を詰問する。
「リーンリアナ様が側妃らしくないことを窘めている」
同僚にはまともに返事をするようだ。
あの王家の催しに出る付け焼刃な教育で、リーンリアナは側妃なのに完全に舐められていることに気付いた。
ここは側妃らしく振る舞って、敬意を引き出さなければならない。と、女の戦いの為の教えられた知識を思い出す。
リーンリアナは貴族として武装することにした。
貴族とは相手に弱みを見せず、たとえ後ろが断崖絶壁であろうが我が家の居間でもあるかのように振る舞う。完璧に似合う服装をするのも相手に攻撃する隙を与えない為のものだ。
そう、姿が見えないなら声と言葉遣いで相手に自分の格を見せなければいけない。
これは夜会に出席する為にユーニスに教えられたことだ。
せっかく、奏上する機会があっても、その前後で貴族に侮られてしまえば効果が見込めないことすらある。
離宮を出ない姉や叔母たちの安全、奏上する機会のない侍女や女騎士たちの分の代わりにも、リーンリアナは一人で戦わなければいけなかった。
国王や父という味方はいても、彼らは場を用意し、奏上する機会を与えてくれただけだ。奏上者の人格などはリーンリアナ本人が責任を負わなければ、貴族たちはリーンリアナの告発をまともには取り合ってくれないから。
「どなたなの、ユーニス?」
訪問者の姿を見ることのできないリーンリアナは気分を害した声のまま女騎士に尋ねることしかできない。
「お前に名乗る名はない。わかっているのか? 側妃ってのは誑かしていい男は夫だけだなんだぞ? 貴族の奥方みたいに好きに振る舞える立場じゃない。不貞の現場でも抑えられたら良くて幽閉、悪くて死罪。下手をすれば不貞の噂だけで幽閉されるってのに暢気なもんだ」
名乗らなくても近衛騎士が呼んでいたのでわかるが、不貞を疑うその言葉にリーンリアナはカッとなった。
自分を愛そうともしない夫を誑かせることは姉であるリーンセーラのふりをしなければできないし、リーンリアナが他の男を誑かしたおぼえなどない。
「何をおっしゃってるのかしら。私はそのように見えることは何もいたしておりません。周りに人がいるところで話していただけで、疑われるなんて心外ですわ」
いくら貴族の考え方や社交に疎いからといって、リーンリアナのしていることは門の扉越しの会話であって、それは不貞行為と見なされるほどのものでもない。未婚女性でも親族や婚約者以外の男性と二人きりで同じ部屋にいる場合は扉を開けておくのが礼儀ぐらいだ。にもかかわらず、直接、顔も合わせずに浮気しているなどというのは、言っているほうがおかしい。
「事務方を日参させて悦に浸っているじゃないか」
文官たちのことを持ち出されても、彼らが勝手来るのであって、リーンリアナ本人が招いたおぼえはない。
それどころか、訪問者たち自体がリーンリアナの意向など聞かずに押し寄せて来ているのである。
無害そうな話をしてくれる文官すら自ら招いてこさせているわけではないので、そんなことを言われる筋合いはない。
頭に来たリーンリアナはやり返すことにした。
「文官の方々の物珍しいお話で無聊を慰めているだけだというのに、人を楽しませることの一つもない人間はおかしなことをおっしゃいますのね」
訪問者たちには二種類の人間がいる。リーンリアナを褒め称える者と文官たちのように思考の散歩で世界を広げてくれる話をしてくれる者。
この男が言うように日参してもらってリーンリアナが嬉しいと思うとすれば、文官たちの話だ。
アルバートに愛されないことを悟ったとはいえ、リーンリアナは誰かに崇拝して欲しいとは思わない。姉や叔母たちは優しいし、侍女や女騎士たちも良い話し相手になってくれる。
おかげで今以上のものを求める気は起きない。
暗に楽しませようともしないことでリーンリアナは訪問者を攻撃する。
「側妃様のおっしゃる通りだ。話に来たのなら、相手を楽しませる話をするくらいの礼儀を身に付けてから来るんだな」
女騎士と共に門を守っている先程の近衛騎士が言う。
「毒婦の肩を持つつもりか、ケネス・カッスルボーン!」
「礼儀を弁えていない人物は狼藉者として排除するが構わないのか、ダグ」
「クッ!」
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