生まれ変わっても、あなたは姉を愛してる

プラネットプラント

文字の大きさ
上 下
9 / 9

第九話

しおりを挟む
 詮索されたくない様子を察したのか、2人は話題を振ることはなく、私は好きなだけ物思いに耽ることができた。

(ゆっくり考えられると思ったけど、そうでもないみたい)

 彼から物理的に距離をおいても、人里離れた宿には人里離れた宿ならではの人の目がある。都市部や大規模なホテルなら関心を持たれなくても、20室もない小規模なホテルや宿は違う。

(折角、ここに来たのに・・・。――でも、ハトガヤさんの言うように過ごすのも、手かも)

 自然を楽しんで、お風呂を楽しんで、彼のことは一旦、棚に上げることもできる。

(彼のことを忘れて、贅沢な時間の使い方をするのもいいかもしれない)

 彼と別れるかどうか、冷静に考えようと思った旅だったけど、彼のこと自体を考えない時間にするのも一つの考え方だ。一時的に忘れることで、彼との関係も客観的に見えるようになるかもしれない。
 今のままでは、旅先ですら、彼に縛られているようなもの。

(別れたいと思っているのに、彼のことを考えているなんて。なんて、馬鹿らしいんだろう。生まれ変わっても、都合の良い女になったのは、当たり前かもしれない)

 エンジン音とタイヤの摩擦音。それにハトガヤさんとミノベさんの話す声。
 路線バスで向かっても変わらないだろう、BGM。
 明かりが少ないせいか、眠気が襲ってくる。

 ・
 ・
 ・

「・・・さん、・・・タナカさん」
「? ん? はい?」

 ミノベさんの声で目が覚める。

「着きましたよ」

 天柳旅館に着いたらしい。
 窓から見える天柳旅館はライトアップもされておらず、玄関や門の明かり以外は、中の光が漏れているだけだった。日本旅館が暗闇の中にポツンと立っているように見える。その暗闇は山であり、森である木々だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あてつけ

プラネットプラント
恋愛
それはある男が完璧な兄とその兄にいつも頼る恋人へのあてつけから、兄の恋した女性と付き合うために恋人を捨て、その相手と結婚する話。 『うちのヤンデレがすみません!』の親世代の話。刑の両親の話は『母親として雇われました』をご覧下さい。

生まれる前から

プラネットプラント
恋愛
臨月になっても生まれてこない赤ちゃんに首を傾げるエルフのお母さんたちのお腹の中で会話している二人の話。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?

キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。 戸籍上の妻と仕事上の妻。 私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。 見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。 一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。 だけどある時ふと思ってしまったのだ。 妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣) モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。 アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。 あとは自己責任でどうぞ♡ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

【本編完結】記憶をなくしたあなたへ

ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。 私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。 あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。 私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。 もう一度信じることができるのか、愛せるのか。 2人の愛を紡いでいく。 本編は6話完結です。 それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます

処理中です...