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第七話

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 駅のロータリーを出てすぐ、ミノベさんは声をかけてきた。

「タナカさん、天柳旅館は初めてですか?」

 ドアを入ってすぐの1列目の席に座っているミノベさんは、私を見て言った。私は同乗者がいると聞いて、私は奥の2列目の席に座っている。
 対向車のヘッドライトが車内を照らす。

 車内灯に照らされたミノベさんの横顔を見ながら、自己紹介をした時に見た顔を思い出す。すっきりとした顔立ちで、三十代になっているかどうか。まだ二十代かもしれない。都心から通って二時間以上かけて来る常連にしては、若すぎる気がした。子どもの頃から家族旅行で来ていたのだろうか。
 それなら、四十前後のハトガヤさんと親しい理由も理解できる。
 車内灯は明るくなく、それ以上はわからない。

「ええ。初めてです、ミノベさん。どうして、わかったんですか?」
「最終バスが早いと知っていたら、送迎バスを予約するじゃないですか。乗るまで一人だと思ったんです」

 それを聞いて、引っ掛かりをおぼえた。天柳旅館は送迎バスの利用客に相乗りの事前連絡をするのだろうか。

「いつもは同乗者がいないんですか?」
「いる時もあれば、いない時もあります。こんな時間ですから外を見ても面白くないし、着く頃には露天風呂が閉まってますし」
「え? 露天風呂、入れないんですか?」

(静かな山奥の温泉旅館に惹かれて決めたにもかかわらず、最大のウリの露天風呂に入られないなんて)

 ミノベさんの教えてくれた事実にがっかりした。

(これも田舎の洗礼?)

「あまり遅い時間は警備上、無理なんです。その分、絶景ですよ」
「警備上?」
「大きなホテルじゃないから、痴漢が出ても対応しきれないんですよ。だから、夜勤だけの時間帯は露天風呂は閉まっているんです」
「ああ、そうなんですね」

(天柳旅館が山奥にあることは動かしがたい事実だし、大規模なホテルでもないし、露天風呂の警備も夜までは無理か)

「その代わり、ホームページにもあるように室内風呂は全室、檜の香りが楽しめる檜風呂ですよ」
「檜風呂が全室に?!」

 全室、檜風呂が付いていると聞いて、驚いた。
 行先は旅行サイトで辺鄙なところにある山奥の温泉で選んだから、ホームページまではチェックしていなかった。

「ご存じでなかったんですか?」
「評価の高い宿を選んだんで・・・」

 ミノベさんは運転席のハトガヤさんに向かって言う。

「評価、高かったんだって、ハトガヤさん」
「聞こえてるよ、ミノベさん。――数ある宿の中から選んでいただいて、ありがとうございます、タナカ様」
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