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悪役令嬢の結末
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アクセルが食堂に姿を現すと、ノミナとウィレムの姿が既にあった。他の家族の姿は年長の子どもたち。
ウィレムの母モリーはペニーと共に幼い子どもたちを起こして、連れて来ようとしている最中なのだろう。
これが母国から二つ国を挟んだ仮住まいの家での毎朝の風景だ。
いつもなら、アクセルが来たことに気付くまで、ノミナは対処に慣れていることから一日中面倒を見てくれているウィレムを罵っている声が食堂の外にも聞こえる。
何かに憑り付かれているノミナは父親であるアクセルの前では借りてきた猫のように大人しい。
それは悪役令嬢だからといって、父親に対しても傲慢になるのは許されていないからだとアクセルは考える。悪役令嬢の父親は娘を溺愛しているか、無関心かのどちらかで悪役令嬢たる傲慢な言動を野放しにしている。
また、父親の愛情かそれがなければその権力を自分のものだと誤認し、自滅の道を選ぶのが悪役令嬢である。
従って、ノミナはアクセルに対して表面上は従順だ。アクセルとは血の繋がりがないと知らないノミナは、父親を家長として敬うしかないからである。
しかし、アクセル以外に対する態度は最悪だった。国を離れる前に離婚を成立させ、ウィレムの母親モリーと再婚したと言うのに相変わらずモリーを愛人呼ばわりし、ウィレムやペニー、その弟妹を愛人の子どもたちと呼ぶ。
アクセルの姿がない食卓にはノミナの罵り声と他の子どもたちの感情を押さえつけられない声が飛び交うのだが、今日はそれがなかった。
その為、アクセルは珍しくウィレムがノミナの癇癪にてこずらされて、二人がまだ降りて来ていなかったのかと思ったくらいだ。
だが、そんなアクセルの戸惑いとは裏腹に子どもたちは明るい表情で話に熱中していて、食卓の上にアクセルの切り分けるパンとハムの塊もなければ、誰も席にも着いていない。
「おはよう」
アクセルが声をかけると、ようやく子どもたちは気付いたようだ。振り返って、口々に挨拶が返ってくる。
「おはようございます、お父様」
「おはようございます、父さん」
「おはようございます、アクセル」
呼び方は違っても、血の繋がりがあろうがなかろうが、アクセルにとっては大切な子どもたちだ。
「あのさ。父さん、――」
「ランス」
嬉しさが耐えきれない少年がアクセルに何か伝えようとするのをウィレムが睨みつけて黙らせる。
「お父様。私・・・」
何か言いたかったのか、ノミナは言葉を探した。
躊躇うように目を伏せる仕草にアクセルは懐かしさをおぼえた。
「ノミナ?」
力付けるようにウィレムがノミナの肩に手を置く。
ノミナはウィレムの顔を見た後、意を決して父親に顔を向けた。
「私。元に戻れたみたい」
「ノミナ?! それは本当か?!」
「ええ。朝起きたら元に戻れていて・・・。もう、一時間以上経つのに、まだこうして話せるの」
「ウィレム?」
確認するようにアクセルが目を向けると、ウィレムは嬉しさで崩れそうなのを堪えた顔で頷く。
今までのパターンからノミナが元に戻ったかもしれない事実にアクセルの胸は高鳴り、感極まった声は震える。
「おかえり、ノミナ・・・」
ノミナは広げられた父親の腕の中に飛び込んで言った。
「ただいま戻りましたわ、お父様」
アクセルたちが母国を出て二カ月。観光とショッピングをしている以外は不機嫌なノミナに耐えていた家族たちの努力は報われたのだった。
十数年後、かつてウィ二フィール学園と呼ばれた高等教育機関は新たな国名を冠したエスター学園と改名した。
国王の後ろには国王の親族としてエスター伯爵とエスター伯爵令嬢と呼ばれた茶髪の女性がいた。国王はエスター伯爵の庶出の息子だったという・・・。
ウィレムの母モリーはペニーと共に幼い子どもたちを起こして、連れて来ようとしている最中なのだろう。
これが母国から二つ国を挟んだ仮住まいの家での毎朝の風景だ。
いつもなら、アクセルが来たことに気付くまで、ノミナは対処に慣れていることから一日中面倒を見てくれているウィレムを罵っている声が食堂の外にも聞こえる。
何かに憑り付かれているノミナは父親であるアクセルの前では借りてきた猫のように大人しい。
それは悪役令嬢だからといって、父親に対しても傲慢になるのは許されていないからだとアクセルは考える。悪役令嬢の父親は娘を溺愛しているか、無関心かのどちらかで悪役令嬢たる傲慢な言動を野放しにしている。
また、父親の愛情かそれがなければその権力を自分のものだと誤認し、自滅の道を選ぶのが悪役令嬢である。
従って、ノミナはアクセルに対して表面上は従順だ。アクセルとは血の繋がりがないと知らないノミナは、父親を家長として敬うしかないからである。
しかし、アクセル以外に対する態度は最悪だった。国を離れる前に離婚を成立させ、ウィレムの母親モリーと再婚したと言うのに相変わらずモリーを愛人呼ばわりし、ウィレムやペニー、その弟妹を愛人の子どもたちと呼ぶ。
アクセルの姿がない食卓にはノミナの罵り声と他の子どもたちの感情を押さえつけられない声が飛び交うのだが、今日はそれがなかった。
その為、アクセルは珍しくウィレムがノミナの癇癪にてこずらされて、二人がまだ降りて来ていなかったのかと思ったくらいだ。
だが、そんなアクセルの戸惑いとは裏腹に子どもたちは明るい表情で話に熱中していて、食卓の上にアクセルの切り分けるパンとハムの塊もなければ、誰も席にも着いていない。
「おはよう」
アクセルが声をかけると、ようやく子どもたちは気付いたようだ。振り返って、口々に挨拶が返ってくる。
「おはようございます、お父様」
「おはようございます、父さん」
「おはようございます、アクセル」
呼び方は違っても、血の繋がりがあろうがなかろうが、アクセルにとっては大切な子どもたちだ。
「あのさ。父さん、――」
「ランス」
嬉しさが耐えきれない少年がアクセルに何か伝えようとするのをウィレムが睨みつけて黙らせる。
「お父様。私・・・」
何か言いたかったのか、ノミナは言葉を探した。
躊躇うように目を伏せる仕草にアクセルは懐かしさをおぼえた。
「ノミナ?」
力付けるようにウィレムがノミナの肩に手を置く。
ノミナはウィレムの顔を見た後、意を決して父親に顔を向けた。
「私。元に戻れたみたい」
「ノミナ?! それは本当か?!」
「ええ。朝起きたら元に戻れていて・・・。もう、一時間以上経つのに、まだこうして話せるの」
「ウィレム?」
確認するようにアクセルが目を向けると、ウィレムは嬉しさで崩れそうなのを堪えた顔で頷く。
今までのパターンからノミナが元に戻ったかもしれない事実にアクセルの胸は高鳴り、感極まった声は震える。
「おかえり、ノミナ・・・」
ノミナは広げられた父親の腕の中に飛び込んで言った。
「ただいま戻りましたわ、お父様」
アクセルたちが母国を出て二カ月。観光とショッピングをしている以外は不機嫌なノミナに耐えていた家族たちの努力は報われたのだった。
十数年後、かつてウィ二フィール学園と呼ばれた高等教育機関は新たな国名を冠したエスター学園と改名した。
国王の後ろには国王の親族としてエスター伯爵とエスター伯爵令嬢と呼ばれた茶髪の女性がいた。国王はエスター伯爵の庶出の息子だったという・・・。
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