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第六話

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 電話を切った後、駅舎に戻った。バス乗り場にもタクシー乗り場にもベンチはなく、長時間待てるようにできていないからだ。
 駅舎には自動販売機とついていないストーブ。それに造り付けのベンチがあった。
 そこに座っていると、入り口から仕事帰りだと思われる人がチラホラとやって来て、同じように座る。
 やがて、駅員のアナウンスと共に彼らは改札に向かう。
 私も立ち上がって駅舎を出た。
 ロータリーには自家用車やタクシー、バスが停まっていて、天柳旅館の名前が書かれた小型バスの姿も見える。
 私はロータリーの入り口付近に停められている旅館のバスに近寄った。

「すみません」

 窓越しに声をかければ、運転手さんはシートベルトを外して、身を乗り出してくる。

「宿泊を予約しているタナカですが」
「ああ。タナカ様ですね。連絡、受けています」

 旅館のバスのドアが開く。

「ありがとうございます」

 私は乗り込みつつ、礼を言った。

「災難でしたね。天柳旅館の最寄りまで行くバスの最終、早かったでしょ。よくあるんですよね、最終のバスに乗れずにタクシーで来られる方は」
「そうなんですか」
「ええ。よくあることですよ。あとは、飲食店が開いていなくて、コンビニで買う方とか」
「え?」
「ここいらの飲食店は13時30分にはランチタイムが終わって、一度、閉めるんですよ。次はディナータイムの17時まで店を開けないから、昼食、食いっぱぐれる人、多いんですよね。夜も閉めるの早いし、空いているの、コンビニくらいなんですよ」
「そ、それは・・・」

 私も同じ失敗しそうだ。

(田舎の洗礼、こわっ!)

「夕食はとってきました? まだなら、連絡入れますよ」

 運転手は気軽に言う。

「夕食付いていないプランなので・・・。それに今からの時間でも、いいんですか?」
「大丈夫です。賄いだし、今ならまだ作る前だろうし。――あっ。賄いでもかまいませんか?」
「ええ、大丈夫です」

 運転手さんはスマホで天柳旅館に賄いの追加を連絡する。

 コンコン、とバスの窓を軽くノックする音がする。

「お待たせ、ハトガヤさん」
「――あっ。いらっしゃい、ミノベさん。お客様もいるけど、大丈夫ですか?」

 運転手のハトガヤさんとミノベさんの会話は気安いところがある。どうやら、送迎バスの予約を入れていたお客は常連だったようだ。

「こんなお客様なら大歓迎だよ」

 ハトガヤさんに言われて、私を見たミノベさんは歓迎するように笑顔で言う。

「ミノベさんを迎えに来たおかげで、お客様をタクシーで来させずにすんだよ」
「それは良かったよ。――初めまして、ミノベです」
「タナカです」

 名前を名乗ると、ハトガヤさんがミノベさんに話しかける。

「今日の賄いはミノベさんの好きなふわふわ卵のオムライスだよ」
「肉がなくなったから、オムライスになったんだろ」
「それは言わないお約束ってね。――まともなもん食べたいなら、もっと、早く来てくれなきゃ」
「こっちには仕事があるんだって」
「なら、諦めて肉なし卵料理食べてもらわなきゃ」

 笑い合って、二人の会話は終わった。

「じゃあ、座って、シートベルト締めてください。ネズミ捕りに捕まりたくないんでね」
「誰もこんなこんな時間に取り締まりなんかしないよ」

 ミノベさんは笑いながらシートベルトを締める。

「タナカ様もシートベルト締めましたね。発車しますよ」
「はい、締めました」
「発車します」

 ハトガヤさんの朗らかな声の後、小型バスは天柳旅館に向けて動き出した。
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